第2話:北への道 -4-
「勘弁してくれよ。この上、雨に打たれたら凍えちまう」
震えながらオウルは言った。
だが、ティンラッドの表情は固いままだ。
「雨ならいいがな」
いつもの冗談口でもなさそうだった。
「私は長年、海で暮らしてきた。海での荒天は命に関わるからな。雲の具合を読むことには多少自信がある」
黒い瞳で、まっすぐに曇天の空を見る。
「荒れるぞ」
オウルはとっさに、老いさらばえたロバを振り返った。
そして、何度も見た地図を思い出し、トーレグの町までの行程を思い浮かべる。
「どうする、船長。ここで夜を過ごして雨をやり過ごすか、それとも」
疑いはしなかった。ティンラッドの口調は自信のある人間のものだった。
大体、命なら既に彼に預けている。成り行き上仕方なく、だとしても。
「町までどのくらいだ」
「一日ってとこだね、このロバじゃ。地図が正しければの話だが」
ティンラッドは少しの間考えて、すぐに決断した。
「突っ切ろう。私のカンじゃあ、待っていてやり過ごせる天気じゃない。ロバが十分草を食べたら、出かけるぞ」
「分かった」
オウルはロバをくびきから外し、草のあるところに連れて行く。
ロバが草を食んでいる間に、まじないの準備をする。
雨除けの呪文、寒さ除けの呪文。
出発するまでにやっておくことは、山ほどあった。
ティンラッドは厳しい表情のまま、北の空をにらみ続けていた。