第16話:王城の戦い -9-
軋んだ、厭な音がした。広間が揺れたように感じられる。埃がぱらぱらと天井から落ちてきた。
「何だ?」
オウルは天井に目をやる。別段、何かが起こったようには見えないが。
だが、体は全身で警報を感じ取っている。
確かに何かが起きている。アベルが絡んで、何も起きないわけはないのである。世の中そんなに甘くはない。
「おい、陛下」
国王に問いかける。
「この広間に何か仕掛けはねえか」
「仕掛け?」
ルデウス四世は首を傾げた。
「何かこう。隠し通路があるとか、紐を引っ張ると何かが起きるとか」
「ルデウス一世陛下の御世に天才的な設計士が現れ、王城にいろいろな仕掛けを施したという伝説があるが」
ハルベルも主君に合わせて首を傾げる。
「陛下は何かお聞きになっておりませぬか」
「ルデウス一世陛下の御世に現れたガリウス設計士のことなら、私も亡き父上から聞かされたものだが。ほとんどがおとぎ話の類に思えたぞ」
国王は眉根を寄せる。
「おとぎ話でもなんでもいい」
不気味に響く軋み音に苛立ちながら、オウルは言った。
「この広間に関することは何かなかったか。コレ、絶対何か起こってるって」
兵士たちも襲い掛かるのはやめ、あちこちを見回したり、国王の言葉を待ったりしている。
「ううむ。そうだな」
ルデウス四世は眉間に指をあてる。
「そう言えば、この広間には釣り天井の仕掛けがあるとかなんとか」
「もっと早く言えよ!!」
国王に対して思い切りツッコんでしまったオウルだった。
もう一度天井を見上げる。
この広間の天井は高かった。だが改めて見ると、
「下がってる! 確実に下がって来てるぞ!」
オウルは自分の声がうわずるのを感じた。
「この部屋はヤバい! みんな、すぐに逃げろ!」
恐慌が起こった。
兵士たちは剣を捨て、我先に広間から逃げはじめる。
「陛下、お早く!」
ハルベルが声をかける。
「ダメだ」
ルデウス四世は言った。
「倒れている者たちを助けないと。私の臣下だ」
ティンラッドやバルガスにやられて倒れている兵士を、彼は助け起こそうとしていた。
「バカ、時間がない。いつあの天井が落ちて来るか」
そう言ったとたんに軋み音が一段とひどくなり、天井が目に見えるほどの勢いで下がった。
歯車が引っかかるような音がして動きは停まったが、天井は元の半分くらいの高さになっていた。
「古くてうまく動いていないんだな」
オウルは呟いた。
「だが、ホントにヤバいぞ」
次の瞬間、完全に落ちて来かねない。そうなったら残っている全員がひき肉だ。
「ダメだ。見捨ててはいけない」
ルデウス四世は頑固に首を振り、一人を肩に担いで立ち上がった。
「陛下」
ハルベルはその姿を見て声を呑み、
「分かり申した。助けましょう」
二人を引き上げ肩に背負った。
「アンタらなあ」
オウルは呆れた。呆れたが。
「おい、ロハス。立てよ、潰されちまうぞ」
しゃがみこんで震えているロハスの尻を蹴飛ばす。
「で、そっちの兵士の腕を持て。二人がかりで引きずれば何とかなるだろう」
倒れている兵士の腕を持つ。
「もう、ヤダよお」
ロハスは泣き声を上げた。
「なんか、この前からこんなのばっかり。オレ、抜ける。オレ、もうダメ」
「ここを出てから船長と話せ」
兵士の片腕を無理やりロハスにつかませて、オウルは冷淡に言った。
「面白いな! 仕方ない、私も手伝おう」
ティンラッドの笑い声が響いた。三人をかつぎあげている。
「バルガス。君も手伝え」
言われたバルガスは不服そうな顔をしながら戻って、セルゲだけでなく倒れているグロウルの体も肩に背負った。
「まだ人手が足りないな! 君たち手伝え。これは君たちの仲間だろう」
ティンラッドの声に、すでに広間の外に出ていた兵士たちは顔を見合わせ。
やがて数人が戻ってきて、まだ倒れている仲間を引き上げた。