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第16話:王城の戦い -8-


 がちゃがちゃと金属音を立てながらグロウルは崩れ落ちた。フードの男はそれを見て固まる。

 刹那、背中を向けて遁走しようとするが。

「遅いのだよ」

 バルガスの無慈悲な手がそのローブをつかみ、引き倒した。男の体は床に転がり、フードが外れて顔が露わになった。


 中年の陰気な顔の小男だった。

「ルガール師の塔で見た顔だな」

 バルガスは冷たく言った。

「塔で上に立てないからと陰謀に一枚かんだか。魔術師の都の闇もますます深くなっているようだな。どうやら君が首謀者のようだ。敗者は敗者として、その責任を果たしたまえ」


 セルゲと呼ばれた魔術師は逃げようともがく。

 バルガスは苛立つ。こういう相手を黙らすのはオウルの方が得意だ。生憎バルガスは、そんな小器用な術は知らない。

 何も言わずに彼は敵のみぞおちに蹴りを食らわせた。それでセルゲはおとなしくなった。


「終わったぞ」

 振り返ると、広間の中央ではティンラッドがまだ縦横無尽に大暴れしていた。

 大勢いた兵士も半分以下になっている。


「グロウルは倒れたぞ! 諦めておとなしくしろ」

 ハルベルが声を上げた。

「陛下に従わぬか、この馬鹿者ども!」

 彼の剣は容赦なく自分に向かってくる兵士たちを打ち倒していく。

 ハルベルは怒っていた。グロウル風情に踊らされ、国王に逆らうこの兵たちに。

 国王は自分の臣下だからと、向かってくる相手に決定的な打撃を加えられずにいるが。

 だからこそ、その分自分が彼らを倒さねばならない。そう思った。



 国王とハルベルに守られながら、オウルはずっと違和感を感じていた。

 今までは四方八方から襲ってくる兵士たちの攻撃を避けるのに精いっぱいで、その源についてじっくり考えることが出来なかったのだが。

 バルガスが首領格を仕留め、ティンラッドが兵力の多くを掃討し。

 統率者を失って迷いが出た兵たちの攻撃が精彩を欠くようになり、ようやく考える時間が持てる。

 そうなったら、すぐに結論にたどり着いた。


 ひとり、足りねえ。

 

 ロハスは横で縮こまっている。

 ティンラッドとバルガスは兵士の間で戦っている。

 だが。

 自分たちのパーティにはもう一人、仲間がいるのである。

 とびきりの危険人物と言っていい男が。



 思えば、戦いが始まった当初から彼の気配がなかった。

 魔力無効の術を展開するのに気を取られて、足止めの魔法をかけるのを忘れた自分をオウルは呪った。いや、いたらいたで邪魔なのだが、だからといって野放しになっているほど恐ろしいことはない。


「皆さん、頑張ってください!」

 広間の外の方から間抜けな声がした。

「私はここで応援しておりますぞー」


 件の男、何をしでかすか分からない爆弾にしてオクレ妖怪、神官アベル。

 彼は得意の逃げ足を発揮して、ひとり戦いの混乱の中から抜け出していたらしい。

 広間の入り口から顔だけ出してのん気な顔で高見の見物を決め込んでいた。

 

 あの野郎。後でシメる。

 オウルはそう思った。


「大丈夫です! 神のご加護は必ず正しい者に味方しますぞ!」

 とか言っている。腹立たしいことこの上ない。

 その口調が急に変わった。


「おや。何ですかな、これは。壁の割れ目の奥に何やら紐のようなものが。どうしてこんなところに。試しに引っ張ってみますかな」


 その声に、オウルの中の悪い予感が無限大にふくれあがった。

「やめろ、馬鹿。余計なことをするな……!」

 叫んだが。


 その視界に、古びた紐を両手で思い切り引っ張っているアベルの姿が映った。



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