第16話:王城の戦い -7-
「こ、この狼藉者」
グロウルが剣を抜いた。バルガスは表情を変えない。剣を持った兵士が数名、その背中へ襲い掛かろうとした。
すると。
ぐわっしゃん。
金属と金属がぶつかり合う凄まじい音が広間に響いて、兵士が一人その場に倒れる。すでに昏倒した別の兵士の体をティンラッドが持ち上げて投げつけたのだ。怪力である。
「バルガス! 背中ががら空きだぞ、油断だな」
大声で笑いながら、ティンラッドは残りの兵士に襲い掛かる。
先ほどまで交戦していた兵士たちは置き去りにされ一瞬ぽかんとしていたが、あわてて追いかけて彼を囲みにかかる。
だが、ティンラッドはそれをものともしない。流れるような動きで刀を振ったかと思えば、投げ飛ばし蹴り飛ばす。やはり嵐のようだ。
「背中を守ってくれる相手がいるのがパーティの戦闘というものだと理解していたが」
バルガスは振り返りもせずにそう呟き、無造作にグロウルに向けて剣を叩きこんだ。グロウルは何とかそれを受けたが、重い一撃に腕がしびれる。
「くそ。この男は魔術師のはずではないのか、セルゲ殿!」
背後のフードの男に向け、いらだたしげに問いかける。
「貴公の魔術で何とかならぬのか」
「今は……。この広間は攻撃魔法が無効化されていますゆえ」
セルゲと呼ばれたフードの男は、悔しげに答える。
このような攻撃をされるとは思ってもみなかったのだろう。バルガスは薄ら笑いを浮かべる。
個々の戦力差が大きく、単純に戦力として計算できない人間の多いティンラッドのパーティならではの戦法だ。
オウルは自分に出来る精一杯のことを、いつも考える。彼の本分は補助魔法と日常の場面で役立つような術だ。それを駆使して、オウルは戦いの場の条件そのものに干渉する。
敵に悟られてしまっては意味がない戦術であるから、それは常に相談なしの味方に対しても不意打ちの作戦であるが、ティンラッドはそれに難なく対応する。楽しんでいる風でさえある。
ここまでの道のりでバルガスもそれを理解した。
このパーティの戦闘の要は、オウルだ。彼の作戦にいかに乗れるか。それが成否を決定する。
彼が作戦を考えたり術を発動することが出来ない状態である時は、ティンラッドとバルガスが陽動してその時間を作ればいい。
グロウルの練られてはいるが実戦慣れしていない剣の相手をしながら、バルガスの薄ら笑いは苦いものに変わる。
複数の魔術師に囲まれていると知った時、オウルは即座にこの場の攻撃魔法を無効にするという手段を選択した。
魔術師に倍する兵士に囲まれていてもティンラッドならものともしないだろう。そういう読みがそこにはある。
そしておそらく、自分の剣の腕もその計算に入っている。
奇妙でいびつなパーティの、奇妙な信頼関係。それがバルガスには苦々しく感じられる。
そんなもの、自分には縁がないはずだった。
その怒りが目の前の相手へ理不尽にぶつけられる。
激しい音を立てグロウルの剣が折れた。愕然としてそれを見つめる相手に、バルガスは無慈悲に二撃目を入れる。手首を激しく打たれて敵は折れた剣を取り落した。それを蹴飛ばし手の届かない場所まで遠ざける。武器を失ったグロウルは青ざめて後ずさる。
「どうした、グロウル卿とやら。もう戦う気はないのかね?」
バルガスは冷笑する。
グロウルは唸り声のような音を喉から出した。
「ま、待て。私は国王の血縁だ。私の身に傷をつければ国王が何と言うか……」
目が泳ぐ。
その国王はグロウルの命によって動いている兵士たちに、広間の隅で囲まれている。
「知らぬな」
バルガスは言った。
「君の言うとおり私は狼藉者だ。この国の秩序など知ったことではない」
そうして、素早く相手の豪華な鎧の隙間に当て身を食らわした。
あっさりとグロウルは崩れ落ち、フードの男とバルガスは向かい合った。




