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第16話:王城の戦い -6-


 手ごたえはあった。

 張り巡らされた呪文の波に乗って魔力が広間全体に広がっていくのを、オウルは全身で感じ取る。

「成程。そう出たか」

 バルガスは肩をすくめて、ロハスから買った剣を抜いた。研ぎ澄まされた刃に彼の陰鬱な顔が映る。

「今日はこちらを使えと、君はそう言うわけだな」


「アンタら二人なら何とかなるだろ」

 オウルは忙しかった。次は防御呪文を唱えなくてはならない。

「なんとかしてくれ」

「ということだそうだ。船長、兵士たちは任せる。私は魔術師を捕らえる」

 そう言うとバルガスはひらりと身を翻し、兵士たちの列につっこんだ。

 たちまち剣劇の音が広間に響く。複数を相手にしながらも、バルガスの黒い目はグロウルが同伴したフードの男を見据えている。


「ちょっとちょっと。魔術師二人で何を納得してるの」

 ロハスが悲鳴を上げた。

「こっちは何が何だかわからないよ!」

「この広間での攻撃魔法行使を無効にした」

 オウルは短く答える。


 宿屋や酒場、神殿など人の集まる場所でケンカ防止のためよく使われている術だ。

 複雑だが、特別な術ではない。

 

 この場所にも本来、それが施されていた形跡はあった。だが何者かが無効化の術を破り、攻撃魔法の行使が可能になっていた。

 その手の魔法については、オウルは専門家である。すぐに見てとったから無効の術をかけ直した。それだけのことである。


「つまり」

 飛びかかってきた兵士の剣を、ティンラッドの刀が払った。

「力勝負ということか! 単純でいいな!」

 返す刀でもう一人の剣が跳ねあげられる。その腹を長い脚が蹴りつけた。兵士は周りにいた仲間を巻き込んで転倒する。


 その混乱を突いて、ティンラッドが躍り込んだ。

 刀を振り回し、時に素手で殴ったり蹴ったり。今までの鬱憤を晴らすように暴れはじめる。

 まるでつむじ風のように、次から次へと兵士がなぎ倒される。


「陛下。剣をお抜きください」

 襲い掛かってきた兵士の一人に斬りつけてハルベルが言った。

「私はグロウルを押さえます」

「いや。アンタはここで陛下を守れよ」

 オウルはあわててツッコんだ。

「言っとくが、俺たちは実戦では役に立たないぞ」

「そうそう。だからついでにオレたちも守って」

 ロハスが懇願する。


「安心しろ。あなた方には傷一つ付けさせない」

 若い国王はスラリと剣を抜いた。

 さすがに兵士たちは彼に襲い掛かるのはためらっているようだ。青い瞳がそれを睨み付ける。

「彼らは私の客人だ。臣下に剣を向けるのは本意ではないが、我が客人に無礼を働くものには相応の報いを与える。それでもかかって来るというなら、この私が相手だ」


「うわー。陛下、カッコいい」

 ロハスが感嘆する。

「待ってろ。今、追加の防護呪文をかけるから」

 オウルはもう一度、杖を構えた。

 

 がっしゃんと凄まじい音がした。

 国王用の背の高い椅子を、ティンラッドが持ち上げて兵士たちに投げつけたのだ。

 既に何人もの兵士が戦闘不能にされ広間に倒れ伏している。

 兵士たちは連携を取り数人がかりで襲い掛かろうとするが、ティンラッドはそれをものともしない。

 刀の一閃で数人の血しぶきが上がり、蹴りが放たれると確実にひとりが戦闘不能になる。


「その程度か! 国を守るのだろう、もっとしっかりしろ!」

 なぜか檄を飛ばしている。意味が分からない。


 バルガスの方はもっと手際よく事を進めていた。彼もティンラッドと互角に渡り合うだけの剣技の持ち主である。進路上にいる兵士を的確に倒しては、確実にグロウルたちへの距離を縮めていた。

 攻撃魔法の術を失った魔術師たちは困惑した様子で、何も出来ていない。

 無効の術は簡単に破られてしまっては意味がない類の術であるから、解呪の方法も複雑だ。術を施したオウル本人でも、一度効力を顕してしまったこの術を簡単には解けない。


「オウル君を侮ったのが仇になったな」

 バルガスが薄く笑った。

 その手は、グロウルの傍の魔術師に届くところにあった。

 


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