第16話:王城の戦い -4-
ルデウス四世はどういうわけだかティンラッドにすっかり心服してしまった。彼のことを立派な人物だと思い込んだ様子で、言うことにいちいち感心している。
アベルも紹介され、仰々しく大神殿の特使だと告げたが、
「さすがティンラッド殿。大神殿の神官さえ従えるのですな」
その権威もティンラッドの人徳に加算されてしまい、アベルは少々機嫌を損ねた様子だった。何しろアベルが何を言っても国王は、
「そうなのですか、ティンラッド殿」
と全部、長身の船長に振る。
そのため国王とアベルの会話は長続きしない。
「陛下。これからのわが国には大神殿との連携も必要ですぞ」
どちらかと言えばティンラッドよりアベルを国王に引き合わせたかったらしいハルベルの、イライラした声が飛ぶ。
どっちがマシかと言えば僅差で現状の方がマシだ、とオウルは思ったが。
国王がいぶかしげに、
「分かっている。だからパーティーの首領であるティンラッド殿とこうやって語り合っているのではないか。アベル神官がこの方に従っているということは、この方の意志は大神殿の意志にかなっているということではないのか」
と言うのを聞いて、この国王はものすごく聡明で相手の人間性までひと目で見抜いているのか、ものすごく天然で天賦の悪運回避力に優れているのかのどっちかだ、と思った。
国王のステイタスを観相鏡で見たいという誘惑に耐えながら、時間を過ごす。
ティンラッドの話などとりとめなく意味不明であるのだが、何が面白いのか国王はずいぶん長いこと話を聞いていた。
そのうちティンラッドの方が飽きて、
「もう話はいいだろう。やることがないなら私は帰る」
とまた言い出した。
「いや、お待ちください。私はこの城の周りしか知らない。もっと世界で起きている魔物の被害について教えてください。今宵はこの城にお泊りいただいて、もっと皆さんの話を聞かせてはもらえませんか。そしてアベル神官のご協力が得られるなら、町を守る封印というのものを四方に施していただきたい。王として私は民を守る義務がある」
「もちろんですな。しかし国王陛下。神殿に対して相応の礼を尽くしていただかないと」
手放しの賛辞が受けられなくて機嫌を損ねているアベルの対応は、ちょっとつっけんどんである。
目を白黒させている国王にロハスがこっそり耳打ちした。
「具体的に申し上げますと最高の料理とお酒、神官殿への給仕は色っぽい美女で」
「成程」
国王は不思議そうに首をひねったが、そういうものかと納得したのか、
「ではそのように。すぐに準備せよ」
と左右の者に言い付けた。
この国王、状況対応力に恵まれているのかもしれない。と再びオウルは思った。
その時。
「お待ちください、国王」
奥の方から声がした。
武装した兵士を引き連れた恰幅のいい四十がらみの男が現れる。伸ばした口ひげの先をひねり上げており、太い眉の下の大きな目は眼光鋭い。
「叔父上。どうなさったのです」
ルデウス四世は闖入者に驚いた様子だったが、それでも礼儀正しく対応した。
「こちらは私の母の弟、グロウル卿。叔父上、こちらは流浪の船長でティンラッド殿。ティンラッド殿は魔王を倒すため各地を回ろうと尽力なさっている方で……」
紹介の言葉をグロウルという男は鼻で笑い飛ばした。
「陛下。あなたは世間知らずすぎる。こんなどこの馬の骨ともしれぬ男を城に泊めるなど、正気の沙汰ではない」
手を挙げて連れて来た兵士たちに指示する。
「この者たちを捕らえて、町の外へ放り捨てよ!」
兵士たちが一斉に剣を抜く。
ハルベルが抗議した。
「グロウル卿。他の人間はともかく、アベル殿は大神殿の神官だ。失礼を働いては神殿との関係が悪くなるぞ」
いや、その言いぐさもかなり失礼だと思うが……オウルがその感想を口に出す暇もなく。
「どこにその男が大神殿の特使だという証拠がある? 失礼だが、そ奴はとても徳の高い神官という様子には見えんぞ。もしや本物の神官から神官服をはぎ取った追剥の類ではないのか。そう思った方がしっくりくる」
侮蔑の言葉と嘲笑が広間に響いた。