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第16話:王城の戦い -3-


「船長か。それは、珍しい」

 若い男は軽く眉を上げた。

「この都には海の話はあまり入ってこないからな。私はルデウス・バゼム四世。ソエルの王冠を戴く者だ」


「君が国王か。よろしく」

 ティンラッドは鷹揚にうなずいた。ハルベルが青くなる。

「陛下と呼ばんか! そしてひざまずけ!」


「どうして。私は彼とは初対面だし、別に臣従するつもりもない。卑屈になる必要はないだろう」

「そういう問題ではない。礼節をわきまえんか」

 怒鳴りつけられて、ティンラッドは退屈そうに耳をかく。

「そんなつまらない話しかしないのだったら私は帰る。君がここに来れば戦えると言うから来たんだ。国王しかいないし、彼が敵じゃないなら面白くない」

 そのまま国王に背中を向けて歩きはじめる。


「ああ、待って船長。まだ王様からお礼もらってないよ」

「そうですぞ船長。私の使命はどうなるのですか」

 ロハスとアベルが取りすがる。だがティンラッドは、

「残りたいなら君たちだけ残りなさい」

 とにべもない。


「まあ、待ちなさい。ティンラッド卿と言われたか」

 国王の声がした。

「私はまだ貴公とろくに話してもいない。私に見切りをつけるのは、それからでもいいのではないか。ハルベルは何か理由があって貴公を私に引き合わせたのだと思うが」


「へ、陛下。申し訳ありませぬ」

 ハルベルは頭を下げた。

「私の独断でこの者たちの力が使えるかとここへ連れてまいりましたが。よもや、ここまで礼儀をわきまえぬ輩だとは」

「気にしなくていい。彼が正しい。海の民は私の支配下で生きる者ではないからな。故なくして臣下の礼を求める権利は私にはないだろう」 


 その言葉でティンラッドは足を止め、振り返った。

「君はなかなか話が分かる男のようだな、ルデウスくん」

 ハルベルは泡を吹きそうになったが、ルデウス四世は微笑んで進み出た。

「まずは聞かせてもらおう。君はどういう男で何をしているのだ? この都の近くには海も湖も、それほど大きな川もない。水の上で生きる者の来るところではないと思うが」

「ああ、それなんだが」

 ティンラッドはこともなげに言った。若いとはいえ一国の王相手に酒場の給仕を相手にするような口調である。

「海に魔物が多くなりすぎて、船を動かす人数を集めるのも難しくなってしまった。だから、魔王とやらがいるならそれを倒せば魔物がいなくなるかと思ってね」


 ちょっとそこまで行って邪魔な木を切り倒してくる、くらいの言い方である。

 ルデウス四世は目を丸くし、それから訊ねた。

「魔王か。本当にいるのなら、そしてそれで世界が平和になるなら、ぜひやってもらいたいが。本当にいると思うのか?」

「分からない。だから探している」

 ティンラッドは不敵に微笑んだ。


 ルデウス四世は問いを重ねる。

「魔王を倒せば、世界が魔物から解放されると言えるのか?」

「それも知らない」

 ティンラッドはあっさりと答える。

「やってみるだけだ。やってみて何も変わらなければ、また別の道を探すさ」


 ルデウス四世は更に目を丸くして、それから朗らかに笑った。

「なるほど、面白い人物だ。なぜハルベルが貴公を私に会わせたいと思ったか、分かる気がする。もっと話を聞かせてくれ。パーティのお仲間も、紹介していただきたいな」

 そう言って気さくな様子でティンラッドに近付き、その手を取る。

 ティンラッドもあっさりと握手に応じた。


 広間は和やかな雰囲気になったが、苦虫をかみつぶしたようなハルベルの表情を見てオウルは思った。

 ハルベルがティンラッドを連れてきたわけは国王が思っているようなものではないし。

 今、国王が船長に抱いている印象も間違いなく誤解だろうと。

 だがまだ紹介もされていないので、あえてそれには口を出さないことにした。



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