第16話:王城の戦い -2-
石造りの城内は西の砦を思わせた。ここにも隠し通路のような仕掛けがあるのだろうか。オウルはそう思い、
「おいクサレ神官。お前、なるべく前だけ見て歩け」
とアベルに言った。
「何ですか、オウル殿。急に」
「いいからきょろきょろするな」
この城の中であちこち触って変な仕掛けを起動させでもしたら、間違いなく面倒な話になる。
そう思うと、前を行くハルベルと同じくらい暗い気持ちになるオウルだった。
兵士が警護しているひときわ立派な扉にたどり着く。
「ここが謁見の間だ。くれぐれも陛下に失礼がないように」
ハルベルが念を押す。よほど心配なのだろうとオウルは少し同情した。だが、それは無用な心配だ。
残念ながら、この顔ぶれで何事も起きないはずがない。それだけは確信できる。
ゆっくりと扉が開いた。
天井の高い、窓の多い広間だった。西方産の毛の長い敷物がまっすぐに正面へ向かって敷かれている。
敷物は古い物らしく、かつては鮮やかだったろう色はくすみ、ところどころほつれて修理されたあとがあった。ハルベルはその上を進んでいく。
正面にしつらえられた椅子から十五歩ほどのところで彼は足を止め、その場に片膝を立ててひざまずいた。
「我が王よ。ハルベル、ただ今戻りましてございます」
その声は、がらんとした広間に大きくこだまする。椅子に座っていた人物がぴょこりと立ち上がった。
まだ若い男だった。赤身がかった金色の髪を短く刈り込んでいる。オウルと同じくらいか、少し年下かもしれない。古びているがきちんとした身なりをしている。
「ハルベル、よく戻った。無事戻ってくれて嬉しい。不思議なお守りとやらは手に入ったのか?」
やわらかい、年の割には深みのある声が言った。
「はい。ここに」
ハルベルは懐から出した包みを玉座の左右に控える侍従に渡した。
侍従たちがもったいぶった態度で袋を開ける。中にはヒカリゴケのお守りが六つ入っていた。
「そうたくさんは取れないとのことで、今回はそれしか手に入らなかったのですが。春までにはあと七つ譲ってもらえるよう話をつけてきました。まずは陛下と、王族の方に身に着けていただきたい」
ロハスが後ろで、
「お買い上げありがとうございます」
と明るく言った。
その声がやけに大きく、間抜けに広間に響き渡った。
「その者たちは?」
若い男が不思議そうに首をかしげた。
ハルベルは困った顔をする。
「は。後ほど紹介いたそうと思っていたのですが」
その目がどちらを先に紹介しようかと迷うようにティンラッドとアベルを行き来する。
オウルはハルベルを軽く突っついて、目顔でティンラッドを指し示した。ここでアベルが先に紹介されでもしたらお調子者の神官がどんなに思い上がるかか知れたものではないので、オウルも必死である。
その思いが通じたのか、ハルベルは深くため息をつき。後ろで突っ立ったままのティンラッドを紹介した。
「トーレグの町で評判のパーティをお目通りさせるべく連れてまいりました。船乗り、ティンラッド殿とその仲間たちです」
「私は船長だ」
ティンラッドが間髪入れず訂正した。
早くも波乱の予感がした。




