第16話:王城の戦い -1-
数日後、ハルベルと共に一行はソエルの城下町に入った。
オウルにとっては二年暮らした町である。懐かしいと言うほどではないが、ホッとするものはあった。
城門をくぐり、王城へ続く大通りをまっすぐに進んでいく。
門の近くには下町が広がり、そこを抜けると裕福な商人や職人たちの住む一帯へ入る。そして城の一番近くには兵士の宿舎や高官の邸宅がある。
オウルはほとんど下町から出たことがなかったから、お屋敷街は目新しかった。
大通り沿いには町の人々が並んで『大神殿の特使さま』をひと目見ようと押し合いへし合いしている。
「大した人気だな」
バルガスが莫迦にしたように言った。
「手でも振ってやったらどうかね、アベル君」
「ダメですな」
アベルはにべもない。この男にしては不愛想な表情で、ひたすら前を向いて歩いている。
「神殿の権威は安売りするようなものではないのです。善男善女の神を崇める気持ちは貴いですが、大神殿の特使たる私はだからこそ人々に媚びることなく威厳ある態度を貫かなくてはなりません」
オクレ妖怪だったくせに何を。そうオウルは思った。
「それで、魔物はいつ出るんだ」
ティンラッドがせっかちにハルベルを突いた。
「早く出したまえ」
「私が出すわけではない!」
ハルベルが憤慨して言い返す。
たった数日一緒に旅しただけで、ハルベルはもうティンラッド(とその仲間たち)に辟易している様子だった。
ちなみに盗賊団が城下を襲った時にティンラッドが勢い余って兵士とも大乱闘を起こしたことについては、二日目の夜に思い出した。
「そうと分かっていたら声などかけなかった。今からでも帰れ。不逞の輩に用はない」
とハルベルは怒鳴ったが、もちろんそんなことでティンラッドが停まるはずはない。更に、
「だってハルベルさん、契約書に署名しましたよねえ? 王様に拝謁したら一人十ゴルくれるって。違約した場合は倍額の賠償金を払うことになっておりますが、そこのところどうなさりますか」
などと書面を持って迫るごうつく商人もいる。
「ああ。こんな者たちを城下に引き込んでしまって、私は陛下にあわす顔がない」
がっくりと肩を落とすハルベル。
「だから言ったよな。アンタが自分で来いって言ったんだから、諦めな」
オウルは、そうとどめを刺した。
ハルベルの顔を確認し、兵士たちが城門を開ける。城の周りを囲む濠を越える石橋を渡り中へ入る。
「警備隊長、おつかれさまです。旅はいかがでしたか」
兵士の一団が寄ってきて両脇を固め、ハルベルに語りかけた。
それにハルベルは、ああと暗い顔でうなずく。
「そうだな。まるで死刑台へ登っていくような旅だった」
しみじみとため息をつく副隊長に、兵士たちは怪訝そうな顔をした。
「陛下がお待ちです。すぐに謁見の間へ」
侍従の声に、ハルベルはうなずいた。
その後ろ姿は、確かに死刑台へ向かう囚人のようだった。