第15話:再び城下町へ -2-
「君たちがこの町を救ったと町長から聞いたが。本当かね」
ハルベルはそう言って、オウルを、そしてティンラッドを見た。
その視線にはそこはかとなく疑念を感じる。『こんなしょぼいパーティが本当に?』みたいな視線である。
「一応、そういうことなんですけどね」
少しムッとしてオウルは答えた。先程のティンラッドの応対ぶりでは無理もないかもしれないが。オウルがハルベルだったとしても、ティンラッドと話をすれば怪しく感じるだろうが。
それでも疑われるのは気分がよくない。
「イヤ、失礼。疑っているわけではないのだが」
ハルベルは言葉を濁す。
嘘つけとオウルは思う。間違いなく疑っていた。
「今は、大神殿からの特使殿と一緒に行動しておられるとか。その方は魔物を人里に近付けない術を身に着けていらっしゃるという。それも本当か?」
「本当ですぞ」
アベルがすかさず口を出した。
「ちょっと黙ってろ」
オウルはアベルを肘で小突いた。アベルがしゃべり出すと話が七割増しでうさんくさくなる。とりあえず今は口をきかないでいて欲しい。
「確かに、このアベルはそういう術を使える」
オウルは言った。
いつまで効果がもつか分からないとか、けっこうな確率で失敗するとか、術者の性根がクサレているとか、その辺についてはとりあえず口をつぐんでおく。
「それが何か?」
「決まっている。それが本当なら、我が城下に来ていただきたい」
ハルベルは重々しい声で言った。
「城下には国王もおられるし、城下は東方で最も人口が多い。もちろん我々警備隊が常に魔物や盗賊団に対して警戒をしているが、大神殿の加護がいただけるならそれに越したことはない」
なるほど。オウルは納得する。
確かに、実態を知らなければどこの街でもアベルに来てもらいたがるだろう。
「それって。行ったら、王様からお礼はどのくらい」
ロハスが瞳を輝かせて口を出す。
「お前も黙ってろ」
オウルはロハスを押しのけた。
そのドタバタを胡散臭げに眺めながら、ハルベルは重々しく言った。
「それに、大神殿の特使などそうそういらっしゃるものではない。ぜひ陛下に拝謁していただきたい」
「当然のお考えですな。そういうことでしたらもちろん」
アベルがまたしゃしゃり出てくる。
「だから黙ってろ。決めるのは船長だよ」
オウルは全力でそれを押し戻した。
「しかしですな、オウル殿。大神殿の特使として、国王陛下にお目通りするのは当然の義務ですぞ」
「それはそれ、これはこれだ。お前が決めるのは筋が違うって言ってんだよ」
オウルはティンラッドに顔を向ける。
「どうする、船長」
ティンラッドは眠そうに眼を開け、むにゃむにゃとなんだか意味の分からないことを呟いた。
「少しよろしいか」
代わりに横手から声がする。バルガスだった。
「城下の警備隊長殿とうけたまわったが。まだ我々に話していないことがあるのではないかね。アベル君はまだ、貴公に対して大神殿の特使たる証を何も立てていないが。そんな得体のしれない人間を国王に会わせると確約してしまっても良いのか? 急いで我々を連れて行きたい理由があるなら、今のうちに話していただきたいものだな」
とたんにハルベルが渋面を作った。
「何だよ。当たりかよ」
思わずオウルは素でツッコんでしまう。
「おい、警備隊長殿。裏があるなら話すのが筋だぜ。ハッキリ言えよ」
灰色の目でにらみつける。
ハルベルは少し黙り込んだ後、観念したように口を開いた。