第15話:再び城下町へ -1-
日が暮れる少し前に町に戻った。宿屋の扉をくぐると主人が顔を出す。
「ロハスさん。アンタたちに会いたいって人が来てるよ」
この町に一番長逗留していたのはロハスなので、何かというと彼が窓口になる。
「誰?」
ロハスは首をかしげた。
「旅の人だ。この町の人間じゃない」
主人は言った。
「立派な甲冑を付けた兵士さんなんだが。ソエルの城下町から来たとか」
「ふーん」
ロハスは呟いて振り返る。
「だって。船長。どうする?」
「いいんじゃないか。会ってみよう」
ティンラッドは即断した。こういう辺り、この男の反応は動物的だとオウルはいつも思う。
深い考えがあってのことか、単なる気まぐれなのかさっぱり分からない。
件の男とは、夕食の席で一緒になった。
宿の主人が言ったとおり、立派な甲冑を付けた体格のいい中年男だった。顔や手、甲冑にも傷跡がある。見た目だけではない、歴戦の勇士だと感じさせた。
「お初にお目にかかる。私はソエル城下で警備隊長を務める、ハルベルと申す者」
どこの馬の骨ともしれぬ旅人に礼を尽くした挨拶をする。その挙措に人柄が感じられたが。
オウルはあわてて顔をそむけた。
「どうしたオウル。知り合いか?」
まったく空気を読まずに声をかけてくるティンラッド。
「何、偉そうにしてんだよ、船長。確かに知ってるが、あくまで一方的にだ。向こうは俺のことは知らねえ」
オウルは小声で返す。
「城下の警備隊長だぞ? 有名人だよ。偉い人だよ。国王の側近の一人だよ。ついでに」
更に声を低める。
「盗賊騒ぎの時にアンタが勢い余って喧嘩した相手だよ。褒美の銀貨をもらう時、すごい仏頂面してただろうが。忘れたわけじゃないだろうな」
「忘れた」
ティンラッドはあっさりと言った。
「そうか。初対面ではないんだな」
「初対面みたいなもんだよ! むしろ忘れてもらえ。そして初対面として対応しろ」
こそこそ言い合っている二人をハルベルは訝しげに眺め、それからティンラッドの顔をつくづくと見た。
「はて、見覚えがあるような。どこかでお会いしただろうか?」
首をひねる。
ティンラッドは目立つのだ。長身だし、顔立ちも整っているし、何より態度が大きくて気ままなので、悪い意味で。
「いや! 俺ら城下にいたことがあるから、それでじゃないですかね」
オウルがあわてて誤魔化す。
「城下に?」
ハルベルは余計に怪訝な表情になった。
「大神殿からの使者と聞いたが。私の聞き間違いか?」
「あー、いや。城下にいたのは俺とこの船長だけで、後は道々集まった仲間で」
焦ったオウルの説明に、
「その通り。この私が大神殿から派遣された特使、三等神官のアベルと申す者ですぞ。私に御用かな」
というアベルの自己紹介がかぶる。
初めに店主からロハスを紹介されただけのハルベルは、誰を相手に話したらいいのか困ったように一座を見渡した。
「あー、おほん。君たちはパーティなのだな? 責任者は誰なのかね」
「私だ。名はティンラッド。職業は船長」
ティンラッドがぞんざいに返事をする。王の側近相手にいい態度である。
ハルベルが目を白黒させているうちに、
「残りは私の仲間たちだ。オウル、魔術師。ロハス、商人。アベル、神官。バルガス、魔術師。話があるならオウルとしておいてくれ」
と勝手に紹介を済ませ、長椅子にもたれかかって目を閉じてしまった。
ハルベルの目がオウルに注がれる。勝手に窓口に指名されたオウルは、
「えー……。あー」
しばらく対応に困ってから、肚を括った。確かに、他にまともに話が出来そうな人材がいない。
ティンラッドとアベルは自分のペースでしか話さないし、バルガスにはそもそも人と話す気がないし、ロハスは愛想はいいが話が金に流れる。
「警備隊長さん。俺らにいったい何の用ですかね」
あきらめた彼は、精一杯堂々とした態度で訊ねた。