第14話:封印と魔法陣 -7-
言い合わせていた三叉路に、三人はびしょ濡れの姿で戻った。ロハスは一人で立つことが出来ず、オウルもフラフラ、ティンラッドだけが元気がいい。
そんな有様に、
「いったいどうしたのですか」
アベルがビックリした様子で三人をじろじろ見る。
「オウルに殺されかけた」
つぶやいてばったりと倒れるロハス。
「人聞きが悪い」
オウルは顔をしかめる。
「地響きが聞こえたが。何があったのかね」
バルガスがオウルとティンラッドを等分に見る。
オウルは嘆息して、手短にあったことを伝えた。
「危険だと分かっていてわざわざ踏み込み、落盤を引き起こして自分も仲間も殺しかけたと」
バルガスは冷笑した。
「そういうことかね、オウル君」
「確かめたいことがあったんだよ」
オウルは不機嫌に横を向く。
バルガスはため息をついた。
「研究室までの通路には我が師の地鎮めの呪文がかけられているから、簡単に落盤が広がることはないと思うが。一応、補強しておこう」
「お願いバルガスさん。ついでにヒカリゴケの洞窟に行く道も。あそこが使えなくなるとトーレグの人たちの生活が……。オレの投資がムダになる……」
その瞬間だけ、なぜか顔を上げハッキリと言うロハス。
コイツ、ホントは元気なんじゃないかとオウルは思った。
「やっておこう」
バルガスは無表情に言った。
「先に行きたまえ。私は後から追いつく」
「また、流派の秘密ってヤツかよ?」
オウルがとげとげしく言うとバルガスは肩をすくめ、
「そう取ってもらって結構」
と返した。
洞窟の外に出て、麓まで降りたところで四人は体を休めた。
オウルたち三人は濡れた着衣を脱いで着替える。
それを川でゆすいで干す役はアベルに割り当てられたが。
「あっ、申し訳ない! オウル殿の下着を川に流してしまいましたぞ!」
役に立たない。立たないというか迷惑千万である。
「もういい。俺がやる」
オウルは腹を立てながらアベルを押しのけ、三人分の着衣を洗った。
不機嫌最高潮でティンラッドの下穿きを干しているところに、バルガスが追い付いてきた。
ティンラッドは上半身裸のまま、のんびりとシタールを奏でている。
ロハスは体を丸め、アベルが具合を見ている焚火の傍で横になっていた。
「のんびりしたパーティだな」
バルガスはその様子を見て評した。
「旅はその方がいいだろう」
ティンラッドはのん気に応える。
「仕事は終わったのか、バルガス」
バルガスは無言でうなずき、火の傍に座った。
「仲間殺しの魔術師殿は、ずいぶんと家事をする姿が似合っているな」
背後から皮肉が飛んできて、オウルは思わず振り返って相手を睨みつけた。
「うるせえな。クサレ神官に任せたら、ロクなことがないから仕方なくやってんだ。もっと使える仲間がいたらこんなことしねえよ」
「失礼な」
アベルが眉を上げた。
「そんなことはありませんぞ。いいですかオウル殿。川に流れがあるのは仕方のないことではありませんか。それは自然の理です。となれば、その水に流されてオウル殿の下着が流れていくのも当然の摂理」
「ホラ。使えねえんだよ、ホントに」
オウルはげんなりして物干しに戻る。
「何をおっしゃいます、私はこうして火の番を立派に勤め上げているではありませんか」
不満そうにアベルが火をかき混ぜたとたんに焚き木がはぜて、火の粉がロハスの顔にかかった。
「うわ、あっちぃ! オレのキレイな顔が火傷する!」
大騒ぎになった。
やっぱり使えねえ、とオウルは心の中で思った。