第14話:封印と魔法陣 -4-
魔力で板の隙間やひびを埋め固定する。全体に水除けの呪文もかけた。
一時しのぎだが、行って帰ってくる間だけもてばいい話だ。途中であやしくなったら、追加で呪文を唱えればいい。
ロハスから受け取った長い棹はティンラッドが持った。
小舟に乗り込むのをロハスは最後まで渋っていたが、二人がかりで無理やり引っ張りこむ。
古びた小舟はゆっくりと暗い水面の上にすべり出した。
「案外、浅いな」
棹を操りながらティンラッドが呟く。
「この前まで地面だったところだからな」
オウルは答えた。
生き物の気配がない水の上を進んでいく。
ティンラッドが棹を一押しするたびに、舟は大きく揺れた。
「うわあ、これ、ひっくり返らないのかな。沈まないのかな」
ロハスは気が気でない様子だ。
「知るか。お前が出した舟で、お前が大丈夫だって言ったんだ」
「呪文をかけたのはオウルじゃんよ。ねえ、ホントに大丈夫?」
「舟自体が途中で解体しなけりゃな」
オウルは冷たく答えた。ロハスは青くなる。
「ここだけの話だけど。実はオレ、泳げないんだ。どうしよう」
「知るか!」
ロハスはしきりにお祈りを唱え始めた。どうも彼はこの場所に来ると祈ることになる巡りあわせらしい。
とはいえティンラッドが操っている棹の濡れ方を見たところ、深さはせいぜい腰までといったところのようだ。最悪の場合でも濡れながら歩いて帰ってくれば済む。どうでもいいので黙っていることにしたが。
「オウル。君が行きたいのはこっちでいいのか?」
ティンラッドが尋ねた。
「ああ。もう少し左に行けるか、船長」
「流れがないからな。簡単だ」
舟が進路を変える。その動きは堂に入っていて、オウルは感心した。
「本当に船乗りだったんだな、アンタ」
「何だ。君は疑っていたのか」
「いやあ、だってよ」
こんな内陸で船長だのなんだの言われても、だからどうしたという感じだったのである。これまでは。
だが棹を握ったティンラッドは器用に小舟を操っていく。船の揺れも彼には何でもないようだ。(ロハスは必死で舟べりにつかまっているが) オウルは素直に立派なものだと思った。
「静かすぎて物足りんな。魔物でも出ないかな」
こういうことを言い出すまでの話だったが。
「ヤメテ。船長、ホントにヤメテ。お願いだから勘弁して」
ロハスが弱々しく言った。
棹を差すたびにちゃぷんと小さな水音がし、小舟は舳先で水を切って進んでいく。時々舟が傾いて、船べりをつかむ手が濡れる。
少しして、小舟は岸壁にたどり着いた。
氷の巨人が体当たりしたその場所は、今も崩壊の後を生々しくとどめている。
「あまり近寄らない方が良さそうだが」
ティンラッドは少し離れたところで棹を止めた。
「崩れてきそうだ」
「もうちょっと寄れねえか、船長」
オウルは言った。
「少しの間でいいんだ。あの岩をそばで見たい」
「もういいじゃん。オウル、前にもあそこを調べてたじゃない」
ロハスがひいひい言う。
「確認したいことがあるんだよ。これで帰ったんじゃ、なんのためにここまで舟で来たんだか分かんねえじゃねえか」
ティンラッドはふうむとあごを撫でる。
「やるだけやってみるとするか。二人とも用心しなさい」