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第2話:北への道 -2-

「ダメだな。気にくわない」

 どんな勇士を連れてティンラッドに紹介しても。

 その一言で、彼の「船長」は却下してしまうのである。

 しかも、その理由はと言えば。


「顔が気にくわない」

「そのひげが嫌だ」

「つまらん」

 などなど、理由になっていないものばかり。

 その間、本人は酒を飲みながら、酒場のカワイイ女の子と顔をニヤつかせてだべっている。


「おい、船長。ちょっとは真剣になれよ。自分の命がかかってるんだぞ?!」

 つい、オウルの声も高くなってしまう。

「知らん。仲間なら君がいる。そんなわけのわからんヤツらを連れて行こうとする君が悪い」

「だから俺は、攻撃魔法は使えなくて役に立たないって言ってるだろうが!?」

 オウルは癇癪を起してわめくが、ティンラッドは知らんぷり。

「仕方ないだろう。どいつもこいつも面白くなさそうなヤツばかりだ。そんなヤツらと顔を突き合わせて旅をして、何が楽しい」

「楽しいの、楽しくないのの問題じゃねえんだよ、なんでそれが分かりませんかね、この船長さんは……!」

 オウルの堪忍袋の緒が完全に切れかけた時。


「おい、兄さんよ。黙って聞いてりゃ、好き放題言ってくれるじゃねえか」

 オウルが目を付けた戦士の一人が、ずいと前に進み出た。

 その後ろに、今までティンラッドに「不採用通知」を突き付けられた戦士・魔法使い・神官がずらりと並ぶ。

「そっちから声をかけておいて、人をぼろくそに言うとはどういう了見だ。ケンカ売ってるのか」


「い……いや、悪かったよ」

 オウルは何とか場を収めようと下手に出る。

「うちの船長は気難しいんだ。俺は、アンタたちには不満はないんだが」

「お前にゃ聞いてないんだよ、三下」

 戦士は、オウルを押しのけた。

 やせて小柄なオウルは、簡単に引っくり返される。

「そっちの船長さんとやらに話があるんだ。ええおい、えらく威張りくさっているが、船乗りが陸に上がって何が出来る?」

 剣を抜く。


 ティンラッドはつまらなそうに男たちを見た。

「私は仲間など募集した覚えはないからな。オウルが勝手にやったことだ、そっちと話をつけたまえ」

「ああん? そのクズ魔術師は、お前の手下だろうが。手下のやったことを、頭が知りませんじゃあ、話にならねえ。そう思わんか?」

 ティンラッドは女の子から渡されたラム酒のグラスを眺めて、ちょっと考えた。

「なるほど、確かにそうだ。オウルは私の仲間だ。仲間のやったことにはケジメをつけなくちゃいけないだろうな」

「話が分かるじゃねえか」

 戦士はニヤリと笑った。

「ということで、死ねや、この野郎!」


 剣が振り上げられる。

 ティンラッドは相変わらず退屈そうに酒を飲み干し、戦士の振り下ろした剣をひょいとよけた。

 刃は厚い木材の机に食い込む。

 それを抜こうとしている男のひげ面に、思い切り拳が入った。


 スキル「ひっさつ」。放つ攻撃、全てが会心の一撃となる一発で、剣士は崩れ落ちた。

「野郎っ!」

 他の連中が、一気にティンラッドに襲いかかる。


 ヤバい、とオウルは思った。

 ティンラッドは強い。だが。相手は人数が多い。

 加えてティンラッドの装備は「渡り鳥のシタール」のみだった。

 いや、彼はシタールを武器として使う気がないので、実際は徒手空拳。

 楽器がある分だけ、邪魔だ。


 酒場には、こんなケンカが起きた時のために攻撃呪文を無効にするまじないがかけてあるから、魔術師たちは大した脅威にならないだろうが、彼らも殴ったり蹴ったりは出来る。

 何人かに取り囲まれてしまったら、いかにティンラッドでも手も足も出ないのでは。

 それを心配した。


 とっさに彼は、月桂樹の杖を酒場の床に向け、

「船長、足場!」

 とだけ叫んだ。

 続けて、意識を集中する。頭の中に、呪文を発動させるための術式を構築する。

「レスバロン!」


 呪文と共に、杖の先から光が発した。

 酒場や神殿では攻撃呪文は使えない。

 だが、攻撃呪文でなければ……話は別だ。


 ティンラッドに襲いかかろうと足を踏み出した戦士がよろけた。

 その後ろの拳闘家も、不様に転ぶ。


 呪文「レスバロン」。対象の摩擦係数を下げる呪文だ。

 本来は大きなものを運んだりする時に使用するものだが、今、床に向かってかけられたそれは。

 酒場に立っている全ての人の足元を危うくし、ロクに動けなくさせている。


 後は、自分に向かって防御力強化の呪文をかける。

 オウルは自分の手足を使ってのケンカも苦手である。

 殴りかかられたら、一発で倒される。

 後はこのまま逃げるが勝ち、と言いたいところだが。


「ふうむ。これは面白いな!」

 逃げる気など全くない人が、一人。


 オウルの声に反応して、ティンラッドは素早く机の上に飛び乗っていた。

 そこから、ひらりひらりと別の机や椅子に跳び移っては、ケンカを吹っかけてきた相手に跳び蹴りを食らわし、次々に倒していく。

 長身なのに身が軽いのは、船で鍛えたためだろうか。


「船長、逃げようぜ」

 オウルは気が気でない。

「逃げる? 何で逃げるんだ。面白いぞ、君もやってみろ」

 ひょいひょいとそこらを飛び回りながら、ティンラッドは楽しげに客たちを倒していく。

「面白くねえよ。ずらかるためにやったんだよ、いい加減にしろよオッサン!」

 癇癪を起こすが、もちろんそんな言葉をティンラッドは聞いていない。


「この、魔術師め。床を元に戻せ!」

 代わりに、法服のすり切れた神官くずれの男が殴りかかってきた。

 剣士に比べれば体格が劣るものの、オウルに比べたら骨格も筋肉も隆々としている。

「ひええええ!」

 オウルは情けない叫び声をあげた。

 逃げようとした拍子に、自分の術に足を取られて引っくり返る。

 それが幸いして、相手の拳は酒場の壁にぶち当たった。

「痛ぇ! この野郎!」

 更に怒りを増して襲いかかって来ようとする男のあごに。


 ティンラッドのつま先が食い込んだ。男は倒れ込む。

「ひどい叫び声だな、オウル! そんなことではこの先やっていかれないぞ!」

 何が楽しいのか、高笑いするティンラッド。

 それに対して。

「うるせえ。だから俺は、戦闘には役に立たないって言ってるだろ」

 何度目かのむなしい自己主張をするオウルであった。


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