第14話:封印と魔法陣 -2-
バルガスの希望で、翌日は例の洞窟に遠征することになった。
「魔物は出ないんだろう。だったら私はこの町で酒でも飲んでいるよ」
例によって、ティンラッドは戦いがないとなるとさっぱりやる気がないが。
「イヤ、出たら困るし! というか、まだ雪グマとか雪オオカミとかは森でフツウに出るから。あと、あの氷の魔人が復活してたら怖い」
というロハスの説得に加えて、
「船長殿が残られるなら私もここに。私の神言は民のためのもので、人も通わぬ洞窟などに施すものではありませんからな」
とアベルが言い出し、
「露骨に逃げようとすんな! パーティーは一蓮托生なんだよ、グダグダ言わないで一緒に来い」
とオウルがキレたことで、何となく全員で行く流れになった。
一帯が雪に閉ざされていた時には一日がかりだった行程も、今回は三時間ほどで終わる。
途中で何度か魔物に襲われたが、ティンラッドが造作もなく倒した。やはり戦闘の時だけは生き生きとしている。
そういうわけで戦闘自体は時間がかからなかったが、今回もロハスが魔物の毛皮を取ることにこだわったため、その始末に時間を取られた。
「うわあ。なんか懐かしいね」
洞窟の入口とタラバラン親子の小屋を見て、ロハスが言った。今回は泊まる必要がないので鍵は借りて来ていない。
「この辺りの雪もずいぶん融けたな」
オウルは景色を見回して言う。
前回は何もかもが雪と氷に閉ざされていたが、今は晩秋の風景だ。
「もう魔物はいないのか。つまらないな」
ティンラッドが退屈そうに不平を述べた。
「そんなに何回もあんなのに出られちゃたまらないよ」
オウルは不平を返す。
「ほら、さっさと済ませちまおうぜ、お前ら」
小屋を後にしながら、オウルはふと何かを忘れているような気がして振り返った。
だが石造りの煙突と木で出来た屋根と壁を見つめても、何も思い出すことが出来なかった。
洞窟の中も以前ほどの寒さはなかった。
相変わらず洞窟コウモリや白ヘビ、目無しトカゲは襲ってくるが、ヒカリゴケのお守りの効果で近くには寄ってこない。
「成程。便利なものですな」
お守りの効果に改めて感心したようにアベルが言う。
「当たり前だよ。それをタダで提供してやってるんだからもっと感謝してよね。バルガスさんもさ」
ロハスは偉そうに言う。
「考えておこう」
バルガスは軽く流した。
「考えておきましょう」
すかさずアベルが尻馬に乗る。
「今度からお金取ろう。仲間でもお金取ろう」
その対応で、ロハスが何やら新たな決意を固めていた。
洞窟の三叉路にさしかかる。
何の疑問もなく、魔術師タラバランの研究室があったという真ん中の道を取ろうとした時。
「待ちたまえ。君はダメだ、オウル君」
バルガスから制止の声がかかった。オウルは振り返る。
「ああ? 何だよ先達」
「君はダメだと言ったのだ」
バルガスは薄ら笑いを浮かべて繰り返した。
「ここで待っていたまえ。君を連れて行くわけにはいかない」
「何でだよ?」
オウルは憤慨した。
「船長やごうつく商人やクサレ神官は良くて、俺はダメなのかよ。どういう魂胆だよ」
「考えれば分かると思うが。君が魔術師だからだ、オウル君」
バルガスは冷たく言った。
「君も都にいたのなら分かるはずだが。魔術は師弟の間で内密に継承するものだ。船長やロハス君、アベル君はあの部屋を見ても何も分かりはしないだろうから、問題ない。だが君は違う。封印構築一つをとっても我が流派の秘密を見知ってしまう可能性がある。そんな人間を連れて行けると思うかね」
歯をむき出し獰猛に笑う。
「何だそりゃ」
オウルも苛立ちを隠せない。
「じゃ、アンタこれから自分が術を使うたびに、俺にどっか行ってろって言うつもりかよ」
「そんなことはない。パーティの仲間として戦う時は別の話だ。だが今日のことはあくまで私の個人的な用事だ。そこにまで君を同伴する義務はない」
「勝手にしろ!」
オウルは完全にへそを曲げた。
「いい。それなら俺は俺で確かめたいことがある。この三叉路で待ち合わせだ。好きにしろ」
背中を向けて歩き出す。
「あー、オウル。待てよ、オレも付き合うから」
ロハスが追ってきた。
オウルの肩を叩き、足を止めたところで振り返る。
「船長も来てよ。オレとオウルじゃ何か出たら対応できないもん」
「それでは私はバルガス殿について行きましょう」
すかさずアベルが言った。
アイツ。あっちの方が強いと踏んだな。そう思ってオウルは更にイラッとしたが。
振り向いてバルガスの顔を見るのも腹が立ったので、そのまま前に進んだ。