第14話:封印と魔法陣 -1-
その夜は宿屋に帰って眠った。
この町に滞在する間は『町の恩人特権』で宿泊料が一切かからないので、ロハスは機嫌がいい。
翌日からは町の四方に封印を施すためアベルが働き始めたが。
そこでオウルは、シグレル村でも繰り広げられたであろう惨劇を目にすることになった。
「私の神言で魔物の害は永遠に取り除かれるでしょう」
大口を叩き『大神殿の特使』の名を振りかざして町の神官に最高待遇を要求するアベル。
その上、
「一世一代の見ものだよ! 見ないと損! 大神殿の神官様が魔物除けの神言をこの町にかけてくださいますよ。見物料は一人一シル!」
わざわざ町民たちを集めて興味を煽り立て、金を搾り取ろうとしているロハスもいる。
「おい。これで失敗したらどうすんだ」
オウルは顔から血の気が引く思いがした。
「先達。アンタの術で成功確率を上げるとか出来ねえのかよ」
バルガスをつっつく。
「生憎、そんな都合のいい術は知らんな」
バルガスは冷たく答えた。
「そういう分野なら君の方が得意なのではないかね?」
「俺だってそんな都合のいい術知らねえよ」
オウルはイラッとする。
シグレル村では三回失敗したと言っていたか……やはりアベルの術はいい確率で失敗するのである。
それで平然と帰ってくるあの二人は、どうしてそんなに神経が太いのか。
既に胃が痛い彼からすると、化け物としか思えない。ヤツらは一種の魔物なのではないだろうか、そう思わずにいられないオウルだった。
「逃げよう」
思いついて提案する。
「クサレ神官が失敗したら、見捨てて全力で逃げよう。アイツらは自業自得だ、町の人にどんな目に遭わされようと知ったこっちゃない」
バルガスは蔑んだような光を黒い眼に浮かべ、オウルを見下ろした。
「船長が酒場で飲んでいるが。アレはどうするのかね」
それがあったか。オウルは額を抑えた。
ティンラッドはいつもの如く、仲間たちのやっていることには我関せずで町の女の子をはべらせギターを弾きながら酒を楽しんでいるのだった。
昨夜、あんなに飲んだのに今日も昼間から飲んでいる。どれだけ飲めば気が済むのだろう。
「さすがに船長置いて俺たちだけで逃げるわけにはいかねえな」
ため息をつく。そうしたいのは山々なのだが、たちまち追いつかれそうな気がして決行できないでいる。
「残念ながらパーティは一蓮托生ということだな」
バルガスは薄ら笑いを浮かべる。
「町の人間がこちらに危害を加えようとするなら私が報復しても良いが?」
ああ。コイツも爆弾だ。
オウルは更に深いため息をついた。
「やめてくれ。もしもの時は俺が何とかする」
こんなに良くしてくれたこの町の人たちを闇の魔術師の攻撃にさらすのは、いくらなんでも人の道を外れすぎていると思う。
幸いその日のアベルの封印は『2』が一回、『1』が二回、『4』が一回という上々の成果であり、オウルは自分の心配が杞憂に終わったことに胸をなでおろしたのであった。