第13話:魔術師の娘 -4-
夕食会はビミョウな雰囲気で進んだ。
町長家族は和気あいあい、マージョリーは超然とした冷たい態度、ロハスがヘラヘラとおしゃべりし、アベルが下ネタと自慢ネタで場を盛り下げる。
ティンラッドとバルガスはひたすら食べている。ティンラッドは楽しそうに、バルガスはどうでも良さそうに。
宿屋へ帰りたい。たとえ主にぼったくられても。
オウルはそう真剣に思った。
食事の後、年若い娘や息子たちは寝室に下がり、酒が供される。
ロハスとアベルは遠慮なく飲み始めた。
ティンラッドは意外に町長とウマが合ったのか、腰を据えて杯を重ねている。
オウルが隅っこでちびりちびりとやっていると、不意に後ろから乱暴に肩をつかまれた。
何だと思って顔を上げると、バルガスの不機嫌な顔がこちらを見下ろしていた。
そのまま、部屋の反対側に向けて長い顎を振る。その先を見ると、マージョリーが広間の様子を軽蔑したように一瞥し、部屋を出ようとしているところだった。
「俺はいいよ」
オウルは酒に目を戻した。
「アンタ、昔からの知り合いなんだろ、先達。勝手に旧交を温めろよ」
「残念ながら、町長閣下のご指名は君だったからな」
バルガスは冷たく言う。
「来たまえ」
半ば無理矢理、力づくで席から引きはがされる。
何でこう、うちのパーティーには自分勝手なヤツしかいないんだ。
手に酒瓶と杯を持ったまま引きずられながら、オウルはつくづくそう思った。
「マージョリー。待ちたまえ」
廊下の途中で、追いついた。
マージョリーは怪訝そうに振り返る。
「何の用かしら、バルガス。こちらは町長の住居よ。勝手に入ってくるのは失礼じゃなくて」
「その町長閣下のご命令でね。君の悩みを聞いてやれ、とのことだ」
「私の悩み?」
マージョリーは不快そうに眉間にしわを寄せる。
「お門違いね。貴方に聞いてもらうことなど、何もないわ」
「私でご不満なら、彼にでも構わないが?」
バルガスがオウルを前に押し出す。
酒瓶を手に持ったままのオウルを、マージョリーは蔑んだ目で見る。
消えてなくなりたい。そんな風に思わせる目付きだった。
そんな呪文なかったか、と脳内を検索し。魔術師二人に囲まれては、そう簡単に呪文で危地を脱することは出来まい、と思いガックリする。
「お生憎。私は、初めて会った方に軽々しく身の上話をするような女じゃないわ」
案の定。害虫を避けるような顔と口調でそう言われた。
ああもう。
何だか知らないが、自分を巻き込まないでほしい。オウルはバルガスを呪った。
「そう邪険にするものではないぞ、マージョリー」
そんな思いも知らぬげに。いや、きっと露骨に表情に表れているはずなのだが。
見事に無視して、バルガスは余裕ありげに言った。
「彼は魔術師の塔で学んだ、きちんとした魔術師だ」
その声が。小動物をもてあそぶように低くなる。
「何しろ、サルバール師の門下だ」
「なっ」
師の名前を言われ、オウルが血相を変える。
マージョリーは軽く眉をひそめた。
「サルバール師の?」
眼鏡の向こうから、薄青色の瞳が値踏みするようにオウルを見る。彼を見る目が、少し変わったようであったが。
彼女はすぐに首を横に振った。
「サルバール師と私たちでは研究の方向性が違うわ。父はもっと、深淵に続く意義のある研究をしていたのよ。お話しすることなどないわ」