第13話:魔術師の娘 -3-
慣れた宿屋に荷物を下ろす。
一休みした後、夕食は町長の館でふるまわれることになっていた。
ロハスは滞在していた間、何度も出入りしていたらしいので慣れたものだが、ティンラッドとオウル、そして当然アベルとバルガスも初めてになる。
この町の他の建物と同じく傾斜の大きい屋根の、三階建ての館だった。
他の家に比べ、さすがに大きい。
庭の端には大きなガラスの屋根が見えた。ロハスが言っていた、温室なのだろう。
がらんとした広間で食事をとった。町長と、ふっくらした体つきの夫人、町長そっくりで人の良さそうな三人の息子と二人の娘。
そして、やせて背の高い、神経質そうな顔をした三十過ぎの女が同席していた。メガネの向こう側から、冷たい目が闖入者の一行を観察している。
これが、タラバランの娘のマージョリーだろう、とオウルは見当をつけた。
成程、女魔術師によくいる感じの相手だ。
自分の能力をひけらかし、男と張り合う、いやそれ以上であることを常に見せつけてこようとする強気な女性。
そういう女は見飽きていたので、彼女を「好みじゃない」と評したロハスの言葉に、オウルはこっそり同意した。
自分も苦手だ、この手の女は。
「……バルガス」
紹介される前に。マージョリーは一言、意外そうにつぶやいた。
「久しいな、マージョリー」
バルガスは冷たい声で受ける。
「御師の葬儀の時以来か。健勝そうで何より」
「でも」
マージョリーは何かを言いたそうに薄い唇をわななかせた。
「貴方……でも……。私、てっきり……いえ」
それから、彼女は思い直したように首を横に振った。
「いいえ、北の洞窟の魔物を倒したという方たちと一緒に来たのだから、私の勘違いね。御機嫌よう、バルガス、元気で何よりだわ。そしてロハスさんだったかしら、先日は町のためにご尽力ありがとうございました」
はきはきしているが冷たい口調だ。
「こちらが、魔物を倒したという戦士様?」
視線がティンラッド、オウル、アベルを順に眺める。がらくたを眺めるような表情だった。
「こちらはティンラッド氏。我がパーティーの統率者だ。彼はオウル君、魔術師。もう一人はアベル君、神官だ」
バルガスが簡潔に紹介する。
「タラバラン師の令嬢で一番弟子だった、マージョリー嬢」
マージョリーは尊大な感じで少しだけ頭を下げる。
オウルは居心地の悪さを感じながらも、とりあえず礼を返した。アベルも神官の作法で礼をしている。
ティンラッドだけが、傲然と背筋を伸ばしたままだった。
「失礼、お嬢さん。しかしあなたは一つ間違えている」
彼はいつもの口調でキッパリと言った。
「私は船長です。戦士ではない」
マージョリーの目が丸くなった。
そして。がらくたを見るような目付きが、ゴミくずを見るようなものに変わった。
ああ、もう。
ホント、このオッサンどうにかしてくれ。
頭を抱えるオウルであった。