第13話:魔術師の娘 -1-
町長は道々、町の様子を話してくれた。
あの災厄から人々は立ち直ろうと努力していること。それでも、かなりの人がいったん町を離れてしまったこと。ヒカリゴケのお守りを城下から買いに来る人が増えたので、何とか食糧を買い入れることが出来ていること。
「本当に皆さんのお力がなければ今頃どうなっていたことか。感謝の言葉もありません」
「いやいや。そんなお礼なんて、権利金さえ払っていただければもう十分でして」
そしてヘラヘラと笑いながら金にこだわるロハス。
こんな苦労を嘗めている人たちにたかるのはどうなのか。そうオウルは思ったが、言っても言い負かされる気がするのでやめておいた。こと商売に関して、ロハスと言い争っても勝負にはならない。そう本能が告げている。
「ところで」
町長がオウルを見た。
「確か、あなたが魔術師さんでしたな」
「そうですが」
オウルは不愛想に答える。ローブと杖で分かりそうなものだとも思うが。このご時世、ニセ魔術師なんかも横行しているから確認されるのも仕方ないかもしれない。
「あ、こっちの人も魔術師ですよ」
ロハスが愛想よくバルガスを前に押し出す。
「ちょっと恥ずかしがり屋さんで、ステイタス見られるのを嫌がってるんですが、ちゃんとした魔術師です。オレが保証します」
とんでもない紹介をされてバルガスの顔が険しくなる。オウルは自分じゃなくて良かったと思った。
町長は人の良い顔でうなずいた。
「そうですか。それは心強いですな。で、ご相談があるのですが」
「相談?」
オウルは眉をひそめた。
「まさか、また魔物に悩まされているとかじゃねえだろうな?」
アベルがピクリと反応する。
「それは由々しきこと。そういうことでしたらこの大神殿の三等神官たる私がお役にたちましょう。何を隠そうこの私は、一等神官様の特命を受けこの世から魔物を封じつくすために派遣された者。願うものがいるところ、奇跡は顕れるでしょう」
誰も聞いていないのにべらべらとしゃべり出す。
うさんくせえとオウルは思った。いきなりこんなことを言われて信じる者はまずいないだろう。むしろ完全にヤバい人だと思う。その方が普通である。
「それはすごい」
町長は驚いた顔をした。
「本当ですか」
「もちろんですとも」
更に自分を売り込もうとするアベルを押さえてロハスが、
「ええまあ。そんなようなそうでもないような、まあ一応そうなんですけどね」
と言葉をにごした。アベルがしゃべればしゃべるほど騙り臭さが増すので、なるべく早く口を閉じさせた方が吉である。
「で、町長。アンタの相談ってなんなんだ」
オウルは急いで話を方向転換させた。
「それなのですが」
人の良い町長は、今の一幕にそれほど疑念を感じた様子もなく言った。
「マージョリーさんが近頃悩んでいらっしゃるようなのです。タラバラン師のお嬢様ですが」
そう言われて思い出した。前に滞在している時、そんな女性がいると聞いたような。
ティンラッドとオウルは、ついに顔を合わせることはなかったわけだが。
「皆さんが町を立たれた後、タラバラン師にゆかりのある少年たちが彼女を訪ねてきまして。長年閉ざされていた師の研究室の扉を開いたのですが、それ以来彼女の顔から憂いが晴れません。魔術に関わることでは私どもにも話を聞いてやることさえできず……。お二人なら同じ魔術師。あの方の抱えている問題に助言いただくことも出来るのではないでしょうか」
お願いします、と町長は頭を下げた。