第12話:次の行き先 -4-
「しかし本当に大丈夫ですかな」
町に近付きながら、アベルが首をかしげた。
「観相鏡で全くステイタスが見えないのは不自然ではないですか。あやしまれるのでは」
「そこをなんとかするのが君たちの役目だろう」
バルガスは冷たく言った。
「君たちは、口だけは達者だと見たが。他にとりえがないのだから、そこで頑張ってくれたまえ」
大変な言いぐさである。
「そうそう。第一、『闇の魔術師です』なんてステイタス丸出しで歩いてる方がよっぽどあやしまれる」
オウルは軽く皮肉を返しておく。
バルガスは返事をしない。都合の悪い時は黙っているという、なかなかいい性格である。
魔物除けの垣の傍の見張り番が、こちらを見て目を丸くし、すぐに手を振った。
「おおい。ロハスさんじゃないか」
「久しぶりい!」
ロハスも手を上げる。この町で数か月を過ごした彼は、知り合いも多い。
「帰ってきたのかい。嬉しいよ。町長も喜ぶ、すぐに使いをやろう」
そう言ってから、一行を見直す。出て行った時に比べて人数が増えていることに、やっと気付いたようだ。
「旅先で知り合ってね」
ロハスが機先を制して、笑顔でそう言う。
「一緒に旅することになったんだ。害はないようなあるような、まあもしあったとしても仲間内で何とかおさめるから、気にしないで」
理屈になってねえ。オウルは顔から血が引く思いだったが。
幸いにして、相手はそれを冗談と受け止めたようだった。
「相変わらず面白え人だな、ロハスさん。町の恩人の仲間なら、もちろん歓迎だよ。とにかく、すぐに使いを出すから町長にも会ってくれ。その前に、茶でも飲んで旅の話を聞かせてくれよ」
それから。
門番はバルガスをまじまじと見た。
「そこの人。アンタ、前にもここへ来なかったか?」
バルガスは顔をそむけた。
「さあ。気のせいだろう」
「そうか。まあ、魔物が出る前は、うちの町にもそこそこ旅人が来たからな。人違いかな」
門番はそう言って。
笑顔で彼らを番小屋に招き入れた。
お茶と茶菓子を振舞われながら。
ロハスが適当な冒険話をぶちあげ。
アベルがほぼ妄想な自画自賛話をし。
盛り上がっているのかいないのか、微妙な雰囲気の中、時間が過ぎる。
門番は、話を信じているのかいないのか。むしろ、「信じていいのか?」と目顔で聞かれているような気がひしひしとしたが、オウルは努めて気付かないフリをして、菓子を食べることに集中した。
バルガスは彼以上の鉄面皮だし、ティンラッドに至ってはそもそも他人の顔色など気にしていない。
結局、神経がこまやかなものが損をするように出来ている。
そう、苦々しく思うオウルだった。
「失礼するよ」
番小屋の戸口から、ゆったりとした男の声がした。
振り向くと、トーレグの町長が笑顔でそこに立っていた。
「ロハスさん。みなさん。また、この町に立ち寄ってくれてありがたい」
「町長さん。わざわざ顔出してくださったんですか? ありがとうございまっす」
調子のいいロハスは、愛想よく寄っていく。
「あ、ご送金ありがとうございました」
「いやいや。ほんの少額です」
そして本当に金をむしり取っていたのか。オウルはロハスの図々しさと、町長の人の好さに呆れた。