第12話:次の行き先 -3-
結局、「別に行っても構わないだろう」というティンラッドの一言で、トーレグ行きが決まった。
まあ、行き先がないも同然の旅である。
見知った辺りでウロウロしている方が、安全と言えば安全だ。
その前にシグレル村の周囲で、道標ごとに封印を行った。小さな村を、大切に大切に守るように。
「やれやれ。人々の安寧を守るのは大変ですなあ」
アベルが偉そうに嘆息したが。
誰にも知られずに、三年前にこっそりそんなことをしていた男の胸中を思って、オウルは少しおかしいような、哀しいような気分がした。
当の本人は、知らぬ顔をして炉辺で火をかき混ぜていた。
数日歩いて、トーレグの町に着く。
町は秋の気配に包まれていた。だがすぐにまた、ここは冬の帳に隠されてしまうのだろう。
「しかし、アンタどうすんだ」
オウルはバルガスを振り返って言った。
「トーレグにだって、観相鏡を使えるヤツはいるだろう。闇の魔術師です、なんて看板下げて歩けないぜ」
どう考えても、騒ぎになる。どこにでもあるような職業ではない。
「問題ない」
バルガスは嗤った。
そして、荷物の中から今までよりも重そうなローブを取り出し、まとった。
「これで私を見てみたまえ」
オウルは首をひねりつつも、観相鏡を取り出して鼻の上に載せる。
その結果。
「見えねえ」
呆れた声を上げる。
誰のステイタスでも見えるはずの観相鏡が。
バルガスの情報を、一切伝えて来なかった。
「これは『知らせずのローブ』という。子供だましの魔装具だが、そこらの人間の目をくらますには十分だ」
バルガスは肩をすくめてみせる。
「へえ、すごいねえ。バルガスさん、これおいくら?」
そういう観点でしかものを見られないロハスが、値踏みするようにバルガスの周りをグルグル回った。
バルガスは多少迷惑そうに身を縮める。
「知らんな。魔術師の塔で先達から与えられたものだ」
「いくらでも出すから欲しいって人、きっといっぱいいるだろうなあ。後ろ暗い商売の人とかさあ。いくらでも値がつり上げられるよなあ、きっと」
夢見る光を両目に浮かべるロハス。
「やめておけ。命がいくらあっても足りねえ」
オウルは仕方なく、なだめに回った。
「あと。一番それを必要としてる、後ろ暗い人間はそこの付き合いづらい御仁だ」
「ああ、そうかあ」
ロハスはあっさり納得をし。
バルガスは渋い顔をしていた。