アンリルとホワック
ミトソに案内された道は確かにさほど苦な道ではなかったが傾斜が緩やかなため頂上に着くには時間がかかるだろうと思えた。しかし急に勾配がきつくなり、カルエは山を登るということを実感した。苦笑する。自分の住んでいた場所は山の麓である。しかし山菜採り程度にしか山にはいかず、山の奥に行ったことはなかった。本格的な山登りなどカルエはほとんど経験がないのだ。
遅々とした足取りにも男二人は苛々したりせず、カルエのペースにあわせてくれた。ヨマは度々休憩を取り、カルエを休ませた。それから夜になると結界を張り、交替で見張りをしながら睡眠を取った。それから夜明けをまたずに出発した。
そして数時間後にようやく頂上付近にたどり着いた。
「魔女の家は山頂付近の、どのあたりにあるのだろう」ヨマは言った。カルエと二人だけのときよりもいくらか声に厳しさがあるのは、ミトソを警戒してのことかもしれない。
ヨマは身体の動きを止めた。カルエはヨマの唐突な静止に周囲を警戒した。
二人の男が立っていた。一人は口髭と顎鬚の濃い、背は低いが肩幅のある男だった。男は鎖を編んだ防護服を着込んでいて、手には大剣を手にしていた。もう一人は背が高く、片方よりも年齢が上だと思われる容姿をしていた。がっしりとした体格だが顔つきには冷静さを感じる。髪を後ろに束ね、口の上に髯を生やしている。その目は知性的だった。
ヨマも警戒している様子だったが男もカルエたちに相当不信感を持っている様子だった。
「あんたら、こんなところで何をしている?」背の低いほうの男が言った。
「我らは魔女の屋敷を探している。あんたこそここで何をしているんだ?」
「我々は使命を帯びた旅をしている。名はホワックという。こちらはアンリル。あんたらも魔女の家を探しているのかい。我々もそうなのだ。遊馬の国をご存知かな? ハプリアともいうのだが」
「無論だとも」ヨマが破顔した。カルエはヨマが警戒を一気に解いたのを感じ、その唐突な態度の変化に驚いた。
「私はカンサルのヨマです。こちらのカルエというご婦人に同行している」
「カンサルということは同郷ではないか! ならばわかろうが、ハプリアの南部、神の地ヤットコは今やその神聖さを失われようとしている。エダの連中がきゃつらの邪神を聖地に移らせ、奉ろうとヤットコに侵攻している。今もなお、彼の地は浸食されようとしている! 私はこの山に住まうという魔女の家から行けるという、とある場所に用があるのだ。だが魔女の家を探しあてるのは容易ではないらしいな」
カルエは遊馬という国をよく知らない。東の小国であり、隣接国であるエダと抗戦状態にあるというのを母親が話しているのを聞いた程度だ。
こうも文明が進んだ世界なのに、どうしてここまで国によって格差が生じるのか、カルエは疑問だった。カルエの国も村も貧しく、戦がなくとも毎日が戦いだ。
「そして私は王の命でここまできたというわけだ。東の国の占い師はどれも手いっぱいで我らのような弱小国にはかまってられん。ここの魔女はくるものは拒まずという。途中、魔物と出会ってりして辛酸を舐めたがその甲斐もあったというもの。お主たちも同じ理由というのならこれも運命というもの。道々してもよろしいかな?」
アンリルと紹介された男が言った。
ヨマはカルエを見た。断る理由も特にない。カルエは頷いた。
「ご一緒しましょう」




