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一角ネズミ  作者: 晴彦
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エントンの屋敷

 エントンの館はにたどり着いたときにはもうすでに薄暗い時刻に差し掛かっていた。広大な庭に、色とりどりの植物が咲いている。緑の細道を一列になって進む。周りは深い水に囲まれている。透き通った水には大きな魚が泳いでいる。どんな種類なのかはわからないがそれが近くにいるときに水場に落ちたくはないなと思える不気味さがあった。

 館は白い建物で、三階建てだった。一体全体どうしてこんなところにこんな大きなものがと誰もが不思議に思う。

「ここは強力な結界が周囲を囲っている。だからこんなところでも無事でいられるのでしょう」舞雪が言う。

「この館について、詳しくも端的にも聞いてこなかったな。エントンというのだからエントンなる人物が住んでいるかね。館の雰囲気から察するに、豪奢な服、高価な宝石に身を包んだ成金中年が姿を現すだろう」

 そういってアンリルはドアをノックした。するとドアの奥で光が灯り、ドアが開いた。背の高い女が出てきた。

「アラニーから話は聞いてます。今晩はここで休んでいってください。旦那様は今仕事をなさってますので、まずはリビングでゆっくりとしていてください」

アラニーのとは比べものにならないほど広いリビングは暖房してあり快適な居心地だった。

「今日は泊まらせてもらおう。明日になればこの場所の全貌もわかろう」

 ソファに腰を降ろしホワックはいうものの、カルエはこの館の主がどういう性質の持ち主なのかきちんと確かめなければ安心できなかった。果たしてこんなところでくつろいでいていいのかさえわからないではないか。

 やがて、ゆっくりと時間が経っていった。

 カルエはその間、不安を隠すように近くでカルエに微笑みかけてきたミトソと喋っていた。カルエはミトソは随分自分のことを気にしてくれるようだと思った。昨日知り合ったばかりなのにこうして楽しく喋ることができる。カルエは母親のことは心配だったが、良き人々に巡り合えたことに感謝した。

 ヨマは舞雪と話をしていた。いや、舞雪が一方的に話をしているようだがヨマは鬱陶しがらずに真面目に応対していた。そのせいか舞雪はさらにヒートアップし、ヨマに体を密着させるまで接近していた。カルエはなんと積極的な女性だろうと驚きながらも少し呆れた。ヨマは顔のいい男性だから気持ちはわかるのだが、気に入らなかった。この旅だけは、ヨマは自分だけのナイトであって欲しかった。

 カルエはそんな考えを恥じた。ヨマはなんの関係もないのに旅についてきてくれた。それだけで、ヨマに対する感謝の気持ちが減ることがなければ別の女性と話したからといって彼の評価が下がるはずもない。ヨマは素晴らしい人だ。カルエはこの気持ちだけを持っていればいいと考え直す。ヨマのことを、少し恐ろしいと思うことがあっても。

「君のような美人が村にもいればよかった」

 ミトソの言葉が少し経ってから頭に行き届いた。ヨマのほうばかり見過ぎていた。

「あたしなんてただの田舎娘だし」慌ててカルエはいう。

「田舎者は俺も同じだ。だけどカルエのような美人は滅多にいない。できれば村にきてほしいと思うほどだ」

 それはどういう意味だろう。カルエが言葉に窮していると、幸運なのか、その話を打ち切る機会に恵まれた。

「いやいや皆さん、ようこそいらっしゃいました」

 チョッキを着た太った男がやってきた。胸ははだけていて醜い腹が見えた。頭は刈り上げていて天辺だけ残すという独特の髪型をしている。にやけた、底意地の悪そうな目つきに厚い唇。短足な足。なかなか特徴的な男だった。

「さてさて、皆さんのことはアラニーから聞いている。なるほど、屈強な男が揃っているし、美しいご婦人もいる。目的は金と力と癒し。よろしい! 申し遅れました。私はこの屋敷の持ち主であるエントンともうします。私は貴方方をサポートすることができる。この魔法世界の地図と、困ったときに私に通話できる水晶玉。これらを貸しましょう!」

「随分気前がいいですな。その見返りに、私等は何を提供すればいいのですかな?」アンリルが客らしく腰の砕けた物腰で対応する。頭の中では疑問が渦巻いているにしても。

 女たちがエントンの周りに集まっている。背の高い女たちはどれもが若くそれなりの器量をしている。薄い衣服は肌が透けていた。彼女たちは全員が腰元にナイフを付けていた。

 手練ればかりだ、とヨマがかすかに呟いた。

「提供などはいりません。しかし、定期的に私に現状を知らせて欲しいのです。さすれば私は貴方方の冒険を自分で追体験することができる。それが私にはこのうえない喜びなのです!」

 カルエには男の意図がイマイチわからなかった。大半の者は下衆な男だと思った。あるものはこの男の性癖を利用させてもらおうと考えた。

「どうですかな? 勿論、同意してくだされば食事と寝心地のいいベッドを無料で提供させていただきますが」

「その話に乗らせてもらおうかな」

 ホワックが答えた。その顔を他の者がみると、ここは合意するしかあるまいという諦観の顔つきがあった。

「よろしい! それでは明日には貴方方の旅をサポートするものをもってきます。今はこの地方でしか作れない食材をふんだんに使った、滅多に食べられないグルメも満足の味を楽しみ、高級ホテルも真っ青のベットで寝て疲れをとり、明日に備えてください!」

 エントンは退場し、女たちにディナーテーブルへと案内され、彼らは女たちによって次々と運ばれてくる料理を味わった。なるほど、確かにカルエにとってはみたこともない料理ばかりだったがそもそもカルエはあまり料理のバラエティを知らないのでこれが滅多に食べられないものなのか判断はつかなかった。

「これってすごいの?」カルエは横にいるホワックに聞いた。

「うむ。こんな美味いものは久しぶりに食べた。だが食材の正体が掴めんのは少し嫌だな」

 ホワックの勢いがある食べっぷりを見る限りこの料理はなかなかのもののようだ。カルエも料理自体に不満は全くないので素直に料理を楽しむことにした。食べたことのない味わいの肉に不思議な野菜。カルエは存分に味わった。隣のヨマは黙々と食事を取っている。カルエはヨマのその落ち着いた様子に感嘆し、手当たり次第に食事を口に運んでいた自分を恥じた。ヨマに倣い、カルエはゆっくりとした動作で食事をとり始める。しかし心に余裕をもとうなどと考えると母親の顔が脳裏によぎり、カルエは料理作法など、どうでもよくなり、暗い気分になっていった。

「カルエ、気分が悪いのか?」

 ヨマの問いかけだ。カルエは首を振った。

「なんでもない。ヨマ、食事はおいしい?」

「ああ。エントン殿のいうように食べたことのないものばかりだが、実に美味だ。こんなところでこんなものをご馳走になるとは思わなかったよ」

 カルエは愛想笑いを浮かべた。ヨマは冷静だ。それはそうだ。所詮は他人事だ。

 食事は美味で豪華なベットも用意された。しかしカルエの心は沈んだままだった。

 

 舞雪とカルエは同じ部屋になったのだが、二人ともあまり喋らなかった。部屋自体は高級なインテリアもありベッドもふっくらとして心地の良いもので、十分満足できるものだった。広すぎて二人だけでは少し落ち着かなかった。

「カルエは一角鼠を探しているんだってね」気まずかったのか、単純に興味本位か舞雪が尋ねてきた。

「そう。舞雪さんは何の薬を探しているの?」

「ああ、あれは嘘。ほんとは……香水の材料になるといわれる葉を探しているの。ゼネブといわれるものね。エテンでは他に採れる場所がないっていうね。すごいいい香りの草なんだって!」

 舞雪は目をきらめかせてカルエにその草によって作られる香水のことを語り出した。なんか最初と印象が違うなとカルエは思った。しかし大したものだ。そんな香水などのために命を掛けるとは。カルエにはわからなかった。そんなものでは到底こんな世界にきたいとは思わない。あの鳥人のことを思いだす。あれは、化け物の類だ。あんなものはいまだかつてみたことがない。ああいった存在が平気で出現する場所なのだ。

「明日もよろしくね、カルエ。おやすみ」

 舞雪は屈託のない笑顔で、カルエはそんな彼女のことを眩しく思った。

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