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第七章 限界への挑戦

 かくして、次元を超える装置は完成した。


 あっという間の出来事だった。今までに鬱屈していた学者たち、魔術師たちの力が、ひとつの目的のために、奇跡とも思える研究開発速度を実現した。


 魔術師たちの研究を学者たちが多方面から分析し、違った側面からの新たなる考え方を提示する。その繰り返しが、かつてない力を生み出したのだ。


 今まで、勇者の手足となって働いてきた彼らの集大成とも言える研究だった。装置完成の当日、彼らの中には涙さえ流したものもいた。


 ようやく、一つの研究が終わったのだ。大きな達成感が研究の参加者を包み込んだ。祭りの後のような寂しさも、彼らにとっては極上の報酬であるように思えた。しかし、そこには僅かな不安もあった。


 我々は、とんでもないものを作り出してしまったのではないだろうか。今でさえ強大な力を持っている勇者に、更なる力を与えてしまったのではないか。この装置を悪用すれば、それこそ、魔王よりも容易く世界を征服できてしまうのではないか。


 しかし、何もかももう遅い。


 勇者に逆らうことなどできなかった、なにより、彼がいなければ、これほどの達成感を得ることはできなかったに違いない。


 完成の当日そこにはヒラルドの姿もあった。


 彼がいなければ、装置完成はさらに遅れていたと言ってもいいだろう。彼の仕事は研究チームの作業の効率化を図ることだった。


 研究に参加する者の誰かが新しい発見をする。するとヒラルドが部下を引き連れその場に急行し、その発見を文書にまとめる。また、各個人の日々の取り組みを研究日誌としてまとめさせ、研究チーム全員で共有した。


 このことによって、作業に従事していない人間でも、ある程度の進捗状況を把握できる上、途中から別の作業に人員を組み込むことができた。


 数多くの作業を分担させることによって、それぞれに作業で得られる“経験値”を平準化、個人の能力を底上げすることで、研究者たちの革新的な“ひらめき”の機会を増やした。


 一人の人間のレベルが向上し、たどり着く理解力と発想力の到達点を大勢で共有、分担することで、より多くの革新的なアイデアを魔術師と学者たちの頭から引き出すことに成功した。


 ヒラルドは、装置が完成したその日、アドラスから姿を消した。彼の中でまた一つ、何かが終りを迎えたのだ。彼は次なる目的を求め、勇者の元から旅立っていった。


 魔力増幅装置完成の一報を聞き、勇者もアドラスに帰ってきた。勇者の旅は、魔力のなんたるかを問い続けるものだった。


 世界各地の魔力濃度が高い場所を訪れ、そこで彼は瞑想に励んだ。勇者の目的は、自然界に内在する魔力の流れを我がものとし、魔力の根源と世界をつなぐ精霊たちとの対話を円滑にすること。


 人は、己の中に魔力を有しているが、それだけでは莫大なエネルギーを生み出すことができない。自然界に潜む精霊たちとの対話によって、魔力の根源に接続、そこから個人の資質によって、より大きな魔力を得ることができるのだ。


 呪文とは魔力を我がものとするため、人間が生み出した最高のツールだった。呪文による呼びかけが精霊たちを動かし、大きな力を使用が可能となる。もしも精霊の力を借りなければ、大魔術師でさえ、火をおこすことにも一苦労することだろう。


 研ぎ澄まされた勇者の精神は、瞑想の果てに身体を抜け出し、多くの精霊たちとの邂逅を果たした。空気中をゆったりと舞う精霊たちは、勇者を歓迎することはなかったが、また、逃げるようなこともしなかった。ただ悲しそうな目で勇者を見つめるばかりだった。


 彼らは言う。


「あなたはなんのために力を求めるのですか?」


 勇者は揺るがなかった。精霊たちの前でも彼はきわめて冷静だった。


「わからない。考えたこともない。昔は考えたこともあったけど、もうどうでも良くなったんだ。ただ今は神に会いたい、ただそれだけなんだ」


「神は、あなたの求める答えなど持っていませんよ」


「答えがあるかどうかなんていうのは、神にお会いしてからのことだよ。ぼくはそこに答えなんかなくたって、絶対に行くと決めたんだ」


「いいえ、あなたは神のところにたどり着けば何かがあると思っている」


「そうだったとしたらなんだっていうんだ。ぼくに力を与えないとでも?」


「いいえ、我々は邪魔することはありません。あなたはこの世界に選ばれた勇者。その勇者が我々に力を借りたいというのなら、逆らうことはできません」


 どの場所でも、同じような対話がなされた。何故神を求めるのか、精霊たちは何度もそのことを訪ねた。勇者はその度に同じ回答をし、最後に精霊は彼に力を与える約束をして、去って行った。


 アドラスに戻った勇者は、実験の場所に国王の城の地下を選んだ。そこではかつて、外敵の呪いや魔法攻撃を防ぐための魔法陣や、精霊との交信の儀式が行われた祭壇があり、魔力を集中させるためには最適な場所だと思われた。


 その場所は、代々王しか知らされず、王と特定の役職を持つものしか入れない場所であったが、今では勇者こそが王だった。王が持つ特権は、今や全て勇者に譲渡されていた。


 勇者は魔力を高めるために城の一室にこもり、瞑想を始めた。城の屈強な兵士たちが、巨大な魔力増幅装置を城の地下へと運び、研究チームが装置の調整を行う。そうして、数日が過ぎて行った。


 神への道は、もう目前まで迫っていた。

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