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第二章 レベルの意味

 ただひたすらの、無意味とも思われるレベル上げの中で、勇者にひとつの疑問が生まれた。


 レベルとは一体何なのだろうか。


 それは、この世界で生きる者全てが持つ、“決まり”のようなもので、仕事でも、勉学でも、もちろん、魔物を倒すときも、一定数の作業をこなすと、突如として、目眩のような光に包まれ、幸福感、満足感とともに技術が向上する“決まりきった事実”だった。


 生活と完全に密着した「レベル」という概念に、かつて誰も、疑問を差し挟むものはいなかった。


 魔物を一定数倒すごとに、体にみなぎる力、それはどこからともなく現れて、人間を“一段階”向上させる。


 それは、神から与えられた聖なる力なのか。


 天界に繋がる道が、ここにあるのではないかと勇者は考えたのだ。


 勇者はすぐに研究者たちに命じた。「レベルとはなんなのか調べよ」と。その問いは、人間と世界を問いなおす、哲学的な問題であった。


 なんの疑いも持たず享受していたレベルという概念を研究するためには、魔術師だけでなく、神学者、哲学者の力も借りなくてなならなかった。


 日夜研究は続けられたが、魔術ほどに良い成果は上がらなかった。彼等は、レベルという問題に対して、どのようなアプローチを行えばいいのか皆目検討もつかなかったのだ。


 勇者は焦らず報告を待った。待っている間、彼は魔物を倒す旅に出た。世界に出没する魔物の全種族を倒すと決めたのだ。彼は貴重な高級紙を使用した白紙の本を作らせ、魔物の特徴、出没地点を詳細に記すことにした。


 出発の前、勇者直属の兵団長が聞いた。


「勇者様、何故です!? 何故今そんなことをする必要があるのですか!」


「……暇だから?」


 兵団長は勇者の発言に、一瞬聞き間違いかと思い黙りこんでしまう。しかし、改めてその言葉の意味に戦慄する。勇者は一体何をお考えなのか。


「暇ですと!? 魔王はまだ打ち倒しておりませぬぞ! 今こそ我々に活躍の機会を!」


「……図鑑をつくろう。なるべく時間をかけて、丁寧に。世界には、まだまだ知らないことがいっぱいあるはずだ」


 兵団長の言葉を無視するように、遠距離移動魔法でその場から勇者は消えてしまった。


 そう、たしかに時間はあった。なにしろ世界は平和だったのだから。


「レベルとはなんなのか?」


 そんな掴みどころのない問いを研究目標に掲げた学者たちは煮詰まっていた。勇者は研究に対して特に口を挟むことはない。しかし、めざましい成果を上げている「魔術部門」に比べ、我々のやっていることは、なんと雲をつかむような話であるか。


「なんでも、魔術部門の奴らは魔力を自然界のエネルギーに還元することなく具現化し、実際に自分の手のように動かし、雲をつかむことができるそうな」


「ワッハッハ。それでは我々の出る幕はないな。魔法で何とかしてもらいましょうぞ」


 日々のプレッシャーに押しつぶされそうな学者たちは、笑い話で時間を潰すことしかできなくなっていた。


 答えは、別のところからやってきた。


 レベルの概念をひも解く作業はとある商業国家の、一人の商人が、自身の計算能力向上のため、メモをつけることから始まった。


 彼は、日々の鍛錬のため、計算の練習問題を作り、毎日それを解くことを日課にした。それは効率化を図るようにと、休みの日に問題を作り上げ、仕事の合間に一つのずつ問題を解いていくという方法で行われた。


 数ヶ月ほど同じ作業を繰り返し、いくつかレベルが上った。そこで、商人はある法則性に気づく。問題を解いた数と、レベルの向上の関係性があるのではないだろうか。もともと、研究熱心だった商人は、レベルに対する考察を深めていった。


 レベルが一段階上がった状態での必要な練習問題数や、どのような問題を解くことによって、レベル向上の速度が上がるのかを何度も試し、時には、自分や知り合いの子供にも、その方法を試させ、データを集めた。


 それからさらに1年が経った。商人が計算技術向上の理論を完成させたころ、彼の住む町に勇者が現れた。勇者は魔物を探し求める旅の途中だった。


 勇者が商人と出会ったのは運命のような偶然だった。

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