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第一章 神への道

 勇者がレベル90を超えた時、彼は神に会った。


 それを物語るにはまず、勇者がレベルというものの意味を知る以前までさかのぼらなければならない。彼が神の元へとたどり着くには、多大な労力と、長い時間を要した。


 レベル80を超えた勇者は、魔王城以外の世界各地をくまなく回り、天界への入口をさがした。しかし結果は、その糸口さえ見つけることは出来なかった。


 各地に点在する、街の隅々まで、さらには遺跡や洞窟の奥の奥までを調べ上げ、少しでも壁の向うから音がしようものなら、容赦なく破壊し、隠し通路がないかなどもすべて試した。


 が、やはり見つからない。


 勇者の中に妙な確信があった。かならず道はある。


 自分の身が危険にさらされた、あるいは道に迷った時、幾度もなく現れた天からの光と声。勇者は天に、その度に心から感謝をしたが、しかし、同時にわずかな疑いの心も生まれた。


 天はなぜ、言葉だけでなく、直接魔王に手を下さないのか。その疑惑は、日々大きくなり、天に直接ぶつけたいという想いが、魔王を倒すという目的を超えて、勇者の心を支配した。天からの声を授かった時、何度か問うてみたことがある。どうしてその御姿を現して下さらないのか、と。しかしその返答はなかった。


 勇者は考える。おそらく、魔王という強大な力が、神の顕現を阻んでいるのだろう。魔王を倒せば、我が眼前に御姿を現わしてくれることだろう。


 しかしほんとうにそうなのだろうか。神は、魔王の力にひれ伏す程度の存在なのだろうか。


 そこで、勇者の思考は飛躍する。


 魔王を倒す前に、天にお会いすることは出来ないのだろうか、と。


 会って、聞いてみたいことが山のようにあった。使命などは関係ない。長い旅の果てに、勇者の中に、止めどないエゴが産まれていた。


 勇者は世界中の有力な魔術師たちを集め、天界を探し出すための研究組織を作り上げた。


 資金は潤沢にあった。今や世界の魔王軍のほぼ全てを打ち倒していた勇者は、魔王を打ち倒す前に、すでに英雄として崇め奉られていた。そんな彼に各国の王たちは協力を惜しまなかった。


 それはもちろん、勇者に対する純粋な感謝の気持からだけではなかった。国王たちには一国を治める義務があり、国民の資産を、私情で動かすことなど出来るわけはない。理由は簡単だった。魔物達に脅かされることの無くなった世界では国防予算が有り余っていたのだ。国王たちは、金の使い道を探していた。


 計画は可及的速やかに進められた。世界中の頭脳、そして、天界に関する書物が、勇者の住む小国に集められ、魔術師たちは日夜研究を続けた。


 人の集まった小国は、その必要から領土拡大を余儀なくされ、勇者の威光に守られながら、まもなく大国となった。発展していく町の噂を聞きつけ、移住する者も少なくなかった。


 その間、勇者は何をしていたか。彼は世界中の魔術師を集めよ、と命じただけで、それを実行するのは、彼の仕事ではなかった。


 高名な魔術師を呼び寄せる時、勇者が直接向うことはまれにあったが、たいていは、彼の姿を目の当たりにしたとたん、頭を垂れ、その身をひれ伏した。


 勇者にはすることがなかった。そこで彼は多くの時間をただ黙々と、レベル上げに費やした。魔物を倒していると、様々なことを忘れることができた。


 勇者は延々と、同じ魔物ばかり倒し続けていた。その魔物は、倒しやすさの割にレベルが上がりやすいように思われた。勇者は各地を巡るうちに感覚的に、レベルの上がりやすい魔物とそうでない魔物を選別していた。


 一月も経つとそれは作業となり、効率化が進んだ。勇者はまるで機械のように、朝から晩まで魔物を倒し、そして、故郷に帰り、誰も待つ者のいない自分の家で寝た。


 勇者の両親はすでに死んでいた。幼い頃、魔物に殺されたのだ。魔物たちへの恨みが、旅に出るきっかけでもあった。復讐という暗い情熱がなければ、彼が勇者として認められるほど強くなることもなかったかもしれない。


 勇者は常に一人だった。今や彼の一声で、いくらでも優秀な人材は集めることができたが、仲間を集めようという気にはなれなかった。


 かつての闘いの中で仲間が死に、勇者は人と親しくなることを恐れていた。仲間たちが死んだ直後の深い悲しみは、勇者の心に大きな爪痕を残していた。


 始めは苦労した一人旅だったが、レベルを上げれば何とかなることに気がついた。魔物を待ち、森の中で野宿する時も、勇者は一人だった。


 燃える薪の前で目を閉じると、死んでいった仲間の顔が浮かんだ。勇者は孤独だった。寂しさも心から感じていた。しかし、寂しさなどというものは、大切な仲間を失うことに比べたらなんでもなかった。


 もう二度と、なにかを失いたくはなかった。

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