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ネカフェの懲りない面々  作者: shian2011
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【1st customer】 深夜の爆音四天王

 

 ネカフェといえば24時間営業。

 宿泊施設代わりに利用する客も多い。

 

 夜間のトラブルで多いのは『騒音』。

 ぼくの働いている店には、常連の騒音トラブルメイカーが四人もいる。

 通称『爆音四天王』。

 といっても、ネカフェの店内で、


「イエー!今夜は最高だぜィ、夜露死苦!!」


 ……などと暴走するようなDQNじゃない。

 いたらすげー面白いけど、ソッコーで110番しよう、うん。



 騒音の原因は『いびき』。

 それもハンパない音量の。

『爆音四天王』は、たった一人で100席はある広いフロアの隅々まで響き渡るいびきを放つ。

 ちょっとした音波兵器、その破壊力は、別フロアまで伝わるほど。

 どこの超時空要塞マク○スだよ、ってカンジ。(俺の歌を聞け~みたいな)

 しかも、たった一人で、だよ?

 そんな兵器人間が、ウチの店には四人も常連してるのだ。


『爆音四天王』は、四人とも毎晩いる訳でもない。

 せいぜい、ひと晩に一人か二人。

 ところが、年に1~2回、四天王が勢揃いする日がある。

 なんてことのない平日の夜なので、ただの偶然だと思う。

 でも、四天王揃い踏みによるいびき×4の破壊力は、偶然の産物と言うにはあまりに壮絶で容赦ない。

 四人ローテーションでいびきを長時間維持したり、四人同時で相乗効果を引き出したり、攻撃バリエーションも豊富だ。

 別フロアにある、壁で区切られたゲームルームから「うっせーよ!」と苦情が来た時には、さすがに驚いた。

 スロットやオンラインダーツのゲーム音で溢れてるとこだよ?

 ゲームルームへ行ったら、マジでいびき聞こえるし。

 店の横を走る幹線道路の大型トレーラーの音は聞こえないのにすげーなオイ。


 こんだけの爆音兵器を店の真ん中には置けない。

 どうにかして店の一角へ集めたいのだが、兵器人間にも人格がある。

 フツーの客と同様にどの席が良いか希望を言う。

 眠れる席=座敷タイプの席。

 ウチの店だと、偶然にもフロアの中央寄りのエリアにある席。

 ムリムリムリムリムリムリ。

 中央に爆弾四個抱えて営業できるほど、ぼくら時給高くないから、いやマジで。

 でも、席指定されたら断れないし、あーもう終わった~、みたいな。



 ぼくが入社する前の話。

 ベテランのバイトが、四天王をフロアの四方に一人ずつ座らせることに成功したそうだ。

 それはすごいスキルだと思う。

 ただ、結果的には、四方からいびきが響き渡ることで、激しい相乗効果となり、客のほとんどが帰ってしまったとか。

 帰った客の一人が、会計時にスタッフへ苦情交じりに言った「東西南北、いびきの四天王か」が『爆音四天王』の由来となった。




 とまあ、こんな『爆音四天王』みたいな客は、出入り禁止にすればいいと、多くの人は思うだろう。

 ぼくもそう思った。

 でも、現実はなかなか難しいらしい。

 というのも、いびきのような生理現象あるいは病気の症状を理由に、入店を拒むことは差別につながるそうだ。

 睡眠時無呼吸症候群という病気が原因で、大きないびきをかくんだって。

 だから、いびきで入店拒否することは病人を差別するようなモンだと。

 こういう話を聞くと、『爆音四天王』に少し同情する。

 そうだよね、病気じゃあ、しょうがないじゃないか……。


『爆音四天王』は、四人ともネカフェ難民ではなさそうだ。

 朝の出勤時間帯にスーツ姿で店を出ていく。

 見た目、フツーの人で、フツーのお父さん風。

 たぶん、自宅だと家族にうるさいと言われたり、単身でもアパート住まいなら近隣から苦情がくるから、ネカフェで寝ているんだと思う。

 ぼくも中年になって、メタボになって、大きないびきをかくようになったら、奥さんから「うるさい!」って言われて、ネカフェへ追い出されるのかな。

 そう考えるとちょー寂しい。

『爆音四天王』にやさしくしてあげたくなった。 


 ただ、ぼくが出勤の日には、四人揃わないで欲しい。

 クレーム処理とか苦手だし、かるくヘコむし。

 あは、あははは………ハフン。



 P.S

 アメリカ・マサチューセッツ州の州法には、こんなのがある。


『寝室の窓が全て閉ざされ確実に施錠してあるのでなければ、いびきをかいてはならない』


 う~ん、「~かいてはならない」って言われても、いびきは自分の意志でコントロールできないし。

 だから、これは『いびきをかく人は、窓閉めて鍵かけて寝ろ!』と読み解くんだろうけど。

 こんなのが州の法律にあるなんて、軽くウケた。


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