【1st customer】 深夜の爆音四天王
ネカフェといえば24時間営業。
宿泊施設代わりに利用する客も多い。
夜間のトラブルで多いのは『騒音』。
ぼくの働いている店には、常連の騒音トラブルメイカーが四人もいる。
通称『爆音四天王』。
といっても、ネカフェの店内で、
「イエー!今夜は最高だぜィ、夜露死苦!!」
……などと暴走するようなDQNじゃない。
いたらすげー面白いけど、ソッコーで110番しよう、うん。
騒音の原因は『いびき』。
それもハンパない音量の。
『爆音四天王』は、たった一人で100席はある広いフロアの隅々まで響き渡るいびきを放つ。
ちょっとした音波兵器、その破壊力は、別フロアまで伝わるほど。
どこの超時空要塞マク○スだよ、ってカンジ。(俺の歌を聞け~みたいな)
しかも、たった一人で、だよ?
そんな兵器人間が、ウチの店には四人も常連してるのだ。
『爆音四天王』は、四人とも毎晩いる訳でもない。
せいぜい、ひと晩に一人か二人。
ところが、年に1~2回、四天王が勢揃いする日がある。
なんてことのない平日の夜なので、ただの偶然だと思う。
でも、四天王揃い踏みによるいびき×4の破壊力は、偶然の産物と言うにはあまりに壮絶で容赦ない。
四人ローテーションでいびきを長時間維持したり、四人同時で相乗効果を引き出したり、攻撃バリエーションも豊富だ。
別フロアにある、壁で区切られたゲームルームから「うっせーよ!」と苦情が来た時には、さすがに驚いた。
スロットやオンラインダーツのゲーム音で溢れてるとこだよ?
ゲームルームへ行ったら、マジでいびき聞こえるし。
店の横を走る幹線道路の大型トレーラーの音は聞こえないのにすげーなオイ。
こんだけの爆音兵器を店の真ん中には置けない。
どうにかして店の一角へ集めたいのだが、兵器人間にも人格がある。
フツーの客と同様にどの席が良いか希望を言う。
眠れる席=座敷タイプの席。
ウチの店だと、偶然にもフロアの中央寄りのエリアにある席。
ムリムリムリムリムリムリ。
中央に爆弾四個抱えて営業できるほど、ぼくら時給高くないから、いやマジで。
でも、席指定されたら断れないし、あーもう終わった~、みたいな。
ぼくが入社する前の話。
ベテランのバイトが、四天王をフロアの四方に一人ずつ座らせることに成功したそうだ。
それはすごいスキルだと思う。
ただ、結果的には、四方からいびきが響き渡ることで、激しい相乗効果となり、客のほとんどが帰ってしまったとか。
帰った客の一人が、会計時にスタッフへ苦情交じりに言った「東西南北、いびきの四天王か」が『爆音四天王』の由来となった。
とまあ、こんな『爆音四天王』みたいな客は、出入り禁止にすればいいと、多くの人は思うだろう。
ぼくもそう思った。
でも、現実はなかなか難しいらしい。
というのも、いびきのような生理現象あるいは病気の症状を理由に、入店を拒むことは差別につながるそうだ。
睡眠時無呼吸症候群という病気が原因で、大きないびきをかくんだって。
だから、いびきで入店拒否することは病人を差別するようなモンだと。
こういう話を聞くと、『爆音四天王』に少し同情する。
そうだよね、病気じゃあ、しょうがないじゃないか……。
『爆音四天王』は、四人ともネカフェ難民ではなさそうだ。
朝の出勤時間帯にスーツ姿で店を出ていく。
見た目、フツーの人で、フツーのお父さん風。
たぶん、自宅だと家族にうるさいと言われたり、単身でもアパート住まいなら近隣から苦情がくるから、ネカフェで寝ているんだと思う。
ぼくも中年になって、メタボになって、大きないびきをかくようになったら、奥さんから「うるさい!」って言われて、ネカフェへ追い出されるのかな。
そう考えるとちょー寂しい。
『爆音四天王』にやさしくしてあげたくなった。
ただ、ぼくが出勤の日には、四人揃わないで欲しい。
クレーム処理とか苦手だし、かるくヘコむし。
あは、あははは………ハフン。
P.S
アメリカ・マサチューセッツ州の州法には、こんなのがある。
『寝室の窓が全て閉ざされ確実に施錠してあるのでなければ、いびきをかいてはならない』
う~ん、「~かいてはならない」って言われても、いびきは自分の意志でコントロールできないし。
だから、これは『いびきをかく人は、窓閉めて鍵かけて寝ろ!』と読み解くんだろうけど。
こんなのが州の法律にあるなんて、軽くウケた。