8話 期限と勝算
「そこでなんですけど、望月さんには2つの選択肢がある訳です。日本に帰るか、この世界に残るか」
「帰ります」
私が勢いよく即答すると、遊利ちゃんは少し驚いたような顔をした。
私が帰りたいと言ったことが意外だったのだろうか。
「…あれ、もしかして帰る派って珍しいの?」
まじまじと私の顔を見る遊利ちゃんに私は尋ねた。
帰るという意思に揺るぎはなかったのだけど、マイノリティになった途端不安になるのは日本人の性だと思う。
「いいえ、帰られる方のほうがむしろ多いくらいです。珍しかったのは、望月さんが即答されたことですよ」
遊利ちゃんは取り繕うように少しだけ笑った。笑顔初めてみた。可愛いなオイ。
遊利ちゃんもこの世界の人々に負けず劣らずの美少女だ。髪サラッサラだし、肌白くてきれいだし、目も大きい。雰囲気はミステリアス系か。
あとで基礎化粧品何使ってるのか聞いてみよう。
全く、この世界に来てから美形との接点が多すぎて、私の美形の定義のハードルが500mくらい上がってそうで怖い。どうしよう美形耐性出来過ぎてて元の世界の芸能人が全員普通に見えたら。
私のどうでもいい不安など遊利ちゃんは知る訳もなく、彼女は話を進めた。
「一度帰るとこの世界へ再び来ることはかないませんが…大丈夫ですか?」
「おk、超無問題」
親指を立てて元気よく答えた私をやはり遊利ちゃんは見つめた。
そんなに不思議かなあ?正直会社の事だけが気がかりだったが、地球では2週間くらいしか経ってないらしい。ちょうど有給が終わりかけるタイミングだな。
「…今すぐ帰ることもできますが、どうします?あいさつ回りくらいはしますか?」
「あ、そのことなんだけどね」
私は片目をつぶって遊利ちゃんを見た。
「折り入ってお願いがあるのね」
両手を合わせたお願いポーズ付きで。
…そこ、いい年してとか言わない。
「なるほど、自室警備王子の事が気がかりだと」
「あはは、うまいこと言うねえ」
私は遊利ちゃんに事情を説明した。
もし遊利ちゃんが他国のスパイとかだったら国家機密(殿下の引きこもり)を洩らすのは非常にまずいんだけど、私は彼女が日本から来た魔法使いだと言う事を疑っていなかった。
なぜなら!アメ●ーーク好きに悪い人はいないと思うのです。
この話で盛り上がったの半年ぶりだよ。超懐かしい。
「私が殿下の引きこもりを直すために召喚された訳じゃないことはよっく分かったけど、やっぱりお城の人たちにはお世話になったし、出来ることはしてあげたいんだよね」
最近の殿下の様子を見てると多少強引に行けば外に連れ出す位は出来るんじゃないかと思っている。殿下が部屋から出ないのも、多分意地になっている部分もあると思うのだ。そろそろ荒療治が必要な気はしていた。
私が遊利ちゃんにしたお願いとは、帰るまでにもう少し時間をもらうこと。
「それで、どれぐらい待ったらいいですか?」
ん~、と私は考える。短すぎるとうまくいかない可能性もあるけど、待ってもらっている以上あんまり長くも出来ないな。有給も終わっちゃうし。
「えっと…2週間ぐらい?」
「分かりました」
うおーい!即OKすか!短く言いすぎたのかああ!
私的には待ってもらえる最長のラインを踏んだつもりだったのに!くそう!
しかし前言撤回は大人のプライドが許さない。
…2週間か。
心の中で呟いた。
いや、それくらいでいいのかもしれない。
長すぎてもいいことばっかりじゃないしね。
会社の書類の提出期限だって「あと一カ月もあるしー」って後回しにすると、気付いたら締切まであと三日(笑)なんてこともあったしね。人間の最大の武器は学習能力だ!
勝算はある。やってやろうじゃないの。
間があいてしまった><
2011/11/13 改稿