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26話 ホームにて

あけましておめでとうございます!本年もよろしくお願いします。


「あ、お帰り、リン」



 俺たちの“ホーム”――ギルド《銀の一閃》の本部ギルドハウスに戻ると、カウンターの中で受け付け条件看板娘のエトナがそう声をかけた。俺に伴い本部に足を踏み入れた朝比奈を認めておや、という顔をする。

 こんにちは、とエトナに軽く会釈した朝比奈は、周囲の注目を集めた。



「…おい、見ろ。リンが女連れて来たぞ」

「え、あれ男じゃねーの?」

「バカ野郎。どう見ても女の子じゃねーか」



 本部にいたギルメンたちが一斉に『ひそひそ』と言うにはいささか大きすぎる音量でざわめいた。うるせ―ぞ非リアどもが、と怒気を込めて奴らを睨みつけるとざわめきのボリュームは5段階くらい落ちる。お前も非リアだろーがという突っ込みは自重していただきたい。



「ここは…酒場、ですか?」

「ああ。各ギルドの本部はギルドメンバーの交流の場になるんだ。うちくらいの規模になると、こういう飲食店の形態をとることが多いよ。まあ営利目的でやってるわけじゃないから、客はほぼギルドの構成員だけどな」

部外者わたしが入っても大丈夫なんですか?」

「問題ないよ。ギルメン以外の出入りを禁止してるわけじゃない。まあ、ギルメンじゃない人が入りにくいのは分かるし、それをよしとしてる時点で同じことなのかもしれないけど」



 うちのギルドは、非戦闘員も含め総勢30名程度の規模だ。よより小規模なギルドはそもそも本部を持たなかったり、集合住宅の一部屋を借りて軽い集会場所として使っているところが多い。前に知り合いの小規模ギルドの本部にお邪魔した時は、学校の小さな同好会の部室のような雰囲気を感じた。

 興味深そうに周囲を見渡す朝比奈を、俺は一番奥の席に案内する。

 改めて正面から朝比奈と向かい合って話を始めようとするものの、何をどう説明したら良いのかさっぱりで俺の脳内会議は閑閑諤諤のあり様だ。



「あの。私から話しても構いませんか」



 困惑した表情の俺の状況を組みとったのか、口火を切らない俺にしびれを切らしたのか分からないが、願ってもない朝比奈の申し出に俺は頷く。

「結構長い話になると思うので、何か飲み物でも頂きません?」



 カラン、とグラスの氷が音を立てた。注がれているのはポールマニという果物の果汁を炭酸で割ったもので、アルンではごく一般的な飲み物だ。

 今まで滔々と説明を続けていた朝比奈は、グラスについた水滴を指でぬぐい、ポールマニを一口口に含んだ。



「さて、何か質問はありますか」

「話の途中では色々あったはずなんだが、なんかもう忘れた」



 胸を張って答えた俺に、朝比奈は苦笑する。



「よーするにあれだろ?朝比奈がりりかるハーマイオニーで、契約して俺を助けに来たんだろ?」

「そうですね。だいたい間違ってますけど、大事なところはかろうじて合ってます」

「じゃー俺、帰れるのか?」



 朝比奈はコクリと頷く。なるほど。俺プランとしてはこれからアルンで実力を付けた後、元の世界へ帰る方法を探す旅にでも出ようと思ってたんだが、過程をすっ飛ばしていきなりゴールにたどり着いた感じだ。なんというあなぬけのヒモ。



「あー良かった。もう一生帰れないんかと思ったわー」



 俺はそう言ってポールマニを一気に飲み干す。うえ、げっぷ出そう。



「あの、大変言いにくいのですが」



 大していいにくくなさそうに朝比奈は口を開く。



「準備の目処が立たないのです」

「準備って?」

「元の世界に帰る準備」



 朝比奈によると、この世界では世界を渡るのに必要な材料があまり市場に出回ってないらしい。いつもは帰りの分の材料もある程度持ってくるらしいのだが、今回は事情が事情きんきゅうじたいなためにそう言う訳にもいかなかったんだとか。



「渡界に使うマジックツールは希少なものも多いですが危険のあるものはほとんどありませんし、この世界のようにある程度魔法が発達しているところでは流通は必ずあるはずなんですけど」

「え、もしかして全く出回ってない?」

「いえ、モノはあることはあるんですが…」



 ここで朝比奈は一呼吸おいて、深いため息をついた。



「ク ソ 高 い」



 彼女の声には微かな、いやはっきりとした怒りがにじんでいた。あれ、朝比奈嬢?クソなんて言葉使っちゃっていいのですか?



「なんであんなにちっさい魔石が18万…。消費者に挑戦状をたたきつけているとしか思えません」

「え、魔石とか割とどこ行ってもあんなもんだと思うけど」

「そうですね。この世界は割とどこへ行っても相場は変わらないらしいですね」



 俺的には魔石が法外な高さだという感覚はない。魔石は小さくてもそれが持つ効果は大きく、冒険者で欲しがらない者はいない。そしてその価値が物語るのはその希少さ。そう、魔石は純度の低いものならばともかく、高い力を持つ者は迷宮の中でしか採れないのだ。少ない供給に対しての高い需要が財の価格を高騰させる。



「あー、それで資金が足りない感じか」

「…不甲斐ないです」



 頭垂れる朝比奈。一体いくら足りないのか想像もつかないが、彼女の様子を見るに少し働いたくらいで何とかなる額ではないのだろう。



「あのさ、もとはと言えば俺のせいだし、少ないけど貯めてる分出すよ。頑張って修行して、深いところまで潜ってレアアイテムで一攫千金狙うし。任せろって」



 俺は努めて明るい口調で言った。もともと10年単位で時間はかかるだろうと思っていたし、帰る手段があると分かっただけで俺は十分に満足だ。



「いえ、多分お金集めるより迷宮でアイテム掘った方が早いと思います。どんなモンスターがでるとかどんな素材が取れるとか分かんないですけど、まあ、1~2週間あればなんとかなるかと」

「…え」

「そう言う訳で、もう少し時間をください。なるべく早く済むように頑張るので」

「ちょ、待て。朝比奈が潜るのか?」

「そのつもりですけど」

「…。」



 さて、どのように説得して諦めさせようか、と俺が逡巡すると、俺の意図を理解したらしい朝比奈が不満げに口をとがらせた。



「私だって魔法師です。自分の身くらい守れます」

「つってもなぁ…。多分、朝比奈が思ってるよりきついぞ」

「大丈夫です。もう一人、戦える連れもいますし」

「連れって、魔法使い仲間か?」

「魔法は使えないけど、まあ仲間です。同僚みたいな感じですね」



 俺の納得していない雰囲気に、朝比奈も困ったような顔をした。



「無理はしませんから」

「じゃあ聞くけど、さっき裏路地でチンピラ二人転がしたの、朝比奈か?」



 こくんと頷く朝比奈に、俺は息を吐く。アルンでは「女の子を戦わせるなんて…」なんて価値観は通用しないが、やはり同郷の、しかも同級生の女の子を迷宮に連れていくのには抵抗を感じずにはいられないのだ。紳士としてね。



「…わかった。絶対無理はしないのと。俺から離れないこと。約束な?」

「はい、約束です」



 朝比奈は俺の目を見てしっかりそう言った後、少し唇の端を持ち上げる。



「心配していただいてありがとうございます、不破くん」



 改めて礼を言われると非常に面映ゆい。俺は紳士として当然のことを…って、そんな恥ずかしい台詞言える訳がない。



リンでいいよ。名字あんまり好きじゃないし」



 照れ隠しに話題の矛先を変えつつ目を逸らす。視界の外で朝比奈が笑った気配がした。



「私も遊利で構いません。これからよろしくお願いします、倫、くん?」

「改まると照れるな。よろしく、遊利」



 どちらからともなく自然とお互い手を差し出し、握手する。おおおっと周囲が小さくどよめいた。うるせーぞ、外野。

 ちらりと朝比奈―――おっと、遊利の顔を見ると、彼女も軽く目を見開いて俺の後方を注視している。

何事だ、と俺が後ろを振り返ると、俺の後方直線状にある<銀の一閃>のドアを開けた少女が、こちらに厳しい視線を向けていた。



 本日3度目の、アリシアとの遭遇である。


少し久しぶりの更新でした。

活動報告にも書きましたが、年末年始は家を空けていたので更新できませんでした、すみません><


また今週末家を空けるので、次の更新は来週のおそらく半ばになります。

2月中旬まではなかなか忙しいですが、徐々にペースを戻していきたいです。

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