初対面のご令嬢に一目ギレされました。
「なんでサポートキャラのあなたが校庭にいないのよっ!」
入学式が終わって、案内にあった自分の教室に入ろうとしていたら、
いきなり見ず知らずのご令嬢に一目ギレされました。
「チュートリアルをすっぽかして、勝手に動くなんて何よもう!
学園マップの説明とか、攻略対象の説明とかすべきでしょっ?
なんとか言いなさいよっ、このモブ眼鏡おかっぱ頭っ!」
…「ちゅーとりある」とか「こうりゃくたいしょう」とか、
今までに聞いた事のない言葉が次々と繰り出されているけど、
まあ、僕がなんか非難されているらしいのは分かります。
「もぶ」というのもなんだろう。地味だとかそういう意味かな?
まあ、平民の特待生なんでお貴族様を差し置いて目立つのは拙いし、
授業の為に高額な眼鏡を買ったので制服は品質の低いものだけど。
なにやら僕への非難は続いているけど、あらためて彼女を確認。
見た目は桃色の髪に若草色の瞳、背丈は平均より低い僕よりも低い。
形のいい唇にやや丸っこい顔立ち、黙っていれば美少女かな。
体格は華奢に見えるけど、胸元は多分同年代より遥かに大きい。
落ち着いて話すのだったら高い声も可愛らしいと思うんだけど、
これだけ敵意を剝き出しで喚かれると頭が痛くなってきそうだ。
一体何なんだろう。正直目立ちたくないのに目立たせられている。
この一方的な罵倒は、担任の先生が教室に現れた後も止まらずに、
怒った先生が彼女を引きずって指導室へ連行するまで続いた。
◆
翌日。彼女の正体が判明した。
最近叙爵した男爵家の庶子で、ヒメカ・オーターと言うらしい。
連行された指導室でも訳の分からない事を先生方に喚いていたので、
入学早々三日間の停学処分を喰らって謹慎となっている。
非常に残念な事に、彼女は僕と同じ組だった。
彼女との口論、というか一方的に僕が責められていたんだけど、
その様子は同じ組の人達が見ていて、皆が同情してくれた。
この組は、下級貴族と割と裕福な平民が在籍している。
僕みたいにただの食堂の息子なんてのはとても珍しいはずだけど、
皆からは少なくとも見下されたりせず対等に扱ってくれている。
「災難だったねえ、ウィリアム君」
先祖代々平民の僕には家名がない。なので名前で呼ばれている。
「うん、僕も正直訳が分からなかったよ。
何か気に障るような事でも彼女に対してしちゃったのかなあ。
初対面だと思うけど、どこかで出会って怒らせていたとか」
最初は敬語を皆に対して使ったんだけど、普通に話してと言われた。
下級貴族なんて、大して平民と違わないんだから気楽にね、って。
正直不安もあったんだけど、この組にはいい人しかいないようだ。
◆
訂正。若干一名を除いて。
僕に入学初日から絡んできたオーター男爵令嬢が復学してきた。
今は授業中なんだけど、後ろからの恨むような視線が突き刺さる。
いきなり文句とかは言われなかったけど、毎時間この調子だ。
なんというかこの視線で、おなかが痛くなってきた。
本日の授業が終わる。
彼女に絡まれないうちに急いで帰宅しようと思っていたら…
目の前に回り込まれていた。素早い。
「ちょっとあんた、顔貸しなさいよ」
上目遣いで睨まれる。なんだか怖い。
止めに入ろうとしてくれた子達もいたんだけど、彼らを睨みつけ、
「別にとって食ったりはしないわよ。二人きりで話したいの」
と、僕の腕をぐいぐい引っ張って連れていく。
着いたのは校舎裏の普段人が立ち入らない場所だ。
「で?」
着いてすぐ、彼女は僕の方を見るなりこう言った。
で?って、えーと…?
「いや、なんとか言いなさいよ!」
「ええと、なんとか言いなさいって、何を言えば?」
さっぱり分からないので彼女に問い返してみたら。
「だ・か・らっ!
攻略情報よっ!こ・う・りゃ・く・じょ・う・ほ・う!
三日も開いてるんだから、情報持っているんでしょっ?
さっさと教えなさいっ!アルバート様とかっ!ロイ様とかっ!
スケジュールとか教えてくれるはずでしょっ!?」
「いや、アルバート様とかロイ様って誰…?
あと『すけじゅーる』というのはなんなのかな?」
言ってる事の意味が分からない。そもそも誰の事聞かれてるの?
ぬああああっ、話通じねぇーっ!と彼女は喚き散らして地団駄。
これどう対応したらいいのかな。知らない事教えろと言われても。
ふぅーっ、ふぅーっと荒い息を吐いて彼女は言葉を続ける。
「なーんであたしの方が説明しなきゃなんないのよ、全く…
だからっ、あんたがこういう情報を教えてくれるキャラなのっ!
第二王子の生徒会長とっ、教皇の孫の副会長とっ、
宰相の息子の文化部部長、将軍の息子の運動部部長、
留学生の隣国の王子と、薬学の新任教師っ!
彼らが何日の何時にどう動くのか、どんなイベントが起こるのか、
あんたが把握していないで誰が把握すんのよっ!?」
知らないよそんなの。今言った全員面識ないよ、僕は。
大体、学年も違うし組だって違うでしょ。知ってる方が怖いよ。
それに…
「あのさ、アルバート様ってのはどこの誰なのかな?
今の生徒会長はロバート様だし、第三王子じゃなかったっけ。
あと、ロイ様なんて人も、きみがさっき言った中にはいないし。
運動部部長ならジェイ様だけど、将軍様の子供じゃないよ。
それに今年は留学生とかいないし。誰かと勘違いしてない?」
そう告げると、彼女の表情が抜け落ちた。しばらくして。
「ぬあああああああっ!キャラが違うっ!なんか違うっ!
『ときめいて☆彡聖ブリリアント学園
~恋の行方は不思議で一杯~』の世界のはずなのにっ!
こんなん間違ってるっ!運営っ!ちゃんと訂正しなさいよっ!」
と大声で喚きだした。甲高い声が頭に響いてつらい。
人が立ち入らないと言っても、これだけ叫べば誰かが気づく。
さっき彼女を止めに入った二人が先生方を連れてきてくれた。
これでこの場は開放してくれるかなあ…。
◆
彼女は停学二週間を言い渡されたらしい。
担任の先生が疲れた表情で教えてくれた。指導室で散々だった様子。
とりあえずこれから二週間は平和なんだろうけど、後が怖い。
せめて彼女は組を変えてくれないかな。個人授業とかに。
太田 姫女華:現世からの転生者。
元々思い込みが激しく、他人は自分の為に存在すると信じ切って疑っていないタイプ。
例のごとくトラックにはねられ、吹っ飛んだ先で対向車線のトラックに再びはねられる。
二度のバウンドで転生先が別世界へとズレたらしい。
ウィリアム君:現地人。単なる平民の特待生。彼女とは無関係。
本来の彼女の転生先ではギリアム君がサポートキャラで待機していた。




