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魔王陛下は次の反乱をお待ちです

作者: 黒咲かぐら
掲載日:2026/10/10

 魔王を殺すために集めた千人の兵が、魔王の帰りを出迎えていた。


 城門の両側に整列する兵の手首には、赤い紐が巻かれている。

 今日だけの識別標だ。これをつけた兵は味方。それ以外は、交戦を避けて拘束する。

 魔王の首を取ったあとに、自分の国になる城だった。兵も、武器も、できるだけ失いたくない。


「陛下のお戻りだ。頭を下げろ」


 将軍ガルネの命令に、兵たちが一斉に跪いた。

 黒い馬車の扉が開く。

 魔王オブシドは、御者の差し出した手を使わずに降りてきた。

 飾りのない黒衣。肩まで流れる黒髪。二百年ものあいだ、誰にも明け渡さなかった王の顔には、今日も退屈が浮かんでいた。


「獣はおりましたか」


 ガルネが尋ねると、魔王は短く答えた。


「いた」

「狩りのご首尾は」

「終わった」


 それだけである。

 北の山脈で目覚めた古竜だった。三つの砦が避難を済ませ、周辺の飛行路まで閉鎖した相手を、この王は朝食と夕食のあいだに片づけてしまう。

 ガルネは唇の内側を噛んだ。

 将軍が戦功を立てる機会さえ、王の暇つぶしに負ける。


 ガルネは左の手袋を締めた。続いて右を。

 十年かけた。

 城の警備に自分の配下を送り込み、交代勤務の表を握った。勧誘は腹心と、その腹心が身元を保証する者に限った。魔王に忠実な指揮官には計画を明かさず、通常の命令で今日の城外勤務へ回してある。

 反乱に加わった兵の多くは、魔王への恨みより、ガルネへの信頼を選んでいる。

 その信頼を処刑台へ連れていくつもりはなかった。


 魔王が城に入る。

 背後で、重い門が閉じた。


 いつもの音だった。

 今日までは。


     *


「厨房の封鎖だけは、お考え直しください」


 侍従長アンバルは、縄で縛られていても声を荒らげなかった。

 琥珀色の目が、向かいに立つ近衛隊長を見上げる。


「食事に毒を盛る気はありません」


 ジルコンは答えた。

 細身の剣士だった。白い髪を短く揃え、いつもと同じ白銀の鎧を着ている。違うのは、腰の剣と手首の赤い紐だけだ。


「そうではなく、料理人まで拘束しては夕食が作れません」

「今夜には王が変わります」

「どなたがお座りになっても、お食事は必要です」


 ジルコンは少し考え、部下に命じた。


「厨房は監視だけに留めろ。刃物の持ち出しは禁止する」

「承知しました」


 兵が走り去ると、アンバルは小さく息をついた。


「あなたまで、なぜ」


 ジルコンの指が、剣の柄に触れた。


「陛下の警護を務めて百八十年になります」

「ええ」

「一度も、お守りできたことがありません」


 魔王を狙った刺客は、近衛兵が剣を抜くより先に倒れていた。

 魔王を狙った呪いは、術者のいる国まで逆流した。

 守るはずの王に、守られる。ジルコンはそれを百八十年続けていた。


「陛下に届く刃がどのようなものか、確かめます」


 最強の王の後ろで歳を重ねるより、守れる者のいる場所で剣士として働きたい。ガルネが王になるなら、その背を守るつもりだった。

「お尋ねになればよろしかったのでは」

「尋ねました」


 ジルコンは、いつになく長く黙った。


「『予に届いた刃はない』と」


 アンバルも黙った。

 答えとしては正しかった。何の参考にもならないだけで。


 遠くで鐘が鳴った。

 夕刻を告げる鐘ではない。三度、短く。合図だ。


 ジルコンは踵を返した。


「今夜には終わります」

「その言葉、覚えておきます」


     *


 玉座の間へ続く大扉は、内側から施錠されていた。

 扉の前には、魔王に従う近衛兵が二十人。

 ガルネの背後には、百二十人の精鋭兵がいた。


「将軍。これは何の騒ぎです」

「王を替える」


 先頭の近衛兵が剣を抜いた。

 ガルネは、その剣を自分の剣の腹で受けた。

 刃を折る。

 続く一撃で鎧の胸を打ち、息を奪う。


「殺すな。武器を落とさせろ」


 背後から、青い光の鎖が伸びた。

 二十人の腕と足が縛られる。抵抗の魔法を編もうとした者の足元には、別の魔法陣が先に開いた。

 近衛兵の術が途切れる。


「魔力封鎖、完了。扉は任せてください」


 大魔術師サフィラが、眼鏡を押し上げた。

 青い髪の先から火花が散っている。

 彼女の背後に控える魔術兵たちは、床に杖を打ちつけた。

 銀の線が扉へ走る。


 この城の防御術式を設計したのは、サフィラだった。

 十年かけて、保守点検のための経路を増やした。扉も警報も連絡用の水晶も、いまはその経路から押さえてある。

 ただし、魔王のいる玉座の間だけは、外側から制御できなかった。


「三秒、下がって」


 サフィラが指を曲げる。

 幾重もの保護を備えた大扉が、轟音とともに内側へ倒れた。

 破片は兵に届く前に止まり、左右へ退く。


 ガルネは煙の中へ進んだ。


 玉座に、魔王が座っていた。

 頬杖をつき、倒れた扉を眺めている。

 驚いてもいなければ、怒ってもいない。


「ずいぶん騒がしいな」


 ガルネは剣を抜いた。


「オブシド。今日で、その玉座を降りていただく」


 背後で、誰かが息を吞んだ。

 兵たちは王へ武器を向けている。それでも、名前を呼び捨てにすることには怯えたのだ。


「ほう」


 魔王は頬杖を外した。


「城外に援軍はいません。転移も連絡も封じました。城門、兵舎、武器庫は我々が押さえています」

「そうか」

「近衛隊の半数も、こちらにつきました」


 ジルコンが煙を抜け、ガルネの隣に立った。

 魔王の目が、白髪の剣士へ向く。


「貴様もか」

「本日は、お命を狙います」


 いつも警護に立つ場所より、十歩遠い。

 ジルコンはその距離で剣を抜いた。


 サフィラが右へ歩く。

 精鋭兵が左右に分かれ、弓と槍を構えた。


「お覚悟を」


 ガルネが告げると、魔王は立ち上がった。

 玉座の前に、黒い衣の裾が落ちる。


「いいだろう」


 その口元が、わずかに上がった。


「始めよ」


     *


 最初の矢は、魔王の喉へ飛んだ。

 矢尻に結びつけられた魔法が、空中で枝分かれする。

 一射が八射になる。百の射線が、魔王の立つ一点へ重なった。

 逃げ道はなかった。


 魔王が手を上げる。

 すべての矢が止まった。

 鏃が黒衣に触れる寸前で、宙に並んでいる。


「射線は悪くない」


 指先が横へ動いた。

 矢が一斉に向きを変え、兵たちの足元へ突き刺さる。

 弓を握る腕が震えた。


「続けろ!」


 ガルネが叫んだ。

 止まれば終わる。

 ここまでは、想定に入っていた。


 槍兵が前へ出る。同時に魔術兵が床へ術式を走らせた。

 魔王の周囲に、透明な壁が立ち上がる。

 六面の壁が噛み合い、箱を作った。


 サフィラは息を詰めた。

 一枚の壁を六層に重ね、魔力を封じる六重結界。

 外側から供給する魔力に、魔王の力を中和する聖鉱の粉を混ぜてある。

 人間の神殿から、その粉を買い集めるだけで七年かかった。


 魔王が手のひらに、小さな火を灯す。

 火はすぐに消えた。


 サフィラの指が震える。

 成立した。

 魔王の魔法を、初めて止めた。


「いまです!」


 ジルコンが剣を振った。

 刃は手元から消えた。

 結界に刻んでおいた小さな転位陣を通り、魔王の首の後ろへ現れる。

 箱の内部で発動する魔法ではない。外側から、刃そのものを送り込んだ。


 同じ瞬間、魔王は右手を背後へ回した。

 人差し指と中指が、剣の腹を挟む。


 ジルコンの肩に、骨が軋むほどの反動が来た。

 握った柄が、それ以上動かない。


「魔力を封じたな」


 魔王は左手を結界へ当てた。


「よくできている」


 透明な壁に、五本の亀裂が走った。

 指を曲げたのだ。

 箱が、内側から砕ける。


 魔術兵が次々に膝をついた。

 砕けた結界から逆流した力が、杖を折っていく。

 サフィラは供給の線を切り、兵への逆流を止めた。


「何ですか、いまの」

「握った」

「魔法では」

「ない」


 魔王は、挟んでいた剣を放した。

 ジルコンがよろめきながら構え直す。


 サフィラは奥歯を噛んだ。

 魔法を使わせなければ勝てる。

 その前提が、たった一度手を握っただけで砕かれた。


 けれど、それで終わるために十年を使ったのではない。


「ガルネ。時間を」

「任せろ」


 将軍が床を蹴った。

 赤い光が剣に宿る。

 戦場で敵の盾を断ち、重装騎兵の隊列を割ってきた刃だった。

 魔王は腕を上げる。

 手の甲で、剣の腹を叩いた。


 軌道が逸れる。

 ガルネは、その勢いを利用して二撃目を返した。

 低く、膝へ。

 魔王は剣の根元を靴先で踏んだ。

 床が砕けた。


 動けない。


 ガルネは柄を放し、拳を打ち込んだ。

 魔王の胸へ届く前に、その手首が掴まれる。


「剣を捨てる判断は早い」


 身体が宙へ浮いた。

 兵たちの盾の上へ投げ返される。

 盾を受け取る腕が曲がり、数人が尻餅をついた。

 ガルネは咳き込みながら立ち上がる。


 頭上から、青い光が差した。


「全員、壁際へ!」


 サフィラの声に、精鋭兵たちが左右へ退いた。

 玉座の間の高い天井に、魔法陣が一つ開く。

 二つ。三つ。

 七つ目が重なった瞬間、中央に黒い球が生まれた。


 灯火が細くなる。

 部屋の熱が、球の周囲へ吸い上げられる。

 兵たちの吐く息が白くなった。

 黒い球の縁だけが、眼を刺すほど明るい。


 サフィラは杖を両手で握った。


「《黒陽葬》」


 かつて敵の城塞を、外壁から地下の兵糧庫まで焼き抜いた術だった。

 その威力を、いまは一人分の範囲へ絞っている。

 周囲に置いた魔術兵の防護壁は、味方を巻き込まないためのもの。

 術者自身の逃げ場はなかった。

 制御を失えば、最初にサフィラが焼かれる。


 ガルネが、立ち上がりかけた兵を押さえた。

 これだけは、近づいてはいけない。


 魔王は顔を上げた。


「ほう」


 その目から、退屈が消えていた。


「見せてみよ」


 サフィラが杖を振り下ろす。

 黒い太陽が、落ちた。


 魔王は右手を上げた。

 七番目の魔法陣へ、指先を向ける。

 銀の線が一本走り、陣の外縁を横切った。


 七番目だけが、逆向きに回る。


 落下が止まった。

 黒い太陽は、小さくなり始めた。

 人の頭ほどに。拳ほどに。


 白い刃が、魔王の頭上へ現れた。


 術が破られる瞬間を狙い、ジルコンは太陽の光と熱に隠した刃を真上から落とした。


 魔王は左の掌で刃を受けた。

 鋼が、鏡のように割れた。

 破片の一つ一つが薄い刃となり、魔王の腕を避けて四方から喉へ迫る。


「《鏡刃》」


 ジルコンが握るのは、柄だけだった。

 斬撃を止められることを前提に、鍛え直した剣。

 正面の刃に触れさせ、その接触点を中心に転位陣を開く。

 斬撃を受けた相手自身を、刃の出口にする技だった。


 魔王の手首に、白い魔法陣が浮かんだ。

 ジルコンの口元が動いた。

 届く。


 次の瞬間、その魔法陣が消えた。

 破片も転位陣も、ひとまとめに細い黒い輪で閉じ込められていた。魔王が左手を握ると、破片が刃の形に並び、輪がそれを一振りの剣としてつなぎ止めた。


「出口に触れさせてから、囲むのか」


 魔王は剣を眺めた。


「よく見ていたな」


 ジルコンは柄を捨てた。

 腰から短剣を抜いて踏み込む。

 魔王が振った剣の腹が、肩を打った。

 白銀の鎧がへこむ。

 ジルコンは床を滑り、壁際で止まった。


 魔王の右手の先で、太陽が火の粒まで縮んだ。

 サフィラの杖の上へ、その粒が戻る。

 彼女は呼吸を忘れた。

 十年。

 研究室で朝を迎えた夜。失敗した術式で焼けた腕。

 すべてが、杖の先に小さく揺れている。


「なぜ」


 魔王が言った。


「最後の環で、ほかの六つを統べている。そこを奪えばよい」

「奪えば、ではありません。あの速度で、どうやって」

「構造を見れば分かる」


 分からないから、十年かかったのだ。


 サフィラは歯を食いしばった。

 泣く暇があれば、覚えなければ。

 銀の線が入った角度。反転した環。圧縮されても破裂しなかった、黒い太陽の核。


 魔王は戻した火の粒へ息を吹きかけた。

 火が消えた。


「まだあるか」


 サフィラは、何も答えられなかった。


 魔王は剣を置いた。

 玉座の脇に、丁寧に。


 ガルネは立ち上がった。

 砕けた床から、自分の剣を引き抜く。

 骨が軋んでいた。左腕は上がらない。


「まだ終わっていない」


 魔王の目が、将軍へ向いた。

 その眼前で、ガルネは右の手袋を外した。

 手首に巻いた赤い紐を、剣へ結ぶ。


 城中で、赤い紐が光った。


 武器庫を押さえた兵が、槍を床へ立てる。

 城門の兵が、盾を地面へ伏せる。

 玉座の間にいる者だけではない。

 千人の反乱兵が、同じ術式へ魔力を注ぎ込んだ。


 赤い紐は識別標であり、魔力を送るための結び目でもあった。

 全員が承知でつけたものだ。

 王に届く一撃を、将軍に託すために。


「《赤冠》」


 ガルネの頭上へ、赤い光の冠が浮かんだ。

 剣が燃える。

 千人の魔力が将軍の身体を満たし、傷ついた腕を動かした。


 サフィラが、床に片膝をついたまま息を吞む。

 ガルネは、この術を使うことを最後まで嫌がっていた。

 失敗したときには、千人全員が魔力を使い果たす。

 だが、ほかの切り札は尽きた。


 ガルネは剣を構えた。


「私を王にしたいと言った者たちだ」


 反乱の準備を始めた夜、最初の一人に告げられた。

 将軍についていきたい、と。

 その兵は、今も城門にいる。


「その願いを、無駄にはしない」


 赤い剣が振り下ろされる。

 刃から伸びた光が、玉座の間を縦に割った。


 魔王が、赤い斬撃を両掌で挟み止めた。

 床石が沈む。

 壁の燭台が落ち、玉座の背に亀裂が走った。


 ガルネは叫んだ。

 焼けた腕から、柄へ血が滴る。

 魔王の足は、動いていなかった。


「千人か」


 魔王の手の間で、光が細くなる。


「よく集めた」


 掌が閉じた。

 赤い光が砕けた。


 ガルネの剣が、半ばから折れた。

 千人へつながる魔力の道が、剥き出しになる。

 そこへ魔王が指を入れた。


 サフィラが顔を上げる。


「接続を切って!」


 遅かった。

 黒い輪が、ガルネの足元へ開いた。

 赤い紐を伝い、同じ輪が兵たちの足元にも浮かぶ。


 足と腕に、重みがかかった。

 ガルネは踏ん張った。

 その動きに応じて、重みが増す。

 片膝が床に落ち、剣が手を離れた。


 玉座の間で、兵が次々に武器を置いた。

 城門でも。武器庫でも。

 動こうとするほど身体が重くなり、座り込んで力を抜けば、息はできる。

 千人の力を集めた道を、魔王が逆に辿ったのだ。


 サフィラは最後の魔力で輪に触れた。

 陣を消そうとする。

 自分の腕にも、重みが宿った。


 魔王は、彼女へ目を向けた。


「抵抗する魔力も重みに換えている。術で押すほど重くなるぞ」


 サフィラは唇を噛み、杖を置いた。

 ジルコンも、短剣から手を離した。


 魔王は右手を下ろす。

 床の黒い輪が薄くなった。

 だが、兵たちは誰も立ち上がらなかった。


 王を替えるために集めた千人が、王の前に伏していた。


     *


 ガルネは、折れた剣を見ていた。

 十年の終わりにしては、短かった。

 玉座の間へ踏み込んでから、鐘が一度鳴るほどの時間さえ経っていない。


「私が首謀者です」


 顔を上げた。


「計画も、兵の配置も、私が決めました。兵は私の命令に従っただけです。処分は私に」

「私の魔法は、私が組みました」


 サフィラが口を挟んだ。


「都合よく、研究まであなたのものにしないでください」

「サフィラ」

「私も自分で決めました」


 ジルコンが続けた。


「近衛隊への指示は、私の責任です」


 魔王は三人を見てから、割れた玉座へ目を向けた。


「そこまで欲しいものか」


 ガルネは答えた。


「欲しいです」


 最期まで、それだけは嘘にしたくなかった。


「陛下の下で働く限り、私の勝利は陛下の勝利です。私が築いたものも、集めた者たちも、最後には陛下のものになる」

「それが将軍だ」

「だから、王になりたい」


 魔王は、少し黙った。


「予との決闘で負けてから、十一年になるか」

「はい」

「今度は三人と千人か」

「一人で勝てないと、知りましたので」


 サフィラが隣で、かすかに笑った。

 十年の始まりにも、ガルネは同じことを言った。

 一人では勝てない。力を貸してほしい。

 負けを認めるところから始まった反乱だった。


「なるほど」


 魔王は、壊れた玉座の肘掛けを拾った。


「十年待った甲斐はあった」


 ガルネは顔を上げた。


「……十年?」

「西回廊の、使っていない小客間だったな」


 サフィラの眼鏡がずれた。

 ジルコンの眉が動いた。

 最初の密談をした場所だった。


「なぜ、ご存じなのです」

「散歩の途中で聞こえた」


 魔王はあっさり言った。


「予を倒す策を練る、と。久しぶりに楽しみができた」


 仲間を集める前から、知られていた。ガルネの喉が鳴った。


「では、今日まで……」

「いつ来るのかと思っていたぞ」

「止めようとは」

「なぜだ。止めれば、来なくなる」


 三人とも、言葉を失った。

 魔王は肘掛けを玉座の座面へ置いた。


「して、次はいつだ」


 ガルネは、その言葉を理解できなかった。


「次、とは」

「反乱だ。一度で終わるのか?」


 兵の一人が、顔を上げた。

 別の兵が、その肩を押さえた。

 まだ処刑の話が済んでいない。


「我々を、お許しになるのですか」


 ジルコンが尋ねた。


「構わぬ。城の兵も含め、今日の反乱はすべて許す」


 魔王は足元の黒い輪を消した。

 魔王は兵の一人へ、城中に知らせるよう命じた。拘束した者を解放し、敵味方を問わず、怪我人には治癒師を呼べ、と。


 身体が軽くなる。

 それでも、ガルネにはすぐ立ち上がることができなかった。


「予の首を狙う者を殺していては、次の楽しみがなくなる」


 魔王は、サフィラへ向き直った。


「あの黒い太陽は、いつ完成した」

「……半年前です」

「六重結界は」

「二年前。聖鉱の配合を変えてから、安定しました」

「では、その二年で、予が素手で割る場合も考えられたな」


 サフィラの顔が赤くなった。


「普通は割れません」

「予は割った」


 言い返せない。

 彼女は乱れた髪をかき上げた。


「次は、割らせません」


 魔王の口元が上がった。


「それを見たい」


 ガルネは床へ手をついた。

 立ち上がる。

 傷ついた足が震えたが、もう重みの魔法ではなかった。


「次も、その玉座を狙ってよいのですね」

「そう言っている」

「余興として、負け役を務めるつもりはありません」


 ガルネは魔王の目を見返した。


「次こそ、奪います」


 魔王が笑った。

 声を出して。

 兵たちが、初めて聞く笑い声だった。


「ならば、約束しよう」


 割れた玉座の前で、魔王は告げた。


「予に敗北を認めさせた者に、魔王の座をやる。策も武器も仲間も、好きに用意せよ。遠慮は要らぬ。本気で奪いに来い」


 ガルネの右手が、ゆっくり拳になった。


     *


 アンバルが玉座の間へ来たとき、まず目に入ったのは倒れた扉だった。

 次に、割れた床。

 最後に、砕けた玉座。


「陛下」

「夕食か」

「その前に、状況を伺いたく」

「反乱が終わった」

「それは、見れば分かります」


 アンバルは、三人の幹部を見た。

 首がついている。

 手も縛られていない。

 サフィラに至っては、壊れた壁へ小さな術式を書きつけていた。


「全員、許した。次もやる」


 侍従長の目が、魔王へ戻った。


「次」

「一年後でどうだ」


 魔王は三人へ尋ねた。

 ガルネが答える前に、サフィラが口を開いた。


「最低でも三年は。陣の構造を根本から変える必要があります」

「長い」

「十年お待ちになったのでしょう」

「もう一度十年待てというのか」


 サフィラは黙った。

 アンバルが咳払いをした。


「城を直す期間もございます」

「一年で直せぬのか」

「直せます。ただ、直したあとに、また壊すのであれば」


 侍従長は割れた玉座を指した。


「開催場所を別にしてください」


 魔王は玉座を見た。

 その座面に、片方の肘掛けと折れた矢が載っている。


「ここでは駄目か」

「駄目です」


 反乱を知った瞬間より、はっきりした声だった。


 ガルネが、少しだけ笑った。

 魔王に向けた笑いではない。

 十年の計画に、城の修繕費を入れていなかった自分へだった。


     *


 三週間後、魔王は各氏族の長を城へ集めた。

 反乱を許したこと。

 今後、年に一度、自分の王座を懸けた挑戦を受けること。

 その二つを、継承の宣言として書面にした。


 ガルネも、王座を譲る約束を確かめるために立ち会った。


「複数で挑むことも、お認めになるのですか」


 氏族長の一人が尋ねる。


「構わぬ」

「負けた者の処遇は」

「反乱の罪には問わぬ。次の年に、また来ればよい」


 ざわめきが広がった。

 書面には、挑戦者以外を巻き込まないこと、開催日以外の仕事は通常どおり務めることも記されていた。組で挑む場合は、王位を受け取る代表者を一人届け出る。

 ガルネは、その条件を読んで署名した。

 三人と兵たちの組は、ガルネを代表とした。

 国を引き継ぐために国を壊すつもりはない。


「殺す必要はない。予に敗北を認めさせればよい」


「負けても、お認めにならなければ終わりでしょうか」


 魔王の指が、自分の名を記した場所へ触れた。


「敗れてなお、勝ったふりをして玉座にしがみつけと?」


 ガルネは、ゆっくり頭を下げた。


「そのお答えで、十分です」


 各氏族長が証人として名を記した。

 同じ宣言が、国の広場と兵舎に掲げられた。

 魔王の王座を奪う試みが、魔王の名によって許可された。


 兵舎では、それを三度読み直す兵がいた。

 前回の反乱に加わらなかった者たちも、赤い紐をどこで受け取れるのか尋ねに来た。


 ガルネは、志願者を訓練場へ集めた。


「失敗しても、処刑はされない」


 兵たちの顔が緩む。

 将軍は、その顔を見渡した。


「だが、陛下の魔法を受ければ痛い。怪我もする。刃の前へ出れば死ぬこともある。お祭りを見に来たつもりの者は、見物席へ行け」


 誰も動かなかった。


「次は勝つ。そのために残る者へ、訓練をつける」


 槍の石突きが、地面を打った。

 最初の反乱で城門を守った兵が、前の列にいた。

 腕には、まだ赤い紐を巻いている。


「将軍。今度は、あの輪を踏みません」

「あれは向こうから来る」

「では、来させません」


 ガルネは笑った。


「サフィラに聞いてこい。どうすればいいかは、俺も知りたい」


     *


 一年後の反乱は、四十七秒で終わった。


 開催地に選ばれた南の演習場は、古い石切り場を拡張したものだった。

 民家は遠く、見物席には幾重もの防護結界がある。

 治癒師と救護兵も待機した。

 魔王は開始の鐘で石の椅子から立ち、その前で挑戦者を待った。


 ガルネが突撃した。

 サフィラは結界を十二重へ増やし、ジルコンはその内側へ剣を送り込んだ。

 兵たちは左右から魔法を撃った。


 魔王は結界の継ぎ目を見つけた。

 そこを握って押し開き、箱を構成する術式の一部を外側へ引き出した。

 触れられた術式が、書き換えられる。

 魔王を閉じ込めていた壁が広がり、外で攻撃する三人と前衛兵を包んだ。

 魔王自身は拘束の対象から外れた。足の位置は、変わっていなかった。


 サフィラが外に残した供給路を遮断するまでに、魔王は新たな拘束の術を重ねた。結界の外から反乱兵が攻撃を続けても、その手は止まらなかった。

 解除を終えた三人は、自分たちの足元にある黒い輪を見た。

 ほかの兵にも同じ輪が浮かんでいた。開始から、四十七秒だった。


「中の魔法は封じたが、外側には術式が残っていた」


 魔王は、サフィラに言った。


「外から組んだものを、外から崩しただけだ」


 サフィラは、眼鏡を外した。

 両手で顔を覆う。


「去年より、早い」


 兵も結界も増やした。去年の続きを用意して、去年より簡単に負けた。


 見物席で、誰かが拍手をした。

 ガルネが振り向くと、すぐに止まった。


 魔王だけが楽しそうだった。


「来年はどうする」


 サフィラが顔から手を離した。


「それを今から考えるのです」


     *


 その晩、ガルネは兵舎に三人分の椅子を運んだ。

 サフィラは紙の束を抱えて来た。

 ジルコンは、修理を終えた白い剣を持って来た。


「強くしたものを、順に出しても駄目だ」


 ガルネが言った。


「順には出していません。今日は、同時に」

「同じ場所へ、同じ時に攻撃しただけだ。陛下は、最初に結界へ手をつければ、全部を止められた」


「陛下は、攻撃を止めているあいだも、こちらを見ています」


 近衛隊長は言った。


「矢を止めても、将軍を見ていた。黒陽葬を破るときも、私の剣を見ていた」

「どうすればいい」

「一つを止めることが、ほかを止める邪魔になるようにする」


 サフィラの指が、机を叩いた。


「……大きな一つの術にしない。小さな術を、それぞれ別に動かす」

「千人の力を俺へ集めるのも、やめる」


 ガルネが続けた。

 最後の《赤冠》が、全軍を制圧する道になってしまった。

 部下の力を受け取って強くなることばかり考え、部下をどう動かすかを考え足りなかった。


「兵にも、別々の仕事をさせる」


 サフィラが紙を一枚広げた。

 演習場の図だった。


「まず、私の魔法を破ってください」

「俺がか」

「ええ。陛下に破られるまで欠点に気づかないのでは、一年ごとに一つしか直せません」


 ジルコンが椅子を寄せた。


「私も加わります」


「寝る時間は取れ」


 サフィラが顔を上げる。


「将軍こそ」


 その夜、三人は魔法陣を組んでは崩した。

 翌朝、最初に訓練場へ来た兵が、三人分の朝食を運んできた。


     *


 次の反乱の日、魔王は開始時刻より早く演習場へ来た。

 アンバルが、見物席の結界を確認していた。


「準備は済んだか」

「救護所は整っています。観客の入場は、これからです」

「そうか」


 魔王は石の椅子へ座った。

 少し経つと、立った。

 演習場の端まで歩き、地面に埋め込まれた術式を覗く。


「陛下」

「何だ」

「始まる前にお調べになっては、挑戦者が困ります」


 魔王は足を止めた。

 椅子へ戻る。


「まだか」

「あと半刻です」


 アンバルは、手元の進行表を見た。

 宴の余興を切り上げる王のために、何度も短くした表だった。

 今日は、開始までの待ち時間を削る必要があるかもしれない。


 入場口から、ガルネが現れた。

 右の手袋を締め、続いて左を締める。

 サフィラは青い髪を後ろで束ねていた。

 ジルコンの剣は、鞘に納まっている。


 兵たちが、赤い紐に青や白の腕章を加えて入場した。前回は見物席にいた者も、今日は役割を持って列に加わっている。


 ガルネが、魔王の前で立ち止まった。


「本日も、お命を狙います」

「待っていた」


 魔王は椅子から立った。

 周囲に、兵たちが広がる。

 見物席の声が小さくなった。


 開始の鐘が鳴った。


 最初の矢は、魔王へ向かわなかった。

 足元の地面へ刺さる。

 石の粉が舞い、地中に埋めた魔法陣が一斉に起動した。

 百を超える青い線が、魔王の周囲で交差する。


 白い腕章の兵は、ガルネの退路を担当していた。地面には黒い太陽を一時的に溜める陣がある。標的を外れた力を次の一撃へ戻すためのものだ。使い終えた力は、地下の放熱路へ逃がせる。


 サフィラが杖を上げた。

 頭上に黒い球が生まれる。

 前回までと違い、七つの環はない。

 球を維持する線が、足元の百の陣へ散っている。


 魔王が地面へ指を向けた。

 触れようとした陣が消え、別の場所へ現れる。

 担当の魔術兵が、汗を流して杖を動かす。

 一人が一つ。

 魔王の指を見て、自分の陣だけを移動させる。

 サフィラ一人から奪えば終わる術ではなくなっていた。


 魔王の目が、兵たちへ向いた。


 ガルネが踏み込んだ。

 赤い剣を振り下ろす。

 魔王の右手が、剣の腹を打った。


 刃が逸れる。

 ガルネは抗わず、踏み込んだ足を軸に回った。

 二撃目を返す。

 そこへ、白い刃が重なった。


 ジルコンの剣だった。

 将軍の剣を転位の出口に使い、二本の刃を交互に送り込む。

 魔王が一本へ触れれば、もう一本がその陰から伸びる。


 魔王が左手を上げた。

 細い黒い輪が、二本の刃を囲みかける。


「いま!」


 サフィラが叫んだ。

 青い腕章の兵が、杖を床へ打った。

 輪のすぐ外側に、小さな封鎖結界が開く。

 黒い輪が、途中で途切れた。


 前回は、魔王ごと閉じ込めようとした。

 今回は、組みかけた魔法の一部分だけを封じる。

 術が完成する前なら、必要な魔力はずっと少ない。


 魔王の口元が上がった。


 ガルネの剣が、胸へ迫る。

 魔王は指で刃を掴んだ。

 ジルコンの刃が背後へ回る。

 魔王は、掴んだ剣を引き寄せた。

 ガルネの身体ごと持ち上げ、背後の刃と軌道を重ねる。


 ジルコンが転位先を変えた。

 仲間を斬らずに済む場所へ。

 それも、訓練で繰り返した動きだった。


 白い刃が地面へ刺さる。

 同時に、ガルネが剣の柄を放した。

 魔王へ身体を預けるほど近い位置で、拳を突き出す。


 魔王が、その手首を掴んだ。


 ガルネは笑った。


「サフィラ!」


 黒い太陽が落ちる。

 魔王の真上ではなかった。

 右前方から、斜めに。

 同時に、ジルコンの刃が左後方から現れる。


 魔王の右手は将軍の剣を握っていた。

 左手は将軍の手首を掴んでいた。

 術を編めば、その一部分へ封鎖結界が重なる。

 封鎖担当の兵たちは、魔王の手を見ることだけを命じられていた。


 魔王の指が開いた。

 剣と手首が放される。


 白い腕章の兵が杖を引いた。ガルネの足元の転位陣が起動し、その身体を魔王のそばから退避させる。手を掴まれたままでは使えない術だった。


 黒い靴が、地面を離れた。


 一歩。


 魔王が横へ動いた。


 サフィラは杖を引いた。

 落下する黒い太陽が、地面の受け止め用の陣へ沈む。

 演習場の中央で、石が赤く焼けた。

 ジルコンの剣が、その縁へ突き刺さる。


 一瞬、誰も声を出さなかった。


 ガルネは、魔王の足元を見た。

 靴の跡が、二つある。

 最初に立った場所と、今いる場所に。


「動いた」


 兵の声がした。

 最初の反乱で城門にいた兵だった。


「陛下が、動いたぞ!」


 ガルネは剣を拾い上げた。


「止まるな!」


 歓声が、突撃の声へ変わる。

 黒い太陽は、地面の陣に蓄えられている。

 サフィラが再び杖を上げ、魔術兵たちが陣を動かした。

 ジルコンは剣を転位させ、手元へ戻す。


 魔王は、その全員を見た。


「よい」


 右手が上がった。


「では、次だ」


 黒い線が、空に描かれた。

 サフィラは、自分の杖を止めた。

 見覚えのある形だった。

 先ほどの封鎖結界が、魔術兵の陣と同じ数だけ現れる。


 先に閉じ込められたのは、封鎖結界を担当する兵の陣だった。

 兵が魔王の手へ向けて編んだ結界も、箱の中で途切れた。

 続いて、黒い太陽を支える陣が包まれる。

 サフィラは供給を切った。

 黒い太陽を地面の陣へ戻し、蓄えていた力ごと、地下の放熱路へ逃がした。

 演習場の地面が震えた。


 ガルネが踏み込む。

 魔王の掌が、剣の腹へ触れた。

 赤い刃が地面へ縫い止められる。

 ジルコンの剣も、転位の出口を黒い輪に囲まれた。


 兵たちが陣を逃がそうとする。

 黒い箱も、それを追って動いた。


 サフィラは、唇を開いた。

 自分たちが別々に担当し、何か月もかけて覚えた操作を、魔王は一人で行っていた。

 そのうえで、二人の剣も止めている。

 封鎖を担当する兵は、自分の陣を守ることで手一杯だった。


「使い方は、よく分かった」


 魔王が掌を閉じた。

 黒い箱が小さくなる。

 中の陣が、音もなくほどけていった。


 ガルネの剣は抜けず、ジルコンの刃も転位できなかった。


 サフィラは杖を下ろした。

 兵たちが、魔王を見る。


 王は、全員を見渡した。


「まだやるか」


 ガルネは、自分の手を見た。

 震えている。

 立っているだけで、汗が地面へ落ちた。

 ほかの二人も、兵たちも同じだった。

 魔王だけが、息さえ乱していない。


「……本日は、ここまでです」


 ガルネは剣から手を離した。

 拘束が消える。


 見物席から、大きな拍手が起こった。

 今度はガルネも、振り向かなかった。


     *


 救護所で、ガルネは両手に包帯を巻かれた。

 サフィラは壁へもたれ、目を閉じていた。

 ジルコンは、その横で剣の刃を確かめている。


「一歩でしたね」


 サフィラが言った。


「一歩だ」


 あれだけ準備して、一歩。だが、去年までは届かなかった一歩だった。


 入口の布が持ち上がる。

 魔王が入ってきた。


「あの連携は、誰が考えた」


 三人が、互いを見た。


「三人で」


 ガルネが答える。


「実行したのは、兵も一緒です」

「そうか」


 魔王が頷いた。

 サフィラが目を開く。


「陛下。最後は、避ける必要があったのですか」


 魔王は、彼女を見た。


「あの位置で止めるには、貴様の術を崩しながら、剣と手首を放す必要があった。一歩動くほうが早かった」

「わざとではなく」

「貴様らを喜ばせるためにか?」


 サフィラは、口元を隠した。

 笑っていた。


「それで十分です」


 魔王が鼻を鳴らした。


「勝ったような顔をするな。一歩で玉座はやらぬぞ」

「承知しています」


 ガルネは包帯を巻いた手を握った。


「次は、二歩以上を」

「歩かせたいのか、王になりたいのか、どちらだ」


 ガルネは魔王を見た。


「王になります」


 魔王の口元が、ゆっくり上がった。


「待っている」


 入口の布が下りる。

 三人は、しばらく黙っていた。


 サフィラが起き上がった。


「私の結界を使われました」

「見た」

「あの組み方なら、動かす速度を上げられます。覚えていますか」


 ジルコンが頷いた。


「四番目の陣が、一瞬遅れていました」

「どれくらい」

「私の刃なら、通せる程度には」


 ガルネは立ち上がった。

 入口の外には、訓練場へ戻る兵たちが集まっていた。

 将軍に気づいた一人が、拳を上げる。


「来年も、参加してよろしいですか」


 ガルネは、包帯の手を上げた。


「明日から、訓練だ」


     *


 帰りの馬車で、アンバルが翌月の予定を読み上げた。

 各氏族との会談。軍の閲兵。収穫を祝う宴。

 魔王は窓の外を見ていた。


「陛下。宴の余興ですが」

「任せる」

「承知しました」


 侍従長が手帳を閉じかける。

 魔王が振り向いた。


「次の反乱は、同じ日か」

「はい。一年後の本日です」

「書いておけ」

「すでに記しております」


 魔王は手を差し出した。

 アンバルは手帳を渡す。


 王は、来年の頁を開いた。

 小さく記された『反乱大会』の文字を見つける。

 指で、その日を確かめた。


 アンバルは向かいの席で、予定を読み上げるのをやめた。

 少しのあいだなら、待ってもよいだろう。


 魔王はまだ、来年の頁を見ていた。


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