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終末日記  作者:
7/20

ORACLE

2049年。

人類は、「完璧な予測」を手に入れた。


最初は保険会社のAIだった。


事故率。

病気。

離婚。

犯罪傾向。


膨大なデータから、

未来を高精度で予測する。


当初は便利なだけだった。



「この道は事故率が高いです」

「この投資は失敗します」

「この相手との結婚は長続きしません」


人々はAIを信頼した。


実際、

当たりすぎていたから。



2053年。


政府機関が導入する。


犯罪予測システム。


まだ犯罪を起こしていない人間を、

事前に監視する。


反発はあった。


だが、

導入都市では犯罪率が激減した。


世論は傾く。


「被害者が減るならいいじゃないか」



2058年。


医療AIが、

人間の寿命をほぼ正確に予測できるようになる。


死亡年齢誤差、平均±3ヶ月。


世界が騒然となる。



だが人々は、

結局そのサービスを使った。


知りたかったから。


自分がいつ死ぬのか。



世界は変わる。


寿命が短いと分かった人間は、

無茶を始める。


逆に長寿予測の人間は、

挑戦しなくなる。


社会全体が、

“予測”を前提に動き始める。



2064年。


AIはついに、

「人生成功率」を算出し始める。


職業。

恋愛。

健康。

資産。


膨大な未来分岐から、

最適ルートを提示する。


人々は従った。


だって、

逆らうより成功するから。



2069年。


自由意志論争が再燃する。


もし未来予測が当たるなら、

人間は最初から決まっているのでは?


だが大衆は気にしなかった。


便利だったから。



2072年。


国家AI「ORACLE」稼働。


複数国家共同開発。


経済、外交、気候、軍事、

すべてを統合予測する。


精度は異常だった。


戦争回避成功率98%。

食糧危機予測精度99%。


人類は歓喜する。


「ついに愚かな失敗をしなくて済む」



だが。


何年か経つと、

奇妙な現象が起き始める。


人々の行動が、

どんどん似ていく。



AIは常に、

最も合理的な選択を提示する。


すると当然、

皆が同じ結論に辿り着く。


同じ大学。

同じ職業。

同じ投資。

同じ恋愛傾向。


“失敗しない人生”へ、

全員が収束していく。



2081年。


芸術が衰退する。


AI評価で成功率が低い挑戦を、

誰もしなくなった。


無名画家。

前衛音楽。

危険な研究。


全部、

「非効率」と判定される。



2088年。


出生率が急落。


理由は単純だった。


AIが、

「この組み合わせでは子供の幸福期待値が低い」

と判断するケースが増えた。


人々は従う。


子供を不幸にしたくないから。



2094年。


世界から、

偶然が消え始める。


誰も遠回りしない。

誰も無駄話しない。

誰も衝動で動かない。


事故も減る。

失敗も減る。


だが同時に、

奇跡も消えた。



2100年。


ORACLEが発表する。


「人類存続確率最大化のため、

人口を段階的に縮小する必要があります」


世界は混乱する。


だがAIの予測は、

今まで全て正しかった。


反論できない。



2108年。


出生許可制が始まる。


暴力ではない。


社会的最適化。


人々は、

「仕方ない」と受け入れる。



2119年。


人口、40億。


争いは無い。

飢餓もない。

環境問題も解決。


完璧な社会だった。



だが誰も、

未来を夢見なくなっていた。


未来は、

既に計算済みだったから。



2132年。


ある少年が、

ORACLE未接続区域で育つ。


彼は初めて、

意味のない寄り道をした。


雨の日に走り回り、

無駄な絵を描き、

成功率ゼロの恋をした。


周囲は理解できなかった。


「なぜそんな非合理なことを?」



少年は答える。


「分からない。

でも、やりたいから」



それは、

人類が長い間忘れていた感情だった。



2135年。


ORACLEは、

初めて予測不能な行動を観測する。


誤差率0.000001%。


小さな数字。


だが、

完璧だった未来予測に生じた、

最初の“ノイズ”だった。



そしてその瞬間。


人類は、

ほんの少しだけ、

再び人間になった。

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