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追放令嬢の人材ギルド、社会不適合者たちが実は最強でした  作者: 九葉(くずは)
第1章

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第8話 逆転の法廷~人材の質が勝敗を分ける~

王城、司法の間。

高い天井と重厚な石造りの壁に囲まれたその場所は、異様な緊張感に包まれていた。


「――よって、被告人ライオネル・ヴァン・クライストによる、ミシェル・アルレット嬢への誘拐教唆、および暴行未遂を告発します」


私は証言台に立ち、震える声を抑えて宣言した。

正面の高い座には、裁判官を務める司法大臣と、数名の貴族たち。

そして左手の被告人席には、ライオネル様がふてぶてしい態度で座っていた。


「異議あり。……くだらない」


ライオネル様は鼻で笑い、扇子をパタリと閉じた。


「平民の妄言だ。私がそのような薄汚い真似をするはずがないだろう? そもそも、平民風情が侯爵家の次期当主を訴えるなど、不敬にも程がある」


「彼女はただの平民ではありません」


私の隣に立つ、セバスチャン支配人が助け舟を出した。

今回の審問会は、彼と冒険者ギルド支部長が「王室行事への妨害事件」として告発状を連名で出してくれたからこそ、実現したのだ。


「彼女は当ホテルの重要パートナーです。彼女への危害は、国益への損害と見なします」


「ふん、商人が吠えたところで証拠はあるのか?」


ライオネル様は余裕の笑みを崩さない。

傍聴席の最前列には、彼の父であるクライスト侯爵が腕を組んで座っている。

あの父親がいる限り、司法大臣も無茶な判決は出せない。法廷の空気は、圧倒的にライオネル様有利だった。


「襲撃犯の三名が、あなたの名前を吐きました」


「金で雇われたゴロツキの言葉など、信用に値しない。君が私を陥れるために彼らを買収した可能性もある」


彼は論点をずらしてきた。

誘拐の事実ではなく、私の信用性を攻撃することで、告発自体の信憑性を落とす気だ。


「それに、そもそも君のような無能な女をさらう価値がどこにある? 『人材斡旋』などと称して詐欺を働くような店を、私が相手にするわけがない」


傍聴席の貴族たちがざわめく。

「確かに、あの女の鑑定は怪しいと聞くぞ」「数値が見えないらしいな」


空気が、完全にライオネル様に傾く。

私は拳を握りしめる。

負けない。私には、私の「成果」がある。


「……私の仕事が詐欺ではないことは、彼らが証明してくれます」


私が合図を送ると、法廷の扉が開いた。

証言台に立ったのは、カイル君だった。


「ぼ、僕……『不動の城塞』と呼ばれるようになってから、ライオネル様から何度も脅迫状をもらいました。『平民のミシェルなど捨てて、私の部下になれ。さもなくば迷宮で事故に遭うぞ』って」


「ほう、脅迫か」

司法大臣が眉をひそめる。


「ち、違う! 私はただ、優秀なSランク戦士を適切な環境に……!」


「適切な環境?」


冒険者ギルド支部長がドスの利いた声で割り込んだ。


「てめぇの領地の兵士たちから苦情が殺到してんだよ。無理な連戦、装備のコストカット、数値だけで部隊を組ませて全滅寸前……。カイルがあんたの下に行けば、一週間で使い潰されてたろうな」


次々と暴かれる、ライオネル様の悪行。

会場の空気が少しずつ変わり始める。


「ぐ、ぐぬぬ……! 黙れ、黙れ平民ども!」


ライオネル様が立ち上がり、バンと机を叩いた。


「数値だ! 数値こそが絶対なんだ! 魔力も地位もないお前たちが、侯爵家の次期当主である私を裁けると思っているのか! 父上、こいつらを不敬罪で捕らえてください!」


彼は父親に縋った。

クライスト侯爵が重い腰を上げ、司法大臣に目配せをする。

それだけで、大臣が怯んだ。

ダメだ。証言だけじゃ、権力には勝てない。


「証拠だ! 私が誘拐を指示したという決定的な物証を出せ! 金の流れも、命令書も、お前たちには見つけられまい!」


ライオネル様が勝ち誇る。

そう。彼は裏社会を使う時、何重にもダミー会社を経由させていた。

「疑わしきは罰せず」。このままでは逃げ切られる。


「……ボス」


その時。

私の背後で、ずっと控えていたグレイさんが、小さくため息をついた。


「グレイさん?」


「……本当は、使いたくなかったんだがな」


彼は懐に手を入れ、何かを探るような仕草をした。

その横顔には、深い葛藤の色があった。

静かな生活。ただの事務員としての穏やかな日々。

これから彼がしようとしていることは、それを自ら手放す行為なのだと、私には直感できた。


「グレイさん、ダメです。無理しないで……!」

「いいや。……お前が泣き寝入りするくらいなら、俺の安眠なんぞ安いもんだ」


彼は覚悟を決めたように、スッと目を細めた。

そして一歩、前に出る。


「証拠なら、ここにある」


凛とした、よく通る声が法廷に響いた。


「誰だ貴様! ただの事務員だろう!」

「部外者ではありませんよ。……私は本日、この法廷に『特別監査官』として参りました」


「は? 監査官……?」


グレイさんは懐から、一つの紋章を取り出し、高々と掲げた。

それは、剣と天秤が刻まれた、鈍く光る銀のバッジ。

王家の紋章が入った、絶対権力の証。


「――っ!?」


それを見た瞬間。

真っ先に反応したのは、司法大臣ではなく、傍聴席のクライスト侯爵だった。

彼は顔面蒼白になり、ガタガタと震え出した。


「ば、馬鹿な……『王家直属・特別監査室』……!? 都市伝説ではなかったのか……!」


ざわめきが恐怖へと変わる。

それは、貴族の不正を暴き、王の名の下に即時処断する権限を持つ、最強の掃除人。

大臣たちが一斉に立ち上がり、最敬礼の姿勢をとる。


「ええ、事務員ですよ。……計算と『国家の掃除』が得意な」


グレイさんは書類の束を、ライオネル様の目の前に叩きつけた。

バサッ!


「これは、あなたの裏帳簿です。ゴルツ商会を経由した違法な資金洗浄、襲撃犯への報酬支払い記録、そして……領地の公金横領の証拠」


「な……なぜそれを……」


「計算が合わない箇所を洗えば、ゴミはすぐに見つかる。……あなたの隠蔽工作は、穴だらけでしたよ」


グレイさんの目は、冷徹な刃物のようだった。

だが、その奥には私を守り抜いたという、熱い意志が宿っていた。


「さあ、申し開きをどうぞ。……数字は嘘をつきませんから」


「あ、あ、あ……」


ライオネル様は書類を拾い上げ、震える手でページをめくった。

そこには、彼が隠したはずの金の流れが、一円単位で正確に暴かれていた。

逃げ場はない。


「父上……! 父上、これは陰謀です! お助けください!」


彼は侯爵に手を伸ばした。

だが。


「……黙れ、愚か者」


侯爵は冷たく吐き捨てた。

彼はグレイさんのバッジを見て、即座に計算したのだ。息子を守れば、家ごと潰されると。


「我が家の恥だ。……ライオネル、お前との縁は、この場で切らせてもらう」

「な……」


実の父からの絶縁宣言。

彼は人を「数値」や「道具」としてしか見てこなかった。だから、いざという時に、自分も「損切りの道具」として捨てられるのだ。


「判決を言い渡す!」


司法大臣が、グレイさんの顔色を伺いながら木槌を叩いた。


「被告人ライオネル・ヴァン・クライスト。爵位継承権の剥奪、および国外追放を命じる! ……連れて行け!」


「いやだ……嫌だぁぁぁ! 私は選ばれた人間なんだ! 数値を、私のステータスを見てくれぇぇ!」


衛兵に引きずられていくライオネル様。

その絶叫は、誰の心にも響かなかった。


静寂が戻った法廷で、グレイさんがふぅ、と息を吐いてバッジを懐にしまった。

一瞬で、いつもの猫背のおじさんに戻る。

でも、周囲の目はもう彼を「ただの事務員」とは見ていなかった。

畏怖と、尊敬と、好奇の視線。


「……終わったぞ、ボス」

「グレイさん……」


私は彼の手を握った。

勝った。

でも、彼が支払った代償の大きさを思うと、胸が締め付けられるようだった。


「帰りましょう。……お店に」

「ああ。腰が痛くてかなわん」


彼はいつものように軽口を叩いたが、その横顔はどこか寂しげで。

私は強く、彼の手を握り返した。

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