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追放令嬢の人材ギルド、社会不適合者たちが実は最強でした  作者: 九葉(くずは)
第1章

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第6話 王都の動乱と、ギルドへの理不尽な圧力

夜会での騒動から数日後。

私の予感通り、ライオネル様の報復はすぐにやってきた。

ただし、暴力ではなく、もっと陰湿な形で。


「――よって、貴店の営業停止を命じます」


朝一番に店に現れたのは、商業ギルドの制服を着た男と、役所の人間だった。

彼らは一枚の書類を突きつけ、事務的にそう告げた。


「え、営業停止……?」


私は書類を受け取り、目を通した。

そこに書かれていた罪状は『職業安定法違反』および『詐欺的行為の疑い』。


「な、何かの間違いです! うちは正規の手続きで開業届を出しています!」


「書類上はね」


役人の男――商業ギルドの監査官は、眼鏡の位置を直しながら言った。


「問題なのは、あなたの『鑑定』ですよ。ミシェル・アルレットさん」


「私の鑑定が、何か?」


「国が認めたステータス数値を無視し、『適性』などという科学的根拠のない基準で人材を斡旋している。これは求職者および雇用主に対する背信行為であり、詐欺に当たります」


「詐欺だなんて……! 私は一度だって嘘をついていません!」


「証明できますか?」


監査官は冷ややかな目で私を見下ろした。


「あなたの言う『適性』とやらを、数値で証明できますか? できないでしょう? ならばそれは、あなたの妄想と同じだ」


言葉に詰まる。

私の目に見える「色」は、私にしか見えない。

客観的な証拠を出せと言われても、出せないのだ。


「クライスト侯爵家からも苦情が来ています。『適材適所』などという甘言で、国家の貴重な人材を不適切な労働環境に誘導している、とね」


ライオネル様だ。

夜会で私が言った「成果」という反論を、法という暴力で潰しにかかったのだ。


「本日をもって看板を下ろしなさい。従わなければ、衛兵を呼んで強制執行します」


役人たちが入り口を封鎖しようと動き出す。

私は、震える足をドレスの裾で隠し、一歩前に出た。


「……お待ちください」


「往生際が悪いですね」


「商業法第18条に基づき、異議申し立ての期間が認められているはずです! 即時執行は、明らかな手続き違反ではありませんか?」


私は必死に食い下がった。

夜、グレイさんが「念のため」と言って読ませてくれた法律書の内容を思い出す。


「それに、詐欺の立証には被害者の訴えが必要です。うちのギルドに対して、被害届は出ているのですか?」


「ぐっ……」


監査官が言葉に詰まる。

被害届などあるはずがない。顧客はみんな満足しているのだから。


「へ、屁理屈を! これは緊急措置だ! 侯爵家の要請があれば、審査は後回しでいいんだよ!」


「なるほど。権力の私的利用か」


奥で静かに様子を見ていたグレイさんが、マグカップを置いて立ち上がった。


「なんだ貴様は。公務執行妨害で逮捕するぞ」


「まさか。俺はただの事務員だ」


グレイさんは、いつもの気だるげな様子で書類を覗き込んだ。


「……だが、ボスの言う通りだ。被害者もいないのに強制執行すれば、今度はあんたが『職権乱用』で訴えられることになるぞ?」


「うっ……うう……!」


監査官の額に汗が滲む。

だが、彼も退けない。侯爵家からの圧力があるからだ。


「ええい、黙れ! とにかくこの店は封鎖だ! 衛兵、やれ!」


強行突破。

理屈が通じないなら、力で押し切る気だ。

衛兵たちが近づいてくる。

グレイさんの目がスッと細められた。彼が動けば、全員一瞬で制圧できるだろう。でも、それでは私たちが犯罪者になってしまう。


どうすれば……。


その時だった。


「お困りのようですな」


凛とした老紳士の声が響いた。

入り口の衛兵たちが、驚いて道を開ける。


入ってきたのは、仕立ての良いスーツを着た男性。

グランド・ロイヤルホテルの、セバスチャン支配人だった。


「し、支配人!? どうしてここに?」


「おや、ご存じありませんか? 当ホテルは今、王家からの重要な依頼を受けておりましてね」


支配人は穏やかな笑みを浮かべているが、その目は笑っていない。


「ど、どういうことだ?」


監査官が狼狽える。


「簡単な話です。この店から紹介された『魔法清掃員』のおかげで、当ホテルは隣国の要人をお迎えできている。……もしこのギルドが不当に潰されれば、彼女の精神的ケアができなくなり、彼女は辞めると言っています」


「なっ……たかが清掃員一人で……」


「たかが? ……来週予定されている国王陛下主催の晩餐会において、もしホテルの衛生管理に不備が出たら、その責任は誰が取るのです?」


支配人は一歩踏み出した。


「業務を妨害されたと報告書に書きましょうか? 『商業ギルドの不当な介入により、王室行事に支障が出た』と」


「こ、国王陛下……!?」


役人の顔色が変わる。

ホテルの後ろ盾は、実質的に王室だ。

クライスト侯爵家といえど、王室の行事を妨害したとなればただでは済まない。


「そ、そんな脅し……」


「脅しじゃねぇぞ」


さらに、野太い声が続いた。

ドカドカと入ってきたのは、筋肉質の巨漢。

冒険者ギルドの、王都支部長だ。


「し、支部長まで!?」


「おうミシェルちゃん、邪魔するぜ。……おい役人、うちの稼ぎ頭の『不動の城塞カイル』がよ、今朝ギルドに来てストライキするって騒いでんだよ」


支部長は耳をほじりながら、凄味のある声で言った。


「『ミシェルさんのお店がなくなるなら、僕はもう迷宮に入りません』ってな。あいつが潜らないと、深層からの希少素材の供給が止まる。……魔導具の生産ラインも、薬の製造も、全部ストップだ」


支部長はニヤリと笑い、監査官の胸ぐらを軽く突いた。


「王都の経済が大混乱になるぜ? その損害賠償、あんたの給料で払えるのか?」


王室の威光と、国家の経済。

その二つの巨大な後ろ盾が、私の小さな店を守るために立ちはだかっていた。


「ど、どうなってるんだ……」


監査官は後ずさった。

ただの平民の店だと思っていたのに、潰した瞬間に発生するリスクが大きすぎる。

自分の首が飛ぶどころではない。


「……くそっ!」


監査官は書類を握りつぶした。

勝てない。

政治力で、完全に詰んでいる。


「……お、覚えてろ! ただで済むと思うなよ!」


役人たちは捨て台詞を吐き、逃げるように去っていった。

二度目の勝利だ。


「あ、あの……ありがとうございます!」


私は深々と頭を下げた。

足の震えが止まらない。怖かった。


「支配人、支部長……どうして、今日がピンチだって分かったんですか?」


「ん? ああ、それは……」


二人は顔を見合わせ、チラリと奥を見た。

視線の先には、グレイさんがいつものように紅茶を啜っている。


「……昨夜、速達で手紙が届きましてな。『明日の朝、とある役人が国益を損なう暴挙に出る。止めるなら今だ』と」


「俺のところにもだ。『稼ぎ頭のメンタルケアに協力求む』ってな」


昨夜。

私はハッとしてグレイさんを見た。

彼は私と目が合うと、悪戯っぽく片目を閉じた。


(……グレイさん!)


彼が呼んでくれたのだ。

私が法律書を読んでいる間に、彼はライオネル様の次の一手を予測し、先手を打っていたのだ。


「皆様、本当にありがとうございました。……私、一人じゃ何もできませんでした」


「謙遜なさるな。彼らが動いたのは、あなたが日頃築いた信頼があるからですよ」


支配人の言葉に、胸が熱くなった。

無能だと言われた私。

でも今、私が繋いだ縁が、最強の盾となって私を守ってくれている。


          ◇


一方その頃。

報告を受けたライオネルは、自室の鏡を叩き割っていた。


「なぜだ……! なぜあの女ばかり!」


法も通じない。

権力も、向こうの味方のほうが強くなっている。

父である侯爵からも、「これ以上騒ぎを大きくすれば、お前の廃嫡も考えるぞ」と釘を刺された。


「許さん……許さんぞミシェル……!」


彼の目から、理性の光が消えていく。

プライドを粉々にされた彼は、もう手段を選べなかった。


「法が駄目なら、力だ。……この世から消してしまえば、数値も成果も関係ない」


彼は引き出しの奥から、裏社会への連絡用パイプを取り出した。

それは、貴族としても超えてはいけない一線。

愚かにも、彼は自ら破滅へのスイッチを押したのだ。


「さらってこい。……そして、二度と人前に出られないようにしてやる」


暗い情熱に浮かされた彼は、もう止まれなかった。

その選択が、眠れる獅子の逆鱗に触れる行為だとも知らずに。

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