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追放令嬢の人材ギルド、社会不適合者たちが実は最強でした  作者: 九葉(くずは)
第1章

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第4話 竜の落とし子は雑用係?

ゴルツ商会の一件以来、『適材適所』ギルドの評判はうなぎ登りだった。

毎日のように依頼人が訪れ、私は嬉しい悲鳴を上げている。


「次の方、どうぞー!」


私が声を張り上げると、おずおずとドアが開いた。


入ってきたのは、深くフードを被った小柄な少女だった。

年齢は十四、五歳くらい。

ボロボロのマントを羽織り、抱きかかえた鞄をギュッと握りしめている。


「あ、あの……お仕事を紹介してくれるって、聞いて……」


震える声だ。

私はすぐに立ち上がり、彼女を迎え入れた。


「ええ、もちろん! ようこそ。私はミシェルです」


少女は椅子に座るのを躊躇っていた。

彼女はちらりと、カウンターの奥で新聞を読んでいるグレイさんに視線を送る。

グレイさんは一瞬だけ新聞から目を離し、鼻を鳴らした。


「……気にせず掛けろ。客なんだろ」


「は、はい……!」


少女はビクッとしながら椅子に座った。

その拍子に、彼女が小さく「くしゅん!」とくしゃみをした。


ボウッ!


「えっ?」


一瞬、彼女の口元から白い炎のようなものが漏れ、テーブルの上に置いてあったメモ帳が灰になった。


「ひぃっ! ご、ごめんなさい!」


少女は真っ青になって謝る。

私は瞬きをした。

今、火が出た? でも、焦げ臭くない。


「あの、私……どこに行ってもダメなんです。面接に行っても、緊張して魔力が漏れちゃって、ボヤ騒ぎを起こして……。昨日も、食堂の厨房を半壊させちゃいました」


「は、半壊……」


それはまた豪快な。

カイル君の時といい、なぜうちには破壊神ばかり集まるのだろう。


「私、竜人族ドラゴニュートのハーフなんです。だから、魔力の量だけは多くて……制御ができなくて……」


彼女はフードを少し外した。

銀色の髪の間から、小さな白い角が生えている。

竜人族。人間よりも遥かに高い身体能力と魔力を持つ種族だ。


「魔力なんていらないんです。私、普通に働いて、お母さんに楽をさせてあげたいだけなのに……」


涙をこぼすフィーナちゃん。

親孝行な子だ。なんとかしてあげたい。


「分かったわ。あなたの適性、私に見せてくれる?」


私は彼女を安心させるように微笑み、いつものフレームを作った。

竜人族の魔力暴走。もしそれが「攻撃魔法」なら、冒険者か軍属が適職かもしれない。


「――【鑑定】」


スキル発動。

世界の色が反転する。


フィーナちゃんの体から溢れる光を見る。


(……わあ)


私は目を丸くした。


そこにあったのは、攻撃魔法特有の「赤」でも「黒」でもなかった。

眩いばかりの、透き通った「白」。

それは、全てを洗い流すような、清浄な輝きだった。


----------------

【対象:フィーナ】


適性職業:

攻撃魔導師:D(出力過多)

精密作業:E


特殊適性:

清掃員(浄化):SSS

家事(洗濯):SSS

解体業:A


保有スキル:

【白竜の息吹ホワイト・ブレス

※対象の汚濁・腐食のみを消滅させる特殊魔力。

----------------


(……これって)


私は驚きのあまり、鑑定を二度見した。


彼女の魔力は、燃やすための炎じゃない。

「汚れ」だけを焼き尽くす、究極の浄化魔法だ。

さっきメモ帳が消えたのも、おそらく「紙=ゴミ」と認識して消滅させてしまったのだろう。


これは、ものすごい才能だ。

使い所さえ間違えなければ。


「……ミシェルさん? やっぱり、私には無理でしょうか……」


不安そうに見上げるフィーナちゃん。

私はガバッと彼女の手を握った。


「無理じゃないわ! フィーナちゃん、あなた最高よ!」

「えっ、ええっ!?」

「あなたのその魔法、ただの暴走じゃないの。『世界一キレイにする魔法』なのよ!」


私はすぐに頭の中の「求人リスト」を検索した。

これだけの【清掃スキル】が活かせる場所。

普通の宿屋じゃオーバースペックだ。もっと、異常なほど清潔さを求める場所でないと。


あった。一件だけ、条件に合う依頼が。


「グレイさん! 出かけますよ!」

「……嫌な予感がする」


グレイさんが顔をしかめるが、私は無視してフィーナちゃんを立たせた。


「行きましょう、フィーナちゃん。あなたが輝ける場所へ!」


          ◇


私たちが向かったのは、王都の一等地。

そこにそびえ立つ、白亜の巨大な建物。


『グランド・ロイヤルホテル』。

国王陛下の来賓も泊まるという、国内最高峰のホテルだ。


私は従業員通用口に向かい、支配人を呼び出した。

先日、ギルドに「人手が足りない」と打診があったのだ。


現れたのは、神経質そうな眼鏡の男性、セバスチャン支配人だった。


「人材斡旋ギルドの方ですね。……で、紹介したいというのは?」


セバスチャン支配人は、ボロボロのマントを羽織ったフィーナちゃんを見て、あからさまに眉をひそめた。


「冗談でしょう? 竜人族の子供などに、当ホテルの清掃が務まるとは思えませんが。むしろ備品を壊されるのがオチだ」


「見かけで判断しないでください」


私は食い下がった。


「彼女は『魔法清掃』のスペシャリストです。どんな汚れも一瞬で消し去ります」


「魔法? 当ホテルでは、魔法使いは採用しておりません。調度品を焦がされるリスクがありますからな」


「焦がしません。……フィーナちゃん、あの壁でやってみて」


私はホテルの裏口にある、長年の雨風で黒ずんだ石壁を指差した。

フィーナちゃんは深呼吸をする。


「い、いきます……!」


彼女は両手をかざした。

魔力が練り上げられる。


「――『クリーン』!」


ボウッ!!


白い閃光が、石壁を飲み込んだ。

支配人が「ひっ」と悲鳴を上げる。

だが、光が収まった後。そこには建設当時のような純白の石壁が現れていた。

黒ずみも苔も、全てが「消滅」している。


「な……」


支配人は眼鏡をずり落とした。

壁を触る。ツルツルだ。


「す、すごい……。これほどの魔力とは」


「でしょう? 彼女なら、広間の清掃も一瞬です」


私が胸を張ると、支配人はしかし、首を横に振った。


「いいえ。壁は石だから燃えないでしょう。ですが、我々が扱っているのは最高級のシルクや、国宝級のタペストリーです。魔法など使えば、汚れと一緒に生地まで燃えてしまう」


やはり、そこを突いてきたか。

支配人は懐から、一枚のハンカチを取り出した。

上質なレースの刺繍が入った、見るからに高価そうなものだ。そこにはワインのシミがべっとりとついている。


「これは隣国の王子が愛用されているハンカチです。このシミを、生地を一切傷つけずに消せますか? もし焦がせば、賠償金は金貨百枚ですが」


試されている。

フィーナちゃんが青ざめて後ずさる。


「む、無理です……。そんな高いもの……」

「大丈夫よ、フィーナちゃん」


私は彼女の背中に手を当てた。


「イメージして。燃やすんじゃないの。汚れだけを『食べて』もらうの。あなたの光は、優しい光だから」


「……優しい、光」


フィーナちゃんは私の目を見た。

私は強く頷く。

彼女は意を決して、ハンカチに手をかざした。


震える指先。

でも、その魔力はさっきよりも繊細にコントロールされている。


「……お願い、消えて」


ふわり。

白い光が、優しくハンカチを包み込んだ。

熱さは全くない。ただ、温かい陽だまりのような光。


数秒後。

光が消えると、そこにはシミ一つない、新品同様のハンカチがあった。

レースのほつれ一つない。完璧な仕事だ。


「……信じられない」


支配人はハンカチを手に取り、光に透かして確認した。


「繊維の傷みすらない。……魔法で、これほど繊細な作業ができるなんて」


彼は顔を上げ、フィーナちゃんの手をガッチリと握った。


「採用です! いや、ぜひ来てください! 実は先日のパーティーで、カーペットにソースがこぼれて困り果てていたんです! 君なら救世主になれる!」


「あ、あの……私でいいんですか?」


「君がいいんです! 給金は弾みますよ!」


支配人の変わり身の早さに苦笑しつつ、私はフィーナちゃんに向き直った。


「よかったわね、フィーナちゃん」


「ミシェルさん……」


彼女の大きな瞳から、ポロポロと涙がこぼれた。


「私……ここで働いていいんですね。何も壊さずに、誰かの役に立てるんですね」

「ええ。あなたの魔法は、世界を美しくするための魔法だもの」


フィーナちゃんは何度も何度も頷き、尻尾をパタパタと振った。


「……やれやれ」


少し離れたところで見ていたグレイさんが、肩をすくめた。


「『白竜の浄化』を染み抜きに使うとはな。……竜神様も苦笑いだ」

「何か言いましたか?」

「いや。……いい仕事をしたなと言ったんだ」


彼はぶっきらぼうに言いながらも、その目尻は少し下がっていた。


          ◇


その日の夜。

侯爵邸の一室。


「……なんだと?」


ライオネルは、報告書を持ってきた執事を睨みつけた。


「あの『無能女』の店が、グランド・ロイヤルホテルと提携しただと?」


「はい。竜人族を清掃員として送り込み、支配人が絶賛しているとか……」


バキンッ。

ライオネルの手の中で、羽ペンがへし折れた。


「馬鹿な……。竜人族ほどの高魔力者を、掃除夫にするだと?」


彼はギリギリと歯噛みした。


「資源の無駄遣いだ! 強大な魔力は軍事や魔導研究に使ってこそ価値がある。それを、たかがシミ抜きなどに……! 非合理的にも程がある!」


彼の目には、ミシェルの成功への嫉妬と、自分の理論が通じない苛立ちが渦巻いていた。


「認めん……。数値こそが絶対だ。適材適所などという戯言で、国家の貴重なリソースをドブに捨てさせてたまるか」


ライオネルは執事に冷たく命じた。


「次の『夜会』の招待状を用意しろ。……ミシェルを招待する。公衆の面前で、その歪んだ経営を断罪し、店を潰してやる」

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