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追放令嬢の人材ギルド、社会不適合者たちが実は最強でした  作者: 九葉(くずは)
第2章

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第15話 外交パーティーでの求婚

王城の大広間は、これ以上ないほど煌びやかな光に満ちていた。

水晶のシャンデリア。

最高級の楽団が奏でるワルツ。

そして、着飾った貴族たちのさざめき。


「……美しい。今宵の君は、宝石よりも輝いていますよ」


耳元で囁かれる甘い言葉。

私の手を取り、エスコートしているのは、ガレリア帝国の第二皇子、レオナルド殿下だ。


「……お褒めいただき、光栄です」


私は強張った笑顔で答えた。

今日の私は、プリシラ様が選んでくれた淡い水色のドレスを着ている。

周囲の視線が痛い。

羨望、嫉妬、そして好奇心。

「平民の小娘が」「隣国の皇子をたぶらかして」……そんな囁き声が聞こえる。


私はチラリと視線を巡らせた。

会場の隅。

煌びやかな光が届かない、壁際の影。


そこに、黒い従者服を着たグレイさんが立っていた。


「…………」


彼は直立不動で、無表情にこちらを見ていた。

その周囲だけ、人がいない。

貴族たちが「元暗殺者だ」「血生臭い」と、露骨に彼を避けているのだ。

彼は何も言わず、ただじっと耐えている。私の護衛という役目を果たすために。


「おや。雑音が耳障りですね」


レオナルド皇子が、ふと足を止めた。

彼が会場を一瞥する。

ただそれだけ。

ニコリと微笑み、人差し指を口元に当てただけで――会場を支配していた陰湿な囁きが、ピタリと止んだ。


圧倒的なカリスマ。

暴力でも、恫喝でもない。

ただそこに在るだけで場を支配する、王者の風格。


「行きましょう、ミシェル嬢。……雑音は消しました」


皇子は優雅に私をダンスフロアへ導く。

誰もが彼に道を譲り、ひれ伏すような視線を送る。

私は守られている。彼の圧倒的な「光」の傘の下で。


その光景を、グレイさんが見ていた。

彼の拳が、微かに握りしめられているのが見えた。

彼なら、陰口を叩く貴族を「殺す」ことはできても、こうして「黙らせる」ことはできない。

その残酷な対比が、今の彼を打ちのめしているように見えた。


「見てごらん、ミシェル嬢」


皇子は優雅に回りながら言った。


「この光景を。誰もが私たちを見ている。……君は、この『光』の中にいるべき人だ」


「光……」


「そうだ。君の才能は世界を変える。薄暗い路地裏で、世間の風に怯えながら暮らすべきじゃない」


彼の言葉に合わせて、私たちはクルクルと回る。

シャンデリアの光が残像となって流れる。


「帝国に来れば、君に最高の地位と名誉を約束しよう。……誰も君を『平民』とは呼ばせません。君の尊厳は、私が守る」


「……グレイさんも、私を守ってくれています」


私は必死に反論した。


「彼の手は、誰よりも温かいです」


「温かい? ……いいえ、それは『血』の温かさだ」


皇子は冷ややかに、壁際のグレイさんを一瞥した。


「彼は優秀な番犬だ。だが、それだけだ。……彼の力は『破壊』でしかない。君の社会的地位を守り、君の理想を実現するけんりょくは、彼にはない」


皇子の白い手袋が、私の手を握りしめる。

汚れ一つない、高貴な手。


それに対し、グレイさんの手は。

タコだらけで、傷跡があって。

でも、私にお茶を淹れてくれる時は、誰よりも優しい手。


「……私の目は」


私は踊りながら、皇子を見上げた。


「私の目には、彼の手のほうが綺麗に見えます」


「……愚かだ」


皇子は溜息をついた。

哀れむような目だった。


「情に流され、本質を見失っている。……彼と一緒にいて、君に何が残る? 彼は影だ。光の中にいる君とは、生きる世界が違う」


音楽が盛り上がり、最後のターンをする。

その一瞬、グレイさんと目が合った。


その瞳には、いつもの強い光がない。

どこか寂しげで、そして――諦めたような色が見えた。


(……グレイさん?)


胸がざわついた。

まさか、彼も思っているの?

自分は私に相応しくない、と。

私を守るには、「力」が足りないのだと。


「……嫌」


私は小さく呟いた。

私が声を上げようとした瞬間、曲が終わった。

拍手喝采。

皇子は満足げに微笑み、私の手にキスをした。


「答えは急ぎません。……ですが、君は賢い人だ。どちらの手を取るべきか、理解するはずです」


彼は余裕の笑みで私を解放した。

私は逃げるように、壁際へ早足で向かった。


「グレイさん!」


彼のもとへ辿り着く。

グレイさんは、スッと姿勢を正した。


「……お疲れ様です、ミシェル・・・・


他人行儀な敬語。

そして、「ボス」ではなく「ミシェル様」。

それが、心臓を抉られるように冷たく感じられた。


「グレイさん、あのね、皇子が変なことを言って……」

「帰りましょう」


彼は私の言葉を遮った。

そして、一歩下がる。

決して横には並ばない。従者としての、一歩下がった位置。


「護衛いたします。……馬車へ」


彼は私の手を取らなかった。

いつもなら、さりげなく腰に手を回して人混みから守ってくれるのに。

今は、ただ背後についてくるだけ。


「グレイ、さん……?」


振り返っても、彼は目を合わせてくれなかった。

そこにあるのは、完璧な従者の仮面。

近くて、遠い。

すぐ後ろにいるのに、彼との間に見えない壁があるみたいだ。


レオナルド皇子の言葉が、呪いのように頭の中でリフレインする。

『彼は影だ』

『生きる世界が違う』


違う。そんなことない。

否定したいのに、今の彼の態度は、それを肯定しているようで。


「……帰りましょう」


私はドレスの裾を握りしめ、前を向いて歩き出した。

彼の手の温もりが恋しい。

でも今は、その手を伸ばすことさえ許されない気がして。


煌びやかなパーティー会場の光が、今の私には残酷なほど眩しかった。

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