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追放令嬢の人材ギルド、社会不適合者たちが実は最強でした  作者: 九葉(くずは)
第1章

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10/20

第10話 最高のパートナーと、新しい日常

ライオネル様との一件から、数ヶ月が経った。

季節は巡り、柔らかな陽射しが降り注ぐ春。


『王室御用達・人材斡旋ギルド 適材適所』


ピカピカに磨き上げられた看板が、今日も誇らしげに掲げられている。

かつて廃倉庫だったこの場所は、今や王都で一番の「駆け込み寺」となっていた。

そして同時に、王宮からの「極秘案件」が持ち込まれる裏の相談所でもあった。


「次の方、どうぞー!」


私が声を上げると、待合室から一人の女性が立ち上がった。

深々とフードを被っているが、そのドレスが上質なものだとすぐに分かる。

彼女は椅子の前に立つと、意を決したようにフードを外した。


「……お久しぶりですわね、ミシェルさん」


「あなたは……」


私は息を呑んだ。

そこにいたのは、あの夜会でライオネル様の隣にいた、新しい婚約者の伯爵令嬢だったからだ。

確か、プリシラ様。


「帰れとおっしゃるなら帰りますわ。……私の家は、クライスト侯爵家に連座して没落寸前。評判も最悪ですもの」


彼女は唇を噛みしめ、自嘲気味に笑った。

かつての高慢な態度はなく、あるのは疲れと、それでも消えない瞳の強さだけ。


「何を言っているんですか」


私は笑顔で椅子を勧めた。


「うちは『適材適所』。過去の経歴なんて関係ありません。……働きたいという意志があるなら、あなたは大切なお客様です」


プリシラ様は目を見開き、そして震える声で「……ありがとう」と呟いて座った。


「私、何もできませんの。刺繍も下手ですし、愛想笑いも苦手で……。ただ、プライドが高いだけの役立たずですわ」


「本当にそうでしょうか?」


私はいつものフレームを作った。

彼女の「プライド」。それは欠点だろうか?

いいえ、それはきっと――。


「――【鑑定】」


世界の色が変わる。

彼女から溢れるのは、一本芯の通った、紫色の高貴な輝き。


----------------

【対象:プリシラ】


適性職業:

マナー講師:S

クレーム対応係:SS

対貴族・交渉代理人:A


潜在能力:

【鋼のメンタル】

※理不尽な相手にも一歩も引かない胆力。

----------------


「……すごい」


私は感嘆の声を上げた。

彼女の「プライドの高さ」は、「誰に対しても怯まない強さ」だったのだ。


「プリシラ様。あなたにぴったりの仕事があります」


「えっ? こ、こんな私に?」


「はい。冒険者ギルドの受付および『対貴族交渉係』です」


荒くれ者の冒険者を黙らせ、無理難題を言ってくる貴族を礼儀正しく追い返す。

彼女の気高さと度胸があれば、最高の適任者だ。


「貴族相手に喧嘩……いえ、交渉をする仕事? ……ふふ、面白そうですわね」


プリシラ様は、初めて心からの笑顔を見せた。

彼女もまた、自分の居場所を見つけたのだ。


          ◇


「おーい、ミシェルさーん!」


お昼休み。

元気な声と共に、ドアが開いた。

巨大な猪の魔物を肩に担いだカイル君と、その後ろを掃除道具を持ったフィーナちゃんが歩いてくる。


「カイル君! また魔物をそのまま持ち込んで! 床が汚れるでしょう!」

「あ、ごめん! つい嬉しくて!」


「もう……。『クリーン』!」


フィーナちゃんが白い光を放つと、床に落ちた泥が一瞬で消滅する。

彼女は今やグランド・ロイヤルホテルの清掃長だ。

カイル君も、Sランク冒険者として国中の憧れの的になっている。


「よう、坊主。またでかくなったか?」


奥からグレイさんが出てきて、カイル君の頭をガシガシと撫でた。

カイル君は「やめてよグレイさん!」と笑いながらも嬉しそうだ。


「グレイさん、これお土産! 迷宮で見つけた『腰痛に効く薬草』!」

「……お前、最高だな。王宮から送られてきた高い薬より効きそうだ」


みんなでテーブルを囲み、グレイさんの手料理(絶品シチュー)を食べる。

「美味しい!」「おかわり!」

笑い声が倉庫に響く。

かつて「無能」と捨てられた私たちが、こうして家族のように食卓を囲んでいる。


私は幸せを噛み締めながら、ふとグレイさんを見た。

彼はカイル君の話を聞きながら、穏やかに微笑んでいる。

あの「虚無の瞳」をしていた暗殺者の面影は、もうどこにもない。


          ◇


夜。

閉店作業を終え、静寂が戻った店内。

私はカウンターの掃除をしていた。


「あれ……?」


グレイさんがいつも座っているソファの隙間に、何かが挟まっている。

薄い本のようなものだ。


「グレイさん、何か落としてますよ?」


「ん? あ、待てミシェル! それは……!」


奥の給湯室から、グレイさんが珍しく血相を変えて飛び出してきた。

でも、遅かった。

私はその冊子を拾い上げてしまっていた。


表紙には『王室御用達・最新ジュエリーカタログ』の文字。

そして、付箋が貼られたページには、シンプルな、でも最高級のダイヤモンドの指輪。

そこには、赤ペンで『資産価値良し』『ボスの指サイズ:左薬指〇号(推測)』とメモ書きがしてあった。


「…………」

「…………」


沈黙。

グレイさんが、顔を真っ赤にして立ち尽くしている。

あの「影」と呼ばれた男が、耳まで赤い。


「……あー。それはだな。……将来的な、資産運用の、だな」


「資産運用、ですか?」


私はニヤニヤするのを抑えきれなかった。


「私の指のサイズで、運用するんですか?」


「……う」


グレイさんは観念したようにため息をつき、ガシガシと頭を掻いた。


「……まだ、早いかと思ってな。もう少し店が安定してから渡そうと……」


「もう十分、安定してますよ?」


私はカタログを閉じて、彼に近づいた。


「最高の事務員さんが、計算してくれたんでしょう? なら、間違いありません」


「……ミシェル」


グレイさんは苦笑して、私の手を取った。

その手は温かくて、少しだけ汗ばんでいて、とても人間らしかった。


「俺はずっと、自分の価値なんて『どれだけ人を殺せるか』だと思ってた。……でも、お前が教えてくれたんだ」


彼は私の目を真っ直ぐに見た。


「俺の価値は、お前の隣で、お前を守り、共に生きることにあるんだと」


「グレイさん……」


「君には価値がないなんて、誰が言ったんだろうな」


彼は私の手の甲に、敬愛を込めた口づけを落とした。


「今の俺が一番価値を感じているのは、世界でただ一人。……ミシェル、君だけだ」


涙が滲んだ。

かつて婚約者に否定され、全てを失った私。

でも今、私は世界一幸せな「場所」にいる。


私は涙を拭い、満面の笑みで答えた。


「はい! ……私も、あなたのことが大好きです。最高のパートナーさん!」


時計の針が時を刻む。

明日はまた、たくさんの人が「自分の居場所」を求めて扉を叩くだろう。

でも大丈夫。

私には「真実を見抜く目」と、背中を預けられる最強の彼がいる。


私たちの「適材適所」な毎日は、まだ始まったばかりだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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― 新着の感想 ―
すごく面白かったです! 素敵なお話をありがとうございます! グレイさんの年齢が想像できなくて、最終的には,ちょっとおじさん?ぐらいなのかな?
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