愛されたい
アントンは私よりも四歳も歳下で、妹ジュリアに相応しい人だ。
だけど、アントンは花束を持って私の元を訪ねてくれる。
私は年増で、可愛くもないのに。
だけど、彼は私がいいと言ってくれる。
妹ジュリアは恋をしていた。
同じ歳の彼はとてもハンサムで、面白い話をする人だった。
だけど、彼は、裕福な令嬢を選んだ。
婚約はしていなかった。
だけど、パーティーでもいつもダンスをしていたし、ピクニックも一緒に行った。
婚約は秒読みだと思っていた。
だけど、彼は彼女を選んだ。
何も言わずに。
私たちはあるパーティに参加して、そこで彼の裏切りを知った。
彼を罵った妹は冷たい視線を周りに向けられ、私は慌ててジュリアを連れて帰った。
ジュリアは毎日泣いて暮らした。
見かねたアントンは妹にも花を贈るようになった。
彼は両手に花を抱えて遊びにくる。
そして私たちへ渡す。
花束を渡されている妹ジュリアとアントンはとてもお似合いだった。
妹は徐々に冷静さを取り戻した。
けれども前のような快活さはない。
そんな時、ずっと空き家だった家に、男性が引っ越してきた。
どうやら彼は一度結婚に失敗していて、少し気難しい感じに見えた。
顔をみれば挨拶をする。
両親を亡くした私たちは、土地を人に貸していた。
時折、貸した土地を視察しに行く必要があって、遠出をした。
帰る時に、馬車の車輪が壊れて、立ち往生した。
その時に、隣人が通り過ぎて、助けてくれた。
私たちを家まで送ってくれたのだ。
初めて、私たちは隣人と話すことになった。
彼の名はブルーノ。
難しい顔をしているが、優しい人だった。
その日から彼と交流が始まる。
どうやら妹のことを気に入ってしまったらしい。
それはそうだろう。
だけど、彼は私よりも年上に見えた。
いい人だとわかるけど、妹は乗り気に見えなかった。
誘われたけど、断る理由がなくて、私と妹は彼の屋敷に招かれた。
そこで、妹はピアノにすっかり夢中になってしまった。
子供みたいに。
彼は妹にピアノを教えてくれることになった。
もちろん、監視人として私も同行する。
彼のピアノはとても美しい音色だった。
噂というものは耳を塞いでも聞こえてくる。
彼は妻に浮気をされ、離婚していた。妻は若くてハンサムな男と浮気し、出て行った。
彼の顔は少し怖くて、とてもハンサムな部類ではない。
けれども見慣れれば少し可愛くも見える。
妹と一緒にいると兄と妹にしか見えないけど。
変わらずアントンは家に訪ねてきてくれた。
けれどもブルーノさんの話をすると少し不機嫌になった。
ブルーノさんが妹に好意を持っているのが嫌なのかもしれない。
「昨日はどこに行っていたの?」
「ブルーノさんのところよ。彼はとても珍しい紅茶をご馳走してくれた。妹と一緒にいると彼が若返っていくみたいなの。前はハンサムだったかもね」
「そう」
ブルーノさんの話をすると黙りこくる。
「キャサリンはブルーノさんが好きなの?」
「嫌いじゃないわ。いい人だもの」
好きなのはあなただけど。
心の中でそう付け足す。
アントンはブルーノさんと妹が近づくのが嫌なのだろうか。
「僕もピアノが弾けるんだ」
「そうなの。すごいわね。今度ブルーノさんのところで一緒に弾く?」
「いいよ」
そう言って、アントンも連れてブルーノさんの家に伺うことになった。もちろん事前に話はしている。
ブルーノさんは妹と二人で笑いあって、何か意味深だった。
アントンのピアノは頑張って弾いたという音色だった。
だけど、私にとってピアノを弾けること時点で素晴らしいので、褒めたたえた。
彼は嬉しそうではない。
その後、ブルーノさんと妹が連弾をして、その意気ぴったりの演奏に私は驚いた。
二人は見つめ合い、楽しそうに弾いていた。
「なんだ。そうだったのか」
隣に座っていたアントンがなんだかほっとしたような表情をしていた。
「姉さん。私、ブルーノさんと結婚する予定なの」
「ジュリア?!」
そんなこと聞いてなかった。
ブルーノさんは慌てて私のところへ駆けてきた。
「申し訳ない。順番が正しくなくて」
「いいのよ。ブルーノさん。今言わないと、また勘違いされちゃうわ」
ジュリアはちらっとアントンを見て、ブルーノさんへ視線を戻す。
「そうだな。キャサリン嬢。肉親である君に最初に話すべきだった。申し訳ない。妹のジュリア嬢と結婚したいと思っている。許していただけないか?」
「ジュリアはいいの?それで?」
私はとっさにジュリアに聞いてしまった。
最初とても彼女はブルーノさんが苦手そうだったから。
今はとても楽しそうにピアノを教えてもらっていたけど、念のために彼女の気持ちを確認したかった。
「ええ。姉さん。私はブルーノさんと結婚したい」
「分かりました。後日また家に来ていただけますか?」
正式な手順というものがある。
「わかりました」
「もう、姉さんは堅いわね。アントン。あなたも手順を踏んだほうがいいわよ」
「そうだね。アドバイスありがとう。ジュリア」
アントンはジュリアに微笑みかけ、ブルーノさんが顔を顰めていた。
本当にブルーノさんはジュリアを愛しているらしい。
ジュリアも。
彼女の最初の恋は浮かれたもので、鼻歌交じりで、踊り出すこともあった。 今の恋は、しっかりしたもの。あのピアノの連弾が彼女の気持ちを物語っていた。
数日後、ブルーノさんが家に挨拶にきて、正式に婚約となり、結婚式は一か月後になった。
そして、アントン。
婚約者となった妹は一人でブルーノさんの家に行く。
家に取り残され、編み物していると、アントンが訪ねてきた。
持っている花束は一つ。
私は編み物をテーブルの上に置き、彼を迎える。
扉を閉めた後、彼は突然片膝をついた。
「キャサリン。どうか、僕と結婚してくれないか」
アントンは私だけを見つめていた。
妹でもない、私を。
「私でいいの?」
「君がいいんだ。ずっと君が好きだった。君は勘違いしていたみたいだけど」
だって、私は年増だし、妹みたいに可愛くない。
「ずっと、ずっと君が好きだった。年下で相手にされていないと思っていたけど、ずっと君だけが好きだったんだ」
「アントン……」
涙が一つ流れ落ち、それが合図になって次々と涙が溢れだす。
「その涙は嬉し泣き、って思っていいのかな」
「ええ……」
「キャサリン。結婚してほしい。生涯君だけを愛する」
「はい」
差し出された花束を私は受け取る。
すると彼が両手で私を抱きしめた。
「アントン!」
「ずっとこうしたかった。やっとできる」
二度結婚式をするよりも、一度で済ませたほうがいいということで、私たちは一緒に結婚式を挙げることになった。
私はアントンの家に住むことになり、元の家はブルーノさんの離れとして使われることになった。
アントンを見ると胸がドキドキする。でも一緒にいて安心する。
私はアントンの子供に恵まれなかったけど、アントンはずっと私を愛してくれた。
Happily Ever After




