どうせ私のスキルが目的なんでしょ【side:元引きこもり聖女】《3分恋#10》
男の人の胸に、体重を預けるとか――。
バディのリクトさんじゃなかったら、きっと今ごろ発狂していた。
「いやー、トゥクのおかげで助かったよ!」
それはこっちのセリフ。
盗賊のくせに強い彼のおかげで、下で痙攣している殺人蜘蛛のエサにならずに済んだのだから。
蜘蛛が最期に吐いた網に、2人ともかかってしまったとはいえ――。
「でも、どうしましょう。結局私、いつもと同じ……」
聖女のくせに足手まとい――そう口にしようとした、瞬間。洞窟の中でも輝いている瞳が、私をとらえた。
「【異常状態解除】で毒を治療してもらわなかったら、オレは今ごろ死んでたよ」
「それは……」
彼は私という錘に構わず、短剣で糸を裂いている。
バディを組んでから幾月か経つけれど、彼は本当に頼りになる。10年も冒険者を離れて、ギルドの受付をしていたのが不思議なくらい。
「……あの、リクトさん」
彼は良い人だ。
依頼に出るのが怖くて引きこもっていた私に、毎日おにぎりを届けてくれた。
でも――。
「どうしてリクトさんは、私をバディに誘ってくださったのですか?」
糸を裂く音が止まった。
答えはもう、分かっている――この地味にレアなスキル以外に何もない。
彼は実力を持て余していた。そんな時、たまたま私に出会って、冒険の夢が再燃しただけ。
私は何を期待しているんだろう――。
いつまで経っても返事がない。
おそるおそる、顔を上げると。
「……すぐに出られるようにするからね」
言い淀んだ彼は、顔を背けていた。
ずくっと、胸が軋む。
勝手な期待が冷えて固まった。
何か、言わなきゃ――。
「ん? アンタ、受付のリクトじゃない?」
音もなく箒で現れたのは、燃える髪の魔女だった。
「げっ、シーナさん!?」
「げっ、とは何よ〜」
「寿退社したはずのに、なんでこんなところに……?」
彼の様子からして、彼女は以前ギルドに所属していたのだろう。
「網、破れてるけど。2人仲良く『罠ハマりごっこ』でもしてるわけ?」
網が破けている――。
魔女の言葉に、とっさに彼を見上げた。
「はぁ……なんで言っちゃうかな」
私よりずっと大人で、頼りになる彼。
そんな彼の頬が染まり、目が潤んでいた。
「あっ、そういうこと? ごめんごめん、お幸せにね〜」
すうっと去っていく魔女にも構わず、彼は固まっていた。
この殺伐とした世界ではまだ、“その顔”を見たことはない。
でも、すぐに思い出した――これは、たぶん、そういうこと。
ただ、どうして私なのか分からない。
「……“あの日”からお宝は見つかってたんだけど、こうして一緒に冒険する日も、お宝っていうか」
今のなし、と彼は速攻で正気に戻ってしまったが。ぼんやりと胸に灯っていた期待が、形をなしていく――。
「……私、あまり役に立てませんよ」
「だから、そんなことは二の次なの!」
私と一緒に、新たなお宝を見つけたい――。
真っ直ぐに告げる彼の瞳は、あの日と同じ。
固く閉ざした扉の鍵を開けてくれた、忘れられない目だった。
「あれ……?」
もしかして。
私もまた、彼という“お宝”を見つけてしまったのかもしれない。