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転生勇者と裏切りの聖女〜魔王討伐から始まるエレナの戦い〜  作者: WAKUTAKU
第5章 深き渓谷の国、ドワーフ王国
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間話 「赤龍の退屈凌ぎ①」

 我は南方の守護者"赤龍"と呼ばれている。

 我が生きた年月は、人の数千代を超える。

 風は変わり、地形も変わり、国は幾度も滅びた。

 幾千もの時代の始まりと終わりを見届けてきた。


 だが、この数百年、人族の歴史は大きく揺れた。

 地下世界から現れ、地上を狙ってきた魔族、そして、ついにその頂点に立つ魔王が現れた。


 魔族が我に手を出すこともあったが、返り討ちで全て燃やしつくしてきた。

 魔王も我が討ち取るかと考えたこともあるが、どうもあれはこの世界にとってのイレギュラー。

 関わらない方が良いのではないかと思い、魔王に関しては静観してきた。


 ある時、人族に女神アルカナに選ばれた勇者が現れた。女神に選ばれたのは、獣人でもエルフでもなく、ヒューマン。


 それが気に入った。

 我はヒューマンという種に興味を持っておる。

 弱く、脆く、だが、時に誰よりも眩しく輝く。


 早速見物に行ったのだが、その傍らに、見覚えのある者がいた。我が幾度となく世間話を交わしたドワーフの女戦士バレッタ。

 彼女がヒューマンと共に歩むとは、これまた面白い。なぜなら、彼女はヒューマン嫌いのドワーフだったからだ。どんな気の変わり方をしたのか知りたかった。


 我は一行の動向を見守る事にした。

 一行は数年の旅で、多くの出会い、別れを繰り返して、魔王城へと乗り込んだ。

 魔王城は我の力の及ばぬ何かのせいで見えることが叶わなかったが、勇者一行は魔王に手傷を負わせ、魔王だけでなく、魔将も魔人も地下世界の魔界に退けたのだ。

 それを知った地上世界の人族は大騒ぎおった。


 我はドワーフ王国に帰国したバレッタに接触した。

 バレッタや仲間は魔王と戦う事ができず、魔将の相手をしていた。勇者を万全の状態で魔王のところへ送るためだ。しかし、結果は引き分け。


 今のところ平和だが、いつ魔王がまた地上世界に侵攻してくるかわからない。

 なんとも短い平和だ。

 それでも人族からすると、長期に渡る平和を勇者が勝ち取った事になる。


 ヒューマンが嫌いなお前が何故旅に同行したのかと問うたが、はぐらかされてしまった。

 勇者に恋心を抱いておったのかもしれん。


 バレッタは逆に我に問うた。

 お前なら魔王を倒せるのかと。

 我は、否と答えた……魔王という存在に関わりたくなかったのだ。友人に少し申し訳なく思ったものだ。


 その後、勇者が年老いて亡くなるまでの66年間、平和が続いたが、再び魔族が地上へ進軍してきた。

 バレッタとはこの時に再会し、少しだけ会話をした。それから会う事は無くなった。


 人族は抵抗するが、勇者の居なくなった世界で、人族がどれほど耐えられるのか…我は、静かに見下ろしていた。そして、勇者の再誕を願う人族も多かった。


 城は落ち、村は焼かれ、それでも人族は立ち上がる。滑稽にも感じたが、同時に、少し眩しくもあった。


 ある日、我が暇つぶしに空を飛んでいた時のことだ。バイエルン帝国南方の山中で、ヒューマンの男が倒れているのを見つけた。


 こんな森の中では、すぐに魔物の餌になる。

 いつもなら見て見ぬふりをするところだが、その時、男の声が聞こえたのだ。


 こんなどこかも知らぬ世界で、死んでたまるか。


 意味は理解できたが、その響きは奇妙だった。

 “どこかも知らぬ世界”――もしかして異世界から来たヒューマンなのだろうか。

 異世界のヒューマンはたまに迷い込んでくる。

 我は興味を惹かれ、その男を助けることにした。


 魔物に襲われかけていたが、我が炎で焼き払った。

 男は我の姿に怯えながらも、命拾いをしたことを感謝していた。


 助けた礼として、異界の事を話せと命じた。


 それから、我らは多くを語り合った。

 男の名は――もう忘れてしまったが、確か“ぱいろっと”という職に就いていたらしい。

 “ひこうき”という鉄の乗り物を操り、数百のヒューマンを空に運ぶ仕事だという。

 彼は土の上にその姿を描いてみせた。

 “くるま”という鉄の車輪を持つ乗り物もあり、

 “てれび”という装置を通じて、遠い国の映像や物語を見ることもできるそうだ。


 ……我には理解できぬ文明だが、その話は面白くてたまらなかった。

 その男は、ひこうきの墜落で命を失った時に、こちらの世界に来たのではないかと話しておった。


 我は彼を街まで送り届け、この世界での生き方を教えた。だが、後に知った。彼は冒険者となり、任務中に命を落としたという。短い命だった。

 だが、我が永き退屈の中では、確かに輝いたひとときだったが、また退屈が訪れた。


 それでも、我には、永劫の退屈を少しだけ和らげる相手がいる。

 蒼龍――東方を統べる空の支配者だ。


 あやつとは、百年に一度ほど、何の前触れもなく空で出会う。理由などない。ただ気が向いた方が相手の領域へ侵入し、吠え、そしてぶつかる。

 我と蒼龍が空を裂くたび、稲妻が走り、嵐が巻き起こり、山々は震え、海は逆巻く。


 だが、あれは我らにとって戯れのようなものだ。

 戦いの度に蒼龍は声を上げることもなく、静かに我の炎を浴び、そして――毎度のように逃げ帰る。


 逃げる後ろ姿を見送るたび、我は少しだけ笑う。

 我と同じく、孤独を持て余し、退屈を紛らわせに来るのだ。


 勇者が亡くなり、百五十年ほどの時を経て、再び“勇者”が現れた。

 女神アルカナが新たに選んだ、二代目の勇者。


 知ってか知らずか前任と同様に、その者は旅に出て、数多の出会いと別れを重ね、やがて魔王と相対し、ついにこれを討ち果たした。

 人族は歓喜し、“本当の平和”が訪れたと喜んでいた。


 だが、我にはもう興味はなかった。

 女神か魔神が仕組んでいるのではないかと疑いだしたからだ。


 人族は奇跡と呼んだが、我は循環だと感じた。

 谷に身を潜め、再び退屈を噛みしめていた。


 勇者の魔王討伐と同時に、蒼龍がヒューマンの冒険者に手傷を負わされ逃げたという。

 その話を聞いた時、我は思わず笑ってしまった。


 長い退屈の中で、蒼龍を退けるヒューマンなど、聞いたことがない。

 だが、どうやら事実らしい。

 東方の街道で、鱗を焼き焦がすほどの炎や雷を操る女冒険者がいたという。


 そんな面白そうな話を聞かずにおれず、我は久しく眠っていた翼を広げ、風を切った。

 蒼龍を負かした冒険者を調べるため、雲を裂き、稲光を追い越しながら、人族の噂話に耳を傾ける空の旅が始まった。


 空の上から見下ろす人の営みは、いつものことながら、実に滑稽で、実に興味深い。争い、笑い、恋をし、失い、それでも生きようとする。

 我には理解できぬ短き生だが、彼らはその一瞬に、全てを懸けて輝く。


 そんな折、蒼龍を撃退した冒険者を発見した。

 Aランク冒険者、蒼天の魔法使いレーナという女。

 我儘、傍若無人、天上天下唯我独尊。

 まさに、そのどれもが似合う女だ。

 己の魔力を信じ、己の才覚を疑わぬ。

 だが、我が上空から見たその背中には、わずかな影があった。


 蒼龍との戦いで、彼女の仲間は全て命を落としたという。あれほどの力を持ちながら、孤独に包まれたその姿は、まるで我ら龍族のようでもあった。

 あの傲慢さは、もしかすると、寂しさを紛らわすための仮面なのかもしれぬ。


 そして、一人の少女が谷を目指しているという話を耳にした。件のヒューマンの二代目の勇者だ。


 しかも、あの魔法使いと共に旅をしているらしい。 我は久方ぶりに、胸の奥に熱を覚えた。

 我の興を惹く者が現れた。


 ――会ってみる価値がある。


 それから間もなくして、谷でその少女と出会った。

 我と戦い。傷だらけになりながらも立ち上がるその姿に、我は“勇者”という名の意味を思い知った。


 彼女は名をエレナといった。

 人族にしては珍しく、我を恐れぬ面白い娘だ。

 しかも、一番好きだった異世界の話をしてくれた。

 前に会った男の発言から考えるに、その男の時代から少し先の未来を生きていたそうだ。

 

 この出会いが、我が退屈な時の流れを変える。

 そんな気がした。


 そして今、我は再び空を翔ける。

 旧友のバレッタと再び話す機会もできた。

 ドワーフのドルガンという話し相手もできた。


 勇者エレナとその仲間を乗せ、東方の島国――義国へと我は向かう。


 長き退屈を破るに値する者。

 これほど愉快な理由が他にあろうか。

読者の皆様、いつもありがとうございます。

神話の時代から生きる赤龍が、退屈を紛らわせるためにしてきた出来事を簡単に語ります。


今話で70エピソード目となるため、間話を2話入れました。第6章を始めるのにキリが良いようにした次第です。


次話は10/12日曜日22時に公開予定です。

引き続き宜しくお願い致します。


エレナ達を暖かく見守って頂けますと幸いです。

少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

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