その4 「街に忍び寄る魔族」
城塞都市パラナでの束の間の休息で、少しだけ心の余裕ができた。
変装もしているし、堂々と正規の街道を歩く事にした。
「あの焼き鳥美味しかったなぁー」
青空を見ながら歩くと心がパッと明るくなる。
本当は、街でもっとゆっくりしたかったが、帝国騎士団が勇者エレナを捕まえるよう動いている事もあり、面倒ごとに巻き込まれる前に街を出たが、心は少し晴れやかだ。
魔王討伐までずっと戦いの連続だった。
女神の啓示で勇者に指名されて、初めて本当の意味で一人になった気がする。
(騎士団にも魔族にも見つからないように、誰にも関わらず、もう少しのんびり旅をしよう)
そう思っていた矢先に、それを砕く出来事が近くで起こっていた事を、私は知る由もなかった。
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ちょうどエレナが宿泊していた宿屋に帝国騎士団の一員がやってきた頃ーー。
城塞都市パラナに駐在する騎士団の詰所に、一人の旅商人が駆け込んできた。
「駐在長!街の近くで魔族を見たという噂があります!それもかなりの数です!」
興奮気味に語るのは、この街によく訪れる商人の男だった。ノーム駐在長は険しい表情になる。
彼はこの街の生まれであり、故郷を魔王軍の手から守りたくて、帝国騎士団に入隊した男だ。帝都内の騎士団で実績を積み、2年前からこの街の駐在長として派遣されている。当時、勇者一行の魔族前線基地攻略をこの目で見たうちの一人だ。
帝国内でも都市周辺に魔族が現れることは多かったが、2年前に勇者一行が魔族の基地を叩いて以降、目撃されていなかった。これは、慎重に事を進めるべきだとノームは考えた。
「目撃場所は?」
「西の街道から森の奥に入ったあたりです。街道を歩いていた知り合いの商人が、遠くで大男達の動く影を見たそうで……。」
ノームは顎に手を当て悩む。彼は二年前の討伐戦で魔族に殺されかけた事がある。
その時の恐怖は今も忘れない。
しかし、駐在長として短く指示を飛ばす。
「駐在騎士の中から優秀な者を選んで捜索を開始する。魔族ならば見過ごせん。旅人や街に被害が出る」
すぐさま精鋭の騎士達が招集された。この街の駐在団員の中でも実戦経験の豊富な騎士ばかりだ。
しかし、魔族相手となると話は別だ。魔法による支援がなければ、戦況が不利になる可能性がある。
念のため、冒険者組合へと連絡を入れ、魔法使いの応援を要請した。しかし、あいにくと熟練の冒険者たちは依頼で出払っており、組合には魔法使いが残っていなかった。
「仕方ない……魔法使いなしで行くぞ」
魔族の脅威を放置するわけにはいかない。ノームは己の剣を腰に収めると、選りすぐりの騎士達を引き連れ、陽が登る頃に森へと向かった。
「…チッ……勇者捕縛命令と魔族か…魔王が滅んだってのにどうなってんだ」
ノームは、少し苛立っている。何故なら、彼は"勇者エレナが犯罪を犯す事なんてあり得ない"と思っているからだ。
しかし、騎士団に身を置く者としては、そんな事は口が裂けても言えない。
朝方だが森の中はまだ暗く、騎士達は松明の灯りを頼りに、森の中を慎重に進む。空気が妙に湿って重く、風が止んでいる。虫の音もない。
「気味が悪いな……」
騎士の一人が呟く。
「…っ待て」
ノーム駐在長は、周囲に漂う異様な雰囲気に目を細める。
突如、森の闇から“音もなく”巨大な影が飛び出す。
闇に紛れた魔族のうちの一体が、槍を構える騎士を背後から襲ってきた。
「うわーーー!」
一人の騎士の悲鳴が夜に響く。
ノームが彼を助けようと近寄るが、襲った魔族が邪魔をしてくる。
「くっ、近寄れん」
そのとき、一人の若い騎士が叫びながら飛び出した。
「隊長、俺が引きつけます!」
その言葉通り、彼は魔族に向かって盾を構え、無謀にも正面からぶつかった。
わずかに生じた隙――ノームはすかさず地面に倒れていた騎士の身体を抱え上げる。
「しっかりしろ、まだ死ぬなよ…!」
返事はないが、かすかに息をしている。
「他の者、援護を…っ!?」
そうしているうちに襲ったきた魔族の後ろから、他の魔族が現れた。
ノームは怪我をした騎士を他の騎士に預ける。
「ま…魔族が…は…八体確認できます!」
ノームの後ろにいた騎士が怯えながら伝える。
それを聞いたのか聞いていないのか、ノームは魔族に剣を向ける。それに続いて他の騎士達も魔族に襲いかかる。
「やぁぁぁ!」
「はぁぁぁ!」
「えいやぁぁぁ、」
魔族は高い防御力を誇る。ノームの剣が一体の魔族に届くが、深手にはならない、皮膚の表面が少し切れただけだ。
他の騎士達も同様で、攻めてに欠けてしまい、追い詰められる。
「くそっ、我々だけではやはり無理なのか…」
ノームは撤退命令を出し、自ら殿を買って出る。
「ここで全滅するわけにはいかん! 撤退しろ!」
ノームの怒声が響いた瞬間、数人の騎士が魔族の隙を突いて後方へ下がる。だが、魔族たちはそれを逃さない。黒い影が跳ね、鋭い剣が鎧の隙間を狙って飛んできた。
「ぐっ……肩が……!」
肩が折れている男が膝をつき、別の仲間がすぐさま庇う。二人がかりでなんとか応戦しながら、退路を確保する。
ノームは前に出て、剣を構える。
「魔族共!俺を見ろ!」
ノームの剣が魔族の腕をかすめる。しかし、反撃の一撃が彼の脇腹を打ち抜いた。鎧がへこみ、血が滲む。
「駐在長!」
叫びが飛ぶが、ノームは顔をしかめながら踏みとどまる。魔族は決して野蛮なだけではないのか――攻撃が無駄に鋭く、的確だ。まるで人族の体の急所を知っているかのようだった。
「この森の中に……こんな奴らが潜んでいたとは……!」
数の上では優勢なはずなのに、騎士たちは押される。人族の力では魔族の防御を突破できない。
この精鋭達となら撤退させるくらいはできると思っていた。
怪我は少ないが、全員が魔族に対する恐怖心で震えている。
「全員、森の外まで走って退け!誰一人欠けさせるな!」
ノームの指示だが、怪我を負った仲間達を庇いながら撤退する事は難しかった。
だが、彼らはまだ知る由もなかった。
手配中の"勇者"に助けられることになるとは――。
次話は2025/7/5金曜日22時に投稿します。
絶体絶命の駐在騎士達!
襲いかかる魔族達!
そこに現れる戦士とはーー!?
至らない点等あると思いますが、暖かく見守って頂けますと幸いです。
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