表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生勇者と裏切りの聖女〜魔王討伐から始まるエレナの戦い〜  作者: WAKUTAKU
第5章 深き渓谷の国、ドワーフ王国
67/131

その19 「堅物ドワーフの初恋」

 俺は、ドワーフ王国門監督役ドルガン。

 王国内では堅物のドルガンとして名が通っている。


 子供の頃から真面目一筋で、酒場に誘われても首を振り、祭りの日にも訓練場にいた。


 「遊びより鍛錬だ」


 幼馴染だった王子――今の王にも呆れられたものだ。


 戦士団に入った若い頃は、仲間が遅刻すれば罰を与え、酒を飲んで仕事にならない者は叱りつけ、女の話ばかりする団員にも愛想を尽かしていた。

 そのたびに、同僚からは“堅物のドルガン”と呼ばれた。


 そんな俺がだ。

 ある人物と一緒にいるだけで心臓が強く脈打ち、体が熱くなる。一日中その人物のことを考えて、仕事に支障が出る。

 こんなことは今までなかった。


 先日、ドワーフ王との酒席でそのことを打ち明けたら、王は豪快に笑ってこう言った。


 「それが“恋”というやつだ、ドルガン」


 これまで女に惚れることなど一度もなかった俺だが、この数日で、まさか自分が恋を知ることになるとは思いもしなかった。


 しかも、相手はヒューマンの女。

 元勇者にして、今は冒険者として旅をしている――エレナという名の女だ。


 彼女との初対面は、王国門の監督室に籠もっていた時だった。


 最近、新しい皇帝が即位したというバイエルン帝国から、冒険者が三人やってきたとの報告を部下より受けた。その中には、“蒼天の魔法使い”の二つ名を持つAランク冒険者がいるという。


 Aランク冒険者――それはこの世界でも、ほんの数人しかいない超一流の存在。丁重にもてなすべきだとは思ったが、噂に聞く“蒼天”は恐ろしい女だという。

 話を聞かない、暴れる、物を壊す……猛獣そのものだと。


 そう思って警戒していた俺は、少し格好をつけて三人の前に姿を現した。

 その時、目に入ったのがエレナだった。

 最初は蒼天の魔法使いのただの仲間だと思っていた。


 金糸のような髪が光を受けてきらめき、透き通るような白い肌をしていた。

 背丈は高く、姿勢もまっすぐで、気品がある。

 なのに、話しかけられると、肩の力が抜けるように自然と話をしていた……妙な女だ。

 それが、俺の彼女への最初の印象だった。


 彼女は俺のような頑固者にも臆せず話しかけ、しっかりと相手を見て言葉を交わそうとする。

 その穏やかで芯のある姿に、いつの間にか惹かれていったのかもしれない。


 叔母ヒルダの工房を紹介した時、彼女達の素材集めに同行することになった。道中、谷へ向かう間も、エレナは俺に多くの質問をしてきた。

 ドワーフ王国の歴史や文化を、真剣な眼差しで聞いてくるのだ。ヒューマンでありながら、偏見なくドワーフに興味を持ってくれる――それが、ただ嬉しかった。


 谷の洞窟での素材採取は順調だったが、途中で蒼天の魔法使いが罠を発動させ、エレナが落下。勇者とはいえ、谷底は危険だ。

 俺は仲間の二人とともに谷を降り、エレナを探した。その最中、蒼天や獣人族の娘と話をしたが、彼女たちの“エレナへの信頼”の強さがひしひしと伝わってきた。


 谷底で多数の魔人と遭遇したが、そこへ――赤龍を連れて現れたエレナに助けられた。

 まさか赤龍と友人になる者がいるとは。

 俺は心の底から驚き、そして、エレナだけを見るようになってしまった。


 街へ戻ってからも、エレナと過ごす時間は増えていった。

 武器屋に連れて行った時、店主に「女と買い物か、いい身分だな」とからかわれ、顔が熱くなった。

 王の側近達からも「最近ヒューマンの女と仲が良いそうだな」と揶揄われ、思わずゴーレム退治の話をしてしまった。

 その結果、王が興味を持ち、エレナだけが謁見を受けることに。謁見の場で、エレナは王国の戦士三人を圧倒してみせた。その戦いぶりを見て、俺はもう完全に――惹かれていた。


 ヒューマンの中でも際立つ美貌、そして勇気と優しさと力を持つ、だが、彼女は自分の魅力にまるで気付いていない。商人も、戦士も、街の男たちも、みんな彼女を目で追う。俺だけじゃない。きっと、誰もが惚れている。


 ……そんな中、万引きした子供を注意してくれた獣人族の娘ランと話していた時、彼女に見抜かれていた事がわかった。


 「エレナって呼び捨てにするくらい仲良くなったんですね。エレナさん美人でかっこいいですもんね。惚れるのは自然の摂理です」


 まったく、勘のいい娘だ。

 どうやら俺の気持ちは隠しきれていないらしい。


 困ったものだ。

 この歳になって恋など――どうすればいいのか、さっぱりわからん。


* * * * *


 王国の相談役、バレッタ様に同行し、俺は再び“赤龍”に会うことになった。


 バレッタ様いわく――


 「アイツは人の話を盗み聞きするからね。ワタシャ達が谷に着いたら出てくるだよ」


 ……そんな馬鹿なと思いながらも、俺は黙って従った。


 そして谷に着いて間もなく。

 空を覆う巨大な影が現れた。

 黒い翼を広げ、赤い炎を纏いながら舞い降りてくる――赤龍だった。


 地面を揺らすような着地と同時に、赤龍は大声を上げた。


 『バレッタ、盗み聞きとは失礼な』


 「何言ってるさね。事実だろうに」


 『がはは、久しいな。……何十年ぶりだ?』


 「百三十年くらい経っとるわ」


 『ほう、そんなになるか。――ドルガンは、数日ぶりだな』


 「どうも……」


 「ワタシャの次は、ドルガンと世間話をしたいそうだな。うちの若いのに変なこと吹き込むなよ?」


 バレッタ様が笑う。


 『がはは、そう言うな。世間の話を聞きたいだけだ。それで、今日は何の用だ?』


 「わかっとるだろ? 勇者達を東方の島国へ連れてってやれ」


 『ふむ……エレナは面白い。最初からそのつもりだった』


 「まったく、最初からそう言っときゃワタシャも楽できたのにね」


 『すまぬな。久々にお前の顔を見たかったのさ――“元勇者一行の戦士”バレッタよ』


 「!?バレッタ様が……勇者の仲間だったのですか?」


 『なんだ、知らなんだか?』


 「当たり前だよ。ワタシャの過去は抹消してある。平穏に暮らしたかったからね」


 『……そうか。なら、何も言うまい』


 バレッタ様はひと息ついてから、赤龍に向かって言った。


 「新しい装備ができたら三人をここへ寄越す。頼むだよ」


 『任せろ』


 その時、バレッタ様がふと遠くを見つめた。


 「……勇者の子の未来だけは視えなかった。あの子は死ぬのか、あるいは……“勇者”だからなのか。ワタシャにはわからん」


 赤龍は静かに目を閉じた。


 『そうか。ならば見届けよう。義国への送迎は我に任せよ。――バレッタ、また会おうぞ。ドルガン、また来い』


 そう言い残し、赤龍は炎を巻き上げて空へと飛び去った。

 その姿が見えなくなるまで、俺はただ黙って空を見上げていた。


 帰り道、バレッタ様がふいに口を開いた。


 「ドルガン、あんた……勇者の子に恋をしてるね?」


 「!?バ、バレッタ様!?な、なぜそれを……」


 「隠すな隠すな。ワタシャにもそういう時期があっただよ。でもね、相手が悪い」


 「……相手が悪い?」


 「そうだよ。さっきも話たが、あの子は特別だ。唯の勇者じゃない。この世界の未来を背負う者かもしれない」


 「……それは、相談役としてのご命令でしょうか?」


 「いや、助言さね。ワタシャは恋を命令で縛るような女じゃないだわ」


 「……ご助言、感謝します」


 その言葉に、俺は何も言えなかった。

 胸の奥に灯った小さな炎――それをどうすべきか、まだ答えは出せないままだ。


* * * * *


 赤龍との交渉を終えた俺とバレッタ様は、夕刻には王国の門をくぐり、ようやく石畳の街並みに戻ってきた。

 バレッタ様をご自宅へ送迎し、その足で俺は宿屋へ向かう。エレナ達に、交渉が上手くいったことを伝えねばならない。


 宿屋の扉を開けると、椅子にエレナとランが座っていた。


 「こんばんは、ドルガンさん」 


 「こんな遅くに何か用か?」


 「あぁ、赤龍が協力してくれることになった。お前たちの旅立ちの準備が整い次第、谷へ向かうぞ」


 「よかった……これで次の目的地に行けますね」


 「義国か……楽しみだな」


 エレナが微笑む。


 それだけのことなのに、胸の奥がきゅっと締めつけられた。


 いよいよ、別れが近い。

 そう思うと、どうにも落ち着かない。


 「……あ、ごめんよドルガン……レーナがいなくなって……さっき一人で出ていってしまって」


 「気にするな」


 蒼天がどこかで問題を起こさないか心配だが、今の俺には――正直、そんなことより胸のざわつきの方が重かった。


 宿を出て少し歩くと、石橋の上で青髪の魔法使いが柵に腰かけていた。風を受けて揺れる髪が、夕陽に照らされて蒼く光る。


 「おい、蒼天」


 「……あら、ドルガン」


 「何をしている。まさかまた喧嘩でも売ってないだろうな?」


 「失礼ね。今日は平和な一日だったわよ。部屋でずっと寝てたから、ただ風にあたりに来ただけ」


 そう言って、レーナは足をぶらぶらと揺らした。


 「……なんか、今日変じゃない?」


 「なにがだ」


 「今日はやけにそわそわしてる」


 「……別に」


 「ふーん?さては……」


 レーナがにやりと笑った。


 「エレナとの別れが近づいてきたから、寂しくて胸が痛いんでしょ?」


 「な、なんのことだ……」


 「隠さなくても顔に出てるわ。気づいてないのは当の本人くらい。エレナは、頭いいし普段は勘も鋭いのに、色恋沙汰になると気がつかないのよね」


 「……そうか。バレていたのか」


 「当然よ。エレナと話してる時のあんた、いつも顔が赤いし、楽しそうなんだもの」


 「そうか……」


 「ふふっ。堅物で眉間に皺寄せてばかりの堅物のドルガンに、Aランク冒険者様から一つアドバイスしてあげる」


 「な、なんだ……?」


 蒼天の魔法使いは柵から降り、俺の目の前まで歩み寄った。


 「気持ちを伝えるか伝えないかは、あなた次第。でもね――伝えるには勇気がいる。伝えないのは簡単よ。何か理由を作ればいいだけ。でも、伝えずに別れた後で必ず後悔する。ドルガンは、どっちを選ぶの?」


 「……」


 「エレナはね、種族で人を見たりしない。きっと真っ直ぐに受け止めて、ちゃんと答えをくれると思うわ」


 「……お前は、エレナがどう答えると思う?」


 「それは自分で聞かなきゃダメ。ただ――私は嘘をつきたくないから正直に言う。エレナは、たぶんこの世界で恋人や結婚を選ばない」


 「……勇者だからか?」


 「うーん、それもあるけど……それだけじゃない。エレナは"何か"を背負ってる。だから、恋をしない。結婚もしない」


 俺は黙って空を見上げた。

 蒼天の言葉が胸の奥に沈み込むが、納得がいった。


 「なるほど……よくわかった」


 「谷で赤龍と落ち合うまで、まだ時間があるでしょ?焦らず考えて後悔しない道を選んでほしいわけ」


 「……お前は、後悔したことがあるのか?」


 「えぇ。もう会えない姉にね。冒険者になりたての頃“もう少し強くなってから”なんて格好つけずに、すぐに会いに行けばよかった……本気で、そう思ってる」


 レーナは遠くを見るような瞳でつぶやくと、橋の欄干から身を離し、ゆっくりと背を向けた。


 「じゃあね、ドルガン」


 風が吹いた。

 蒼天の髪が夜の街灯にきらめき、やがて石畳の向こうへと消えていった。

 読者の皆様、いつもありがとうございます。

 ドワーフ王国に入国してからずっとお世話になっているドルガンの話を入れました。

 堅物のドワーフが初めて恋を知る。

 そんなストーリーは面白そうだなと思い作りました。


 次話は10/7火曜日22時に公開予定です。

 引き続き宜しくお願い致します。


 エレナ達を暖かく見守って頂けますと幸いです。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

 "感想".ブックマーク"お気に入り"もよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ