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転生勇者と裏切りの聖女〜魔王討伐から始まるエレナの戦い〜  作者: WAKUTAKU
第5章 深き渓谷の国、ドワーフ王国
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その16 「ドワーフ王からの召喚」

 武器屋を出たところで、ドルガンが足を止めた。


 「?どうした?」


 私も足を止めてドルガンの方を見る。


 「エレナ……実は話がある」


 「なんだよ、改まって」


 (初めて名前呼んでくれたな)


 「昨晩、王の席に呼ばれた。王と戦士団が酒を酌み交わす場でな……そこで『最近、ヒューマンの女を連れ歩いている』と王の耳に入ったらしく、問いただされつい口を滑らせてしまった……ゴーレム退治のことをな」


 「……それで?」


 「王は興味を示された。『ぜひその冒険者と会ってみたい』と仰せだ。一応、お前らの話に合わせて、通りがかって討伐したと伝えている」



 私は黙り込み、少し悩んだ。

 王からの招聘を断るとドルガンに迷惑を掛けてしまう。


 「……わかった。謁見を受けるよ」


 「すまない。二日後だ。仲間は連れて行けん、王城にヒューマンが入れるだけで事件だからな」


 「レーナとランは置いていけってことか……まぁ、それがいいか」


 悪い事をしたわけじゃないから、前向きに捉えて情報を貰えるように動こうと考えた。


* * * * *


 二日後の一つ鐘と同時に、宿に迎えに来たドルガンと共に王城へ向かう。服装は冒険者らしくそのままでいいと言われたので、特にお洒落はしなかった。


 石造りの高い城壁に囲まれた王城は、堅牢さと荘厳さを併せ持ち、門の前に立っただけで胸の奥がざわついた。


 「行くぞ」


 短く言うドルガンの横顔は硬い。

 門兵たちは彼に敬礼し、私を訝しむように一瞥するが、何も言わず通してくれた。


 「こんにちは」


 とりあえず門兵には、挨拶だけしておいた。


 広い石畳を進み、城内へ入ると、鍛冶場から聞こえるような鉄槌の音がどこか遠くから響いてくる。

 それはまるで、この国の心臓の鼓動のようだった。


 やがて客間に通され、私とドルガンは椅子に腰を下ろした。


 豪奢とはいえ人を飾るためではなく、質実剛健に作られた部屋。壁に掛けられた古びた斧や槌が、長き歴史を物語っている。


 「……」


 ドルガンは腕を組んだまま沈黙している。

 話しかけようと口を開きかけたが、彼の険しい表情を見てやめておいた。


 (緊張しているのか……それとも、王の前では軽口など許されないということか)


 しばしの沈黙の後、分厚い扉が開く。

 甲高い声が響いた。


 「ドルガン殿、冒険者エレナ殿、入室を」


 私は深く息を吸い、歩を進める。


 王の間は、バイエルン帝国の壮麗さとは趣を異にしていた。壁も床もすべて岩と金属で組まれ、柱にはドワーフの戦と鍛冶の歴史を刻む浮彫が連なっている。

そこはまさに、ドワーフ王国そのものを凝縮した空間だった。


 私とドルガンは王座の前で立ち止まった。


 ドルガンは膝をつき、低い声で告げる。


 「王よ、件の冒険者エレナをお連れいたしました」


 私は冒険者として、頭を垂れて膝をつく。

 貴族の作法は知っている。だが今は、身分を隠した旅人だ。深く礼をすることが最も自然で安全だと判断した。


 「うむ、顔を上げよ」


 王の声音が広間に響いた。


 私はゆっくりと顔を上げる。

 玉座に座すは、第五十九代ドワーフ王バラガン。

 堂々とした体躯に長くたくわえた髭。その瞳は鋭く、威圧感と同時に底知れぬ洞察を感じさせた。


 「陛下、ドルガン殿よりご紹介にあずかりました、冒険者エレナにございます。もとより卑き身ながら、本日お目通り叶いましたこと、深く感謝申し上げます」


 「……なるほど。人の娘にしては、落ち着き払った態度だ。そして、我が王城にヒューマンを招いたのは数十年ぶりだ」


 王の瞳は揺るがない鋼の光を宿していた。

 まるで全てを見透かすようで、私は背筋を正さざるを得なかった。


 「早速だ。ドルガンが嘘をつかぬ男というのは、よく知っておる。だがな――」


 王の声は低く、広間の石壁に反響した。


 「真実は己の目で確かめねばならぬ。それが王の務め」


 私は静かに頷いた。


 「それは、私がこの城へ招かれるに相応しいか、証が必要ということでございますね」


 「左様。口先だけならいくらでも飾れる。勇敢なる者ならば――力で示してみせよ」


 王の手がゆるりと上がる。

 その合図に従い、重い扉が開かれた。


 鎧のきしむ音と共に、三人の屈強な兵士が姿を現す。その一人は巨大な戦槌を肩に担ぎ、床板を踏み抜かんばかりの足取りで前に進み出た。彼らの全身からは、鍛錬に裏打ちされた圧倒的な威圧感が漂う。


 「これが我らが誇る戦士たちだ。ヒューマンの娘よ……その細き腕で、彼らと渡り合えるか、見せてもらおう」


 空気が重くなる。


 兵士たちがゆっくりと武器を構えるその瞬間、広間は戦場のような緊張に包まれていた。


 剣の帯刀を許されたのは、力を示すためだろうとは考えていたがーー私はあえて、剣を起き三人の戦士の前に素手で立った。


 「ほう……我が国の戦士と、武器も持たずに渡り合うつもりか?」


 王の声に、広間の空気が張り詰める。


 「これは試合であって死合ではございません。余計な傷を負わせるわけには参りませんので」


 私は静かに言い切った。

 相対した戦士達は少しカチンときているようだ。


 「……ふむ。なるほど」


 王の目が鋭く光り、やがて小さくうなずく。


 「よし、戦士たち、武器は使うな。素手で挑め。単純な力比べとしよう」


 「王よ、仰せのままに」


 戦士たちは重々しく頷き、武器を床に置いた。金属の音が石床に響き、広間に緊張が走る。


 「では……ドルガン、合図をせよ」


 「承知した」


 低い声で答えたドルガンが、私たちの中央に立つ。

息を吸い込む音が、鼓動のように広間に響いた。


 「ーー始め!!」


 ドルガンの声が石壁に響いた瞬間、三人の戦士が一斉に踏み込んでくる。私は膂力変換魔法を使い、少しだけ本気を出す。


 床が揺れ、重い足音が重低音のように轟いた。


 私は動かない。

 わずかに腰を落とし、右足を一歩引いただけだ。


 「おおおっ!」


 正面から迫る戦士が巨岩のような拳を振り抜く。


 瞬間、私はその腕を軽く受け止め、反撃する。

 右拳を繰り出し、鈍い音と共に戦士の巨体が宙を舞い、床に叩きつけられた。


 「うっ……!?」


 左右から迫る二人の戦士も動きを止めない。

 二人目は腕を伸ばし低い姿勢から足に掴み掛かろうとしてくる。


 「悪いけど――」


 私は素早く身をひねり、組みつきに来た腕を逆に掴んで一般背負いのように投げ飛ばして地に伏せさせた。


 「ぬおぉぉ!」


 最後の一人が蹴りを繰り出すが、私は飛んで避けて、着地と同時に回し蹴りをお見舞いした。


 「……っ!」


 広間に静寂が訪れる。


 私は深呼吸を一つして、王へ向き直った。


 「……以上で、証明は足りるでしょうか?」


 戦士三人は床に倒れ込み、あるいは悔しげに肩を震わせていた。だが、その目には恐怖よりも驚きと敬意が浮かんでいた。


 王は長い髭を撫で、鋭い瞳で私を見据えたまま、しばし沈黙した。

 やがて、低く響く声が玉座から放たれた。


 「……なるほど。確かに見事であった。ドルガンよ、そなたを疑ったこと、詫びよう」


 「王よ。滅相もございません」


 ドルガンは深く頭を垂れる。


 「そして、冒険者エレナよ」


 王の視線が再び私に向けられる。


 「試すような真似をしてしまった。許してほしい」


 「いえ、お気になさらず」


 私は再び跪き、静かに応えた。


 「戦士たちよ、下がれ」


 玉座の言葉に、三人の戦士は恭しく一礼し、広間の影へと退いていった。


 再び静けさが戻る。


 王は深く座したまま、ゆっくりと口を開いた。


 「まずは礼を言わねばなるまい。冒険者エレナよ、あのゴーレムを退けた功績――あれによって帝国との交易も復活した。我らドワーフは基本的にヒューマンとは関わらんが、帝国との交易でのみ、情報や資材の仕入れを行っておる。非常に重要なのだ。王国の民に代わり、感謝を伝える」


 私は胸に手を当て、深く頭を下げた。


 「勿体なきお言葉……。仲間と共に成し得たことにございます」


 そして、王の声が鋭く響いた。


 「さて……冒険者エレナよ。今回のドワーフ王国への訪問は、武器を探しているためと聞き及んでいる。さらに、東方の島国へ向かいたいとも……それは真か?」


 「はい。武器というより――ヒヒイロカネという鉱石素材を探すため、東方の島国へ向かいたいと考えております。しかし、その国への行き方がわからずにおりました」


 「ふむ…」


 王は重々しく頷き、深い声を落とす。


 「我らドワーフの間でも、その国の存在は伝承としては語られておる。だが、実際に行った者の話は聞いたことがない」


 私は思わず息を呑んだ。やはり、簡単には辿り着けない場所なのだ。


 「そこでだ」


 王の声が広間に響く。


 「昨晩、ドルガンに頼まれて側近に調べさせてみた」


 「お、王よ、それは……」


 隣のドルガンが慌てて声を上げた。


 「ふん。内密にしろと言いたいのか?」


 「いえ……失礼いたしました」


 ドルガンは慌てて頭を下げる。


 王はその姿を見て、わずかに笑みを浮かべた。


 「そやつは我の古き友でな。どうやら、お前らをよほど気に入ったらしい。東方の島国への行き方を調べて欲しいと強く願ったのだ」


 「……そうだったのですか。陛下の寛大なお心に、深く感謝申し上げます」


 私は胸に手を当て、頭を下げた。


 「よい。だが我とて無闇に約束はせぬ。ただ――調べても国の所在まで掴めなかった。そこでだ、この王都の北方に、我らが国で最も老獪とされる者が住んでおる。その者なら、島国に関わる伝承を何かしら知っているやもしれぬ」


 王は片手を上げ、側仕えに視線を送った。


 「後ほど、我が書状をドルガンに渡す。これを持ってその者を訪ねるがよい」


 「ありがとうございます!」


 私は深く頭を垂れた。


 「うむ、冒険者エレナよ、また会おうぞ」


 こうして王との謁見を無事に終えた。

 王の信頼を示す書状を託され、ドルガンと共に翌朝にはその「老獪」と呼ばれる者の住まう場所へ向かうこととなった。


 胸の奥にかすかな緊張と期待を抱えながら、私は王城を後にした。

 読者の皆様、いつもありがとうございます。

 王との謁見、そして試しの戦い。エレナはその力を示し、王の信頼を得ることができました。次なる目的地は、王都北方に住むという老獪なドワーフ。果たして彼から東方の島国へ渡る手掛かりは得られるのか。


 次話は10/2木曜日22時に公開予定です。

 引き続き宜しくお願い致します。


 エレナ達を暖かく見守って頂けますと幸いです。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

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