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転生勇者と裏切りの聖女〜魔王討伐から始まるエレナの戦い〜  作者: WAKUTAKU
第5章 深き渓谷の国、ドワーフ王国
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その15 「杖と双剣の強化」

 深海の谷からヒルダさんの工房へ戻った私たちは、さっそく集めてきた素材を机の上に広げた。


 「ふむふむ……黒の水晶石、赤の水晶石、これだけあれば杖の強化は心配ないだわさ。それと赤龍の鱗なんてよく貰えたさね!」


 ヒルダさんは目を輝かせ、分厚い指で素材を一つずつ手に取りながらうなる。


 「その赤龍の鱗で……オリハルコンの小手の修理は無理なんですか?」


 私が恐る恐る口にすると、ヒルダさんは腕を組み、眉をしかめた。


 「素材の格でいえば申し分ないだわさ。だがオリハルコンは気難しい金属だわさ。同じ質の鉱石でなきゃ結びつかない。東方の島国でヒヒイロカネが採れるなら、そっちを当たった方が確実だわさ」


 「……やっぱり、そうですか」


 私は視線を落とす。

 赤龍の鱗を見てもなお、クラウ・ソラを修復できない現実が重くのしかかる。


 だが、ヒルダさんはにやりと笑い、鱗を手に取って説明してくれた。


 「まぁ落ち込むんじゃない。せっかく赤龍から勇者がもらった代物だわさ。必要になった時には私が使ってやる。大事に預かっとくから安心するだわさ」


 「……はい、ありがとうございます」


 自然と背筋が伸び、私は深く頭を下げた。


 「さて、それじゃ次は魔法使いのお嬢ちゃんの番だわさ。杖を見せるわさ」


 ヒルダさんの目が、真剣な鍛冶師のものに切り替わる。


 レーナは一歩前に出て、抱えるように杖を差し出した。


 「この杖に埋め込む水晶石について説明するだわさ。赤の水晶石は魔力攻撃力向上、黒の水晶石は魔力制御のために使われるだわさ。そして、この杖に嵌め込まれている大きな青の水晶石は魔力の増幅にあたる。つまり――攻撃、制御、増幅。この三つが噛み合えば、魔法の精度も威力もぐっと上がる」


 「なるほど……使いやすくなりそうね」


 「そういうことだわさ。理解が早い。じゃあ、その方向で作業に取りかかるだわさ。仕上げには二十日程度もらうよ」


 「えぇ、それでお願い」


 レーナは小さく頷き、安堵の息を吐いた。


 (その強化された杖なら眠気は無くなるのか……)


 ヒルダは次にランへと視線を向けた。


 「それと、獣人族のお嬢ちゃん。ちょっと手を見せてごらん」


 「あ、はい」


 おずおずと差し出すと、ヒルダは指先から腕、爪の形まで確かめて頷いた。


 「ふむ、何があったかわからないけど、武器が手に馴染んだね。お前さんの双剣も、素材を活かせばまだ伸びる。ついでに強化してやるだわさ」


 「えっ、本当ですか!?やったー!」


 ランは耳と尻尾をぶんぶん揺らし、拳を突き上げてガッツポーズを決めた。


 「これも二十日後に取りに来るだわさ」


 「はいっ!」


 ヒルダは今度はじっと私の顔を見据える。


 「さて、勇者のお嬢ちゃん。残念だが……あんたの武器は素材が特殊すぎる。修理するにはヒヒイロカネ、もしくはそれに近い合金が要るだわさ」


 「……そうです…よね」


 答えながら、胸の奥がわずかに沈む。クラウ・ソラだけは、やはり簡単には修理できない。私は少し肩を落とした。


 「東方の島国に行ってみな」


 「……はい」


 私だけ、強化ができないことが確定してしまった。


 「ま、そう気を落とすんでない。素材さえ揃えば、腕は貸してやるだわさ。一番面白そうなのは、勇者の剣だからね」


 ヒルダは豪快に笑った。


 私たちは礼を言い、宿屋に戻ることにした。


 宿屋に戻った私たちは、食堂の片隅の丸テーブルに集まった。ランもレーナも、そしてドルガンも揃って腰を下ろし、湯気を立てるスープを前にしてひと息ついた。


 「ーーってわけで、赤龍は女神のことを“わがままな女”って言ってた。だから、勇者の啓示にも裏があるかもしれないってさ」


 私は椅子の背に体を預けながら話を締めくくった。


 「な、なるほど……でも、それは赤龍さんの主観であって、本当に女神様がそうなのかはわからない、ってことですよね?」


 ランが両手を膝の上でぎゅっと握り、少し不安げに言った。


 「いや、私は赤龍の言う通りなんじゃないかと思ってるよ」


 私はスプーンをかき混ぜながら肩を竦める。


 「エルフより長寿の龍がそう考えてるんだ。少なくとも、ただの思い込みではないだろう」


 「私はどっちでもいいわ」


 パンを齧りながら、レーナが鼻で笑う。


 「女神なんて、実在してようがどうでもいいし。信じてないものに祈っても無駄よ」


 「……なるほど。ドワーフの俺としては特に思う事はないな」


 ドルガンが低い声で呟き、スープをひと口啜る。


 私はうなずき、全員を見渡した。


 「とりあえずさ、赤龍の話は頭の片隅に置いておこう。それぞれの考えでいい。で、次は杖や双剣の強化だな」


 「うん、二十日後にまたヒルダさんの工房に行きましょう!」


 ランが嬉しそうに声を上げる。


 「そうだな」


 私は笑みを浮かべ、スープを飲み干した。

 この仲間となら、どんな真実に直面しても、きっと乗り越えられる。

 

 話し合いを終えた私たちは、それぞれの部屋に戻り、休むことにした。外はすでに夜の帳が降り、宿の窓からは街灯の淡い光が差し込んでいる。


 「では、俺も宿舎に戻るとしよう」


 立ち上がったドルガンに、私はふと思いついたように声をかけた。


 「なあ、ドルガン。明日……武器屋を教えてもらえないか?」


 「武器屋か?」


 ドワーフの瞳がこちらを向く。


 「あぁ、剣を探したいんだ。旅を続けるなら必要になるだろうから、見ておきたくてな」


 「ふむ……承知した。ならば明日の一つ鐘が鳴る頃に迎えに来よう」


「助かる」


 ドルガンは背を向けて宿舎へと帰っていった。


* * * * *


 翌朝――。


 「今日は……動けない……」


 レーナは布団に潜り込んだまま寝言をこぼし、結局一日中部屋から出たくないそうだ。


 ランは街を散策したいと一人で出て行ってしまった。


 私は宿の前で迎えに来たドルガンと並んで歩き出す。最初の頃に比べれば、私たち三人はドルガンともずいぶん打ち解けてきた気がする。


 「ドルガン、今日は案内ありがとう」


 「礼は要らん。約束だ」


 ぶっきらぼうではあるが、その声は以前より柔らかい。


 ドルガンと街を歩けば、相変わらず住民たちから


 「おはよう」

 「お勤めご苦労さん」


 声が飛んでくる。


 ドルガンは無愛想に「うむ」「ああ」と短く返すだけだが、その背中からは信頼の厚さが伝わってきた。


 やがて辿り着いたのは、石造りの立派な建物――大きな武器屋だった。扉をくぐると、磨き込まれた鉄と油の匂いが鼻を突く。


 「おう、ドルガン!」


 奥から現れたのは、髭を三つ編みにした頑健なドワーフの亭主だ。


 「最近、ヒューマンの女を連れ歩いてるって噂を聞いたが……おいおい、こりゃ上玉じゃないか」


 「へ、へ、変なことを言うな!」


 いつも冷静なドルガンが、毎度の如く耳まで真っ赤にして取り乱す。


 亭主はにやにやと笑い、私を見やる。


 「嬢ちゃん、ドルガンはいい奴だが、あんたくらいならもう少しマシな男を選んだ方が――」


 「えぇい、余計なことを言うな!」


 ドルガンの声が武器屋の梁を震わせた。


 私は思わず笑ってしまい、からかうように口を挟んだ。


 「ドルガンは良い男ですからね。だから今日は二人でデート中なんです」


 「お、お、おお……! お前まで変なことをーー!」


 慌てふためくドルガンを横目に、私は軽く肩をすくめた。


 「はいはい、冗談冗談。亭主、剣を見せてもらうね」


 「お好きなだけどうぞ」


 武器屋の棚には、大小さまざまな剣がずらりと並んでいた。光を反射して輝く刃、その一つひとつに職人の魂が宿っているようで、思わず息を呑んだ。


 棚に並んだ剣を一本ずつ手に取り、刃の輝きや重さを確かめていく。


「ほぅ、目の付け所がいいな」


 亭主が腕を組み、私の動きをじっと見ている。


 私は片刃の剣を好んで使ってきた。

 両刃の直剣よりも扱いやすく、斬撃に重みを乗せやすいからだ。目の前の棚にも数振り、良さそうな片刃剣が並んでいた。


 一本を抜き放ち、軽く振る。鋭い切れ味は感じるが……。


「……悪くない。でも……」


 手の中で剣がわずかに軋む。私の膂力変換魔法を込めれば、一太刀で砕け散るだろう。


 次に別の剣を手に取る。こちらは厚みがあり頑丈そうだが、少し重くて取り回しに支障が出る。


 「これもダメか……」


 何本も試したが、結果は同じだった。どれも名品ではある。だが、私の力に耐えうる武器は見つからない。


 「嬢ちゃん…それは膂力変換魔法か……普通の武器じゃダメだな」


 亭主が苦笑する。


 「……すみません…」


 私は肩を落とした。


 ドルガンが横で腕を組み、低く呟く。


 「お前の力に耐える剣……やはり特別な素材が要るな」


 私はうなずき、クラウ・ソラの小手に触れる。


 「やっぱり、東方の島国へ行くしかないのかな」


 亭主は太い腕を組みながら、私とドルガンを交互に見やった。


 「お嬢ちゃんとドルガンは、その力でも壊れない剣を探している。そうだな?」


 「あぁ、そうだ」


 ドルガンが低く答える。


 「叔母のところに行っても素材がないと言われたところだ」


 「なるほどな。たしかに東方の島国に行けば“ヒヒイロカネ”という伝説の鉱石があると聞いたことはある。だが……」


 亭主は渋い顔をして首を振る。


 「その国がどこにあるのか、我々もはっきりとは知らん」


 「二百年前に現れた勇者が、そこの出身らしいってことまでは調べたんだけどね。行き方は……これから調べるしかないか」


 私はため息をついた。


 「すまんな、嬢ちゃん……」


 亭主が申し訳なさそうに言った。


 「いえいえ、私がバカ力なのが悪いんです。それに、ここにある武器は本当に素晴らしいものばかりですよ」


 私は剣の並ぶ棚に目を向け、ひとつひとつの輝きを見ながら微笑んだ。


 亭主は誇らしげに鼻を鳴らす。


 「うちはドワーフ王国の中でも指折りの職人たちの品を揃えているからな。先日も、久々に帝国の商人が買い付けに来たぞ」


 「ゴーレムがいなくなったおかげですね」


 私が軽く冗談めかして言うと、横でドルガンがニヤニヤと笑っているのが目に入った。


 ――杖と双剣が完成するまで二十日。


 その間に、東方の島国への手がかりを探す必要が出てきた。


 「赤龍にでも聞いておけばよかった…」

 読者の皆様、いつもありがとうございます。

 ドワーフ王国の武器屋でのやり取りを描きました。

 エレナが求める剣にたどり着くには、どうやら東方の島国へ行く必要がありそうです。伝説の鉱石ヒヒイロカネの存在も明らかになり、物語はさらに広がりを見せます。

 杖と双剣の強化、その間にエレナたちは次なる手がかりを探しだす事ができるのでしょうかーー!?


 次話は9/30火曜日22時に公開予定です。

 引き続き宜しくお願い致します。


 エレナ達を暖かく見守って頂けますと幸いです。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

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