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転生勇者と裏切りの聖女〜魔王討伐から始まるエレナの戦い〜  作者: WAKUTAKU
第5章 深き渓谷の国、ドワーフ王国
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その14 「深海の谷での別れ」

 赤龍の巨大な背にしがみつきながら、私は谷底を一望していた。

 眼下に、レーナ、ラン、ドルガンが必死に魔人の群れと渡り合っているのが見えた。


 「赤龍、あそこ……!」


 『行くぞ、掴まっていろ』


 赤龍の声と共に、空気が爆ぜる。

 赤き翼が広がり、気流を巻き起こしながら急降下していった。


 『ヴォォォォォ!』


 谷底に響く轟音。次の瞬間、赤龍の口から迸った炎の奔流が、三十体の魔人を一瞬にして焼き尽くした。

 炎は大地を這い、魔人たちは悲鳴すら上げる間もなく黒い塵と化して消える。


 「は……?」


 戦っていた三人は呆然と立ち尽くした。


 レーナは水魔法で障壁を作っていたようだ。ランは双剣を構えたまま固まり、ドルガンは半開きの口で赤龍を見上げている。


 「赤龍、すごいな!」


 『我の炎は全てを焼き尽くす』


 私は赤龍の背から飛び降り、仲間たちの元に着地した。


 「ただいま!」


 その笑みは、戦場に似つかわしくないほどあっけらかんとしていた。


 「…エレ…」


 ランが私の名前を呼ぶより先に、レーナが私に抱きついてきた。


 「……ごめん」


 普段強気な彼女が呟く。


 「罠に気づけなかった私のせいで…エレナが落ちて……」


 私は思わず笑みをこぼし、レーナの肩を軽く叩いた。


 「私がそう簡単に死ぬわけないだろ。心配させて悪かったな」


 その言葉にレーナの目が揺れる。

 安堵と悔しさが入り混じった複雑な色。


 そこへランとドルガンが割り込んできた。


 「エレナさんが居なくなって、レーナさんが焦ってて大変だったんですから!」


 「そうだぞ。冷静さを欠いて一人でブツブツ言っておったわ」


 「ちょ、ちょっと!あんた達黙ってなさいよ!」


 レーナが真っ赤になって怒鳴る。

 その姿に、場の空気が少し和らいだ。


 ランは息を整え、半獣神化を解いていつもの姿に戻る。体が小さくなり、伸びていた爪と牙が収まり、銀髪も落ち着きを取り戻した。


 私はその変化を見届けて頷いた。


 「ラン、さっきの姿もいいね!」


 「……ありがとうございます!」


 ランは照れながらも力強く答える。


 ドルガンも腕を組みながら近づき、低い声で言った。


 「勇者よ、お前なら無事だと思っていたぞ」


 「……ありがとな、ドルガン。仲間を守ってくれて」


 「礼を言うのは俺じゃなく、仲間にだ」


 そんなやり取りを、赤龍は黙って眺めていた。


 『ふむ……良い仲間に恵まれておるな、エレナ』


 その一言に、私は少し誇らしげに微笑んだ。


 「赤龍、レーナとランだ。この二人と旅をしている。ドワーフのドルガンはこの王国内での監視役だ。三人とも、この人――龍は赤龍さんだ」


 「……初めまして、助けて頂いてありがとうございました」


 ランが背筋を伸ばして礼をする。


 「伝説の龍とこのような形でお会いできるとは思いませんでした。感謝申し上げる」


 ドルガンも低く頭を下げた。


 「は、初めまして……」


 レーナだけは私の後ろに隠れたまま、小声で呟いた。


 (蒼龍を撃退しているからバツが悪いのかな?)


 『うむ、我は赤龍――貴様ら人族からは南方の守護者と呼ばれておる。エレナとは友人だ』


(え、友人なの!?)


 思わず心の中で叫んだが、赤龍の満足げな表情に言葉を飲み込むしかなかった。


 そして、赤龍の鋭い眼差しがレーナへと向けられた。


 『蒼天の魔法使い……貴様は蒼龍と戦い、撃退したと聞くが?』


 「そ、そうだけど……それがどうしたのかしら?」


 レーナは私に更に隠れて身を引く。


 赤龍は牙を覗かせ、笑みのように言葉を続けた。


 『そう警戒するな。ただ、蒼龍を撃退した時の話を聞きたくてな。話してもらえぬだろうか?』


 レーナは一瞬ためらったが、すぐに肩をすくめて答えた。


 「……仕方ないわね。助けてもらったし、話してあげるわよ」


 赤龍は満足げに頷き、その巨体を少し低く構えた。

 エレナたちは見守るようにして、レーナを囲んだ。


* * * * *


 「――そんなわけで、私の大魔法が蒼龍を退かせたのよ」


 レーナは胸を張り、得意げに言った。

 かなり誇張されているような気もする。


 『おぉ!そんな大魔法を操れるのか?どれ、ここで使って見せよ』


 「こ、ここじゃ狭すぎて無理よ!」


 慌てて手を振るレーナ。


 『ふむ、残念だ……蒼龍の奴は好き好んで人里を襲う血の気の多い龍でな。実を言えば、我もごく稀に一騎打ちをしておった。結果は毎度我の勝ちだ。だが、それをヒューマンの女がたった一人で撃退したと聞いた時は驚いたぞ』


 「へぇ……でも、そんな噂や情報ってどうやって仕入れるんだ?」


 思わず私は尋ねていた。


 『なに、簡単なことよ。空を飛んでいる時に“集音魔法”を使い、空の上から人間どもの話に耳を澄ませているのだ』


 「……赤龍、お前……結構楽しんでやってるんだな」


 『ふはは! そうでもせねば退屈でならんからな。蒼龍の件も、そうやって調べたのだ。それとな、蒼龍の奴はどこかに引っ込んでしまって、姿を見なくなったぞ』


 私たち四人は顔を見合わせ、この世間話好きな龍に、ただ呆気に取られるしかなかった。


 『……エレナよ。少し二人で話がしたい』


 「え?…あ…じゃあ、すまない三人とも、少し離れててくれないか」


 レーナたちは顔を見合わせたが、素直に頷き、少し離れた崖の影へと移動していった。


 赤龍の巨大な瞳が、私ひとりに向けられる。


 「……赤龍、いいぞ」


 『うむ、感謝する。蒼天――あの魔法使いのことだが、あれは魔法でかなり無茶をしておるな』


 「無茶?」


 『戦いの後や普段の生活で、よく眠っておらぬか?』


 「あぁ……朝は弱いし、昼も寝てるし……正直、食べるか寝てるかのどっちかだな」


 『ふむ……やはりそうか。恐らくその眠気は、魔法の使い方の副作用だ。蒼天は魔法で身体を酷使しておる。理に逆らうような魔力を絞り出してな』


 「……体に良くないのか?」


 『死を急ぐほどではない。だが、命を削るような戦い方を続ければ、いずれ寿命を縮める。ああいう才は珍しいからこそ、早く消えてしまうのは惜しい』


 私はちらりとレーナの方を見やった。

 彼女はランとドルガンと何やら言い合いながらも、楽しそうに笑っている。


 「……わかった。ありがとう。気をつけて見ておくよ」


 『うむ。お前も仲間も愚かではなさそうだがな、忠告はしておこう。――ああいう面白いヒューマンが早死にするのは、我にとってもつまらぬからな』


 赤龍の声音には、嘲笑ではなく、どこか温かい響きがあった。


 『……それともう一つ。覚えておけ。この谷に落ちている黒の水晶石、赤の水晶石を持ち帰り、蒼天の杖の強化に使え。それをすれば、あの魔法使いの体調も少しはマシになるだろう』


 「本当か?実は赤の水晶石は私が持ってるんだ。黒の方はレーナが拾って持ってる」


 『うむ。それならば忘れるなよ――命を削るより、力を研ぎ澄ませ』


 赤龍の瞳が、ちらりとレーナの方を見やった。

 彼女は仲間と談笑しているが、その無邪気さにどこか儚さを感じてしまう。


 私は小さく頷き、三人にこちらへ戻るように手を振った。


 赤龍はゆっくりと首を傾げ、低く問いかける。


 『して、貴様らはこれからどうするのだ?』


 「とりあえず、鍛冶屋でレーナの杖を強化してもらってから、旧ブレイジング領に向かうつもり——その後で東方の島国へ行けたら行きたいって感じかな」


 私は簡潔に答えた。


 赤龍の目が一瞬、鋭く揺れた。洞窟の暗がりに、鱗の反射が小さく光る。


 『旧ブレイジング領か……貴様の故郷だな。墓参りか?』


 「あぁ、そうだね」


 赤龍は鼻を鳴らすように短く息を吐いた。熱風が私たちの周囲の塵を揺らし、岩肌が赤く染まる。


 『ならば一つ言っておく。ここ数日、あの辺りから嫌な気配を感じている。正直、我は近寄りたくない。気をつけるがよい』


 「嫌な気配って……魔族とか?」


 『わからん。だが関わりたくない種の気配だ』


 私は言葉を詰まらせた。故郷の名を口にするだけで胸に痛みがあるのに、赤龍の忠告は単なる脅しではない、古き者の直感だ。


 「……わかったよ、赤龍。ありがとう。」


 『うむ。では四人共、我が谷の上へ連れて行ってやろうか』


 赤龍はゆっくりと翼を広げた。


 洞窟内に重低音が波紋のように広がり、翼の影が私たちを覆い、岩場の輪郭が一瞬暗く沈んだ。


 『乗れ』


 声は低く優しく、まるで古い友人を誘うかのようだった。

 私達はためらわずに頷いた。


 赤龍が飛んだ時、洞窟の空気が一斉に変わった。振動が骨の奥まで響き渡り、谷の静けさが一瞬にして遠ざかる。


 一瞬で谷の入り口に着地した。

 赤龍は翼をゆったりと広げ、私たちを見下ろした。


 『エレナよ、またいつでも来い。話をしようではないか。貴様の話は我を飽きさせぬ』


 「……あぁ、わかった。また来るよ」


 私は軽く笑って応える。


 『餞別だが、我の鱗を一枚やろう。剣や防具の強化に使え』


 赤龍は私に一枚の鱗を差し出してきた。


 「いいのか?


 『うむ、使え』


 私は赤龍の鱗を手に入れた。

 そして、赤龍の鋭い眼差しがドルガンへ向けられる。


 『そして、ドワーフよ。王国は近い、ひと月に一度でよい、我のもとへ来て話をせぬか』


 「なっ……お、俺がか?」


 頑固者のドルガンが珍しく目を丸くする。


 『うむ。こうやって顔見知りになったのだ。酒の話でも、鍛冶の話でも構わぬ。我は長く生きすぎて、少々退屈しておるのだ』


 「……わかった。お邪魔しよう。」


 耳まで赤くしながら、ドルガンは短く答えた。


 赤龍は満足そうに喉を鳴らす。


 『よい、ならば今日のところはここまでだ……気をつけて行け。ではまたな、すぐ会うことになるだろう。エレナ。そして仲間たちよ』


 赤龍が大きく翼を広げた。瞬間、烈風が巻き起こり、谷底の砂利や水晶の欠片が宙に舞い上がる。

 その巨体が空へと躍り上がると、洞窟の闇は一瞬、紅蓮の光で染め抜かれた。


 ――轟音と共に、赤龍は深海の谷へと帰っていった。


 残された静寂の中、私たちは互いの顔を見合わる。


 「さてと、ヒルダさんのところに戻っていろいろ話そうか…」


 胸に残る熱と余韻を抱えたまま、私たちは帰路に着くのだった。

 読者の皆様、いつもありがとうございます。

 深海の谷でレーナ達が絶体絶命の中、現れたのは南方の守護者・赤龍。そして、魔人を全て焼き払った龍の背中から現れたのはエレナでした。

 エレナは仲間達と再会を経ますが、伝説の龍から託されたのは「警告」でした。

 彼女達の旅は、新たな局面へと入っていきます。

 

 次話は9/28日曜日22時に公開予定です。

 引き続き宜しくお願い致します。


 エレナ達を暖かく見守って頂けますと幸いです。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

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