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転生勇者と裏切りの聖女〜魔王討伐から始まるエレナの戦い〜  作者: WAKUTAKU
第5章 深き渓谷の国、ドワーフ王国
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その11 「最古の存在」

 ――意識が戻った。


 「……ここは……」


 鈍い痛みを感じながら、私は上体を起こす。

 

「…そうだ、レーナのうっかりで罠に落ちたんだ」


 ーーー


 「ーーエレナ!」


 仲間達の声が遠のきーー無防備に宙を舞う感覚。

 底が見えず、ただ暗闇へ引きずり込まれる。


 (これはマジでやばい……!)


 壁に手を伸ばすが、指先は虚空を掻くだけ。

 腰の剣を抜き、壁に突き立てようとするも、岩肌は硬く弾かれ、減速はできなかった。


 (このままじゃ……!)


 思い切って魔力を練る。


 「――火炎弾!」


 真下に向かって炎を叩きつける。

 轟音と熱風が逆巻き、落下速度が一瞬和らいだ。

 火球の閃光が暗闇を照らし、底が見えた。


 「もう一発!火炎弾!」


 今度は全力で。

 爆炎が地を薙ぎ払い、衝撃波が体を押し上げる。

 その瞬間、膂力変換魔法を防御へ最大出力で使う。

 それでも完全に勢いを殺し切れず、私は岩盤へと叩きつけられた。


 「……ッ、ぁ……」


 ふっと意識が飛んでしまった。


* * * * *


 ーー目を覚ました私は、すぐに体をチェックする。

 膂力変換魔法のおかげで、どうにか骨は折れていないらしいが、全身が軋む。


 「レーナめ、後でとっちめてやる」


 火炎弾の残滓が岩壁を赤々と照らし、揺らめく炎光の中で体を確かめる。

 至る所に痣が浮かび、呼吸のたびに痛みが走った。


 「……回復、しとくか」


 私は両手を胸に当て、息を整える。


 「天に住まう女神アルカナよ、我が願いは傷つき倒れた仲間を、その癒しの光で立ち上がる力を与えたまえ『癒光』」


 淡い光が全身を包み、痛みがゆるやかに引いていく。深呼吸をして、ようやく立ち上がれた。


 「まだ、痛みがあるな…私の下手くそな回復魔法だとこんなもんか…」


 火炎弾の残滓が残る中、暗闇の中を見渡す。

 どこまでも広がる岩壁、果ての見えない天井。


 (……いったい、どのくらい落ちたんだ?)


 前世で学んだ“自由落下”の公式が頭をよぎる。

 だが、秒数を計っていたわけでもない。

 無意味な思考だと思い、考えるのをやめた。


 「まさか、あんな罠があるとは…とりあえず……みんなと合流しないとな」


 レーナのように土魔法で階段を作りながら上を目指そうとも思ったが、私は彼女のように土魔法が上手くない。間違って崩落の危険もある。

 炎の明かりが揺らめく中、私は深淵の奥へと歩みを進める事を決めた。


 火炎弾の余熱がまだ周囲を照らし、赤黒い岩肌が揺らめいていた。

 その炎の残穢がふっと揺れた瞬間、私は気づいた。


 (……風?)


 地下深くに落ちたはずなのに、炎は酸欠で消えることなく燃え続けている。

 空気が循環している証拠だ。

 どこかに外界へと繋がる道がある。


 炎の揺れは一定の方向へと流れていた。


 「……よし、風の来る方へ進もう」


 私は剣を杖代わりにして立ち上がり、ゆらめく炎を頼りに、一歩ずつその闇の奥へと足を踏み出した。


 闇の中を進むと、やがていくつもの分かれ道に出た。どの道も同じように黒く口を開け、音もなく不気味だ。


 「……さて、どうしたものか」


 私は右手を掲げ、指先に小さな火を灯した。

 ――パチ、と小さな炎が生まれる。


 炎は真っ直ぐ立ち上り、次の瞬間、かすかに揺れた。どこかへと抜ける空気の流れがある。


 私は全ての分かれ道に指先をかざす。

 ある分かれ道の方で炎が靡いた。


 「……こっちだな」


 慎重にその道を選んだ。

 空気が流れている限り、この先には出口があるはずだ。


 風の向かう先を辿っていくと、壁がきらりと光を返してきた。近づいてみると、それは赤く透き通る鉱石――紅水晶だった。


 「……紅水晶石か。杖に使う黒水晶石とは違うけど、これも持ち帰れば役立つかもしれないな」


 私は腰の袋に慎重に欠片を収めた。

 勇者の剣を鍛えることはまだ決まっていないが、素材はあって困ることはない。


 さらに奥へ進むと、湿った風が肌を撫でた。

 滴るような水音の先に水脈を見つけた。

 けれども、ただの地下水にしては妙に温かい。


 「……温度が高いな」


 壁に触れると、ほんのり熱を帯びている。

 洞窟全体も次第に暑さを増していた。


 汗が額を伝い落ちる。

 紅水晶石の赤が炎のように揺らめき、ただの鉱脈ではない気配を告げている。


 「これは…地熱?……もしかして火山とかあるんじゃ?」


 息を整えながら、私はさらに奥へと足を踏み出した。


 紅水晶石の光を背に、さらに歩みを進める。

 けれど、妙なことに気づいた。


 「…そういえば…魔物の気配がしない」


 耳を澄ましても、羽音ひとつない。

 さっきまでコウモリが飛んでいたが、ここには一匹もいなかった。


 まるで、生き物そのものが息を潜めているかのようだ。


 「谷が深すぎるから……なのか?」


 だが、それだけでは説明できない。

 後方の紅水晶石の赤い光、熱を帯びた空気――そして、生き物すら寄せつけない静けさ。


 不安が胸をかすめた。

 まるで、この先に“何か”が待ち構えているようで。


 先を進むと、急に視界が開けた。

 巨大な空洞――まるで地下に隠された闘技場のような場所だった。

 前世で野球観戦をよくしたが、その球場がすっぽりと入ってしまうくらい巨大だ。


 足を踏みしめると、地盤が不自然に沈んでいる箇所があった。

 一見すると段差にしか見えない。

 だが目を凝らすと、それは“何かの足跡”にも思えた。人間や獣のものではない。あまりにも巨大すぎる。


 「…これ…足跡だよな……」


 胸がざわつき、空洞の端へと歩み寄る。

 そこには、牛や鹿の骨、そして翼竜の白い骸が山のように散乱していた。


 「……翼竜を餌に……」


 翼竜は高山にしか棲まない。私も本でしか見たことがない生物だ。それが、ここには無惨に転がっている。骨の一部には焼け焦げた跡すら残っていた。


 冷たい汗が背を伝った。


 「これは……本当に、やばいところに来てる気がする……」


 正体がわからない。

 ここまで巨大な足跡を残す魔物だ。

 戦うにしても、この暗さでは視界が悪すぎる。

 剣も魔法もまともに扱えない。


 (こんな場所で戦うわけにはいかない……!)


 私は呼吸を殺し、元の道に戻る。

 途中に、人ひとりが身を潜められそうな窪みを見つけていた。そこに滑り込むようにして身を隠す。


 「……とにかく、一旦隠れよう」


 岩肌が背中に当たり、汗ばんだ肌をさらに熱した。


 二十分くらいだろうか落ち着いた頃に、耳を澄ませば、奥の暗闇から「ドゥン……ドゥン……」と重い振動音が響き、地面が小刻みに震えだした。

 岩肌の隙間から吹きつける風は、灼けるように熱を帯びている。


 やがて、紅蓮の光が闇を裂いた。

 巨大な影が、洞窟いっぱいに広がる。

 ――紅き鱗、揺らめく炎を宿した瞳。


 (…龍……!)


 私は必死に息を殺し、気配を消す。

 気がつかれたら戦闘になる。

 そう本能が告げていた。


 (ドルガンが話していた南方の赤龍だ…)


 赤龍は立ち止まり、鼻先をこちらに向けた。

 低い唸り声とともに、熱風が窪みに吹き込む。


 ――嗅がれている。


 「……チィッ」


 隠れているはずなのに、あの瞳が私を真っ直ぐ射抜いた。


 炎の唸りと共に、隠れていた窪みに紅蓮のブレスが吐き出された。


 「――っ!」


 私は咄嗟にクラウ・ソラを顕現させ、刃に魔力を纏わせて正面に構える。

 灼熱の息吹が剣にぶつかり、爆ぜるような音を立てて拡散した。

 熱風が吹き抜け、髪の毛と服の端がじりじりと焦げる。


 (くっそ!見つかった!)


 炎の海の向こう、紅き巨影が私を値踏みするように見据えていた。

 赤龍の咆哮が、空気を揺さぶった。

 熱風が押し寄せ、皮膚を焼く。

 息をするだけで喉が焦げつきそうだ。


 「…とりあえず…やるしかない!」


 私はクラウ・ソラを顕現させ、魔力を膂力へと変換した。


 赤龍が大きく息を吸い込んだ。


 またブレスが来る――炎の奔流!


 「はぁぁぁッ!」


 剣を横に振り抜き、魔力を纏わせた刃で炎を切り裂く。それでも熱が襲い、髪の毛の端が焦げた。


 (……まずい。このまま真正面からやり合ったら焼き尽くされる。なんとか逃げる隙を作って、ここから逃げないと!)


 赤龍は翼を広げただけで突風を生み、巨体に似合わぬ速さで迫る。

 尾が薙ぎ払われ、岩壁が粉々に砕け飛ぶ。

 私は壁を蹴って跳躍し、竜の胸めがけて斬りつけた。


 魔王も切り裂いた一撃――しかし。


 「っ……硬い!?」


 刃は鱗に弾かれた。


 赤龍の瞳が細まり、楽しげに燃える。


 巨腕が振り下ろされ、衝撃波が走る。

 地面が爆ぜ、私は吹き飛ばされた。

 体が痛むけれど、止まれない。


 「まだまだ……!」


 立ち上がり、魔力を極限まで込める。

 赤龍の体を駆け上がり、空中で体をひねりながら横薙ぎに振り抜く。


 「はぁぁぁぁッ!」


 紅の鱗が砕け、赤龍の胸を斜めに裂いた。

 鮮血ではなく、赤い魔素の霧が迸る。


 切れた――!

 確かな手応えが腕に伝わった。


 (……いや、まだだ!)


 追撃が来ると思い、私はすぐさま剣を構える。

 しかし赤龍は動かない。

 ただ、ぎらつく双眸で私を射抜いていた。

 その圧力に思わず息を呑む。


「…っどうした!来ないのか!」


 自分を奮い立たせるように叫んだその瞬間、洞窟全体を震わせる低い声が響いた。


『……ほう。只者ではないな。貴様、何やら常人とは異なる“運命”を背負って生まれてきたな』


 その声は耳からではなく、直接胸の奥に響いてくる。


 赤龍は口元をわずかに吊り上げ、笑みとも威嚇ともつかぬ表情で牙を覗かせた。


『……気に入った。戦いはここまでだ。血を流すより、貴様の話を聞こう』


 燃える瞳が、試すように私を見据えていた。

 ただの魔物ではない――知性を宿した“最古の存在”の視線だった。

 読者の皆様、いつもありがとうございます。

 レーナが作動させた罠によって、谷底へ真っ逆さまに落ちてしまったエレナ。そこで待ち受けていたのは、この地に君臨する最古の存在、赤龍。

 熾烈な戦闘の末、赤龍は彼女に言葉を投げかける。

 果たして赤龍は勇者エレナに何を伝えるのか――!?


 次話は9/23火曜日22時に公開予定です。

 引き続き宜しくお願い致します。


 エレナ達を暖かく見守って頂けますと幸いです。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

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