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転生勇者と裏切りの聖女〜魔王討伐から始まるエレナの戦い〜  作者: WAKUTAKU
第5章 深き渓谷の国、ドワーフ王国
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その10 「実在する神」

 深海の谷は、地を裂いたかのような暗い裂け目だった。恐らく底まで光は届かず、真っ暗なのだろう。


 「あそこに我々ドワーフが作った階段がある」


 少し先の岩肌に、古くからドワーフたちが削り出した足場が点々と並び、鉄板や鉄杭で補強されている。

 階段と呼ぶには心許ないが、これを伝って少しずつ谷底を目指すしかない。


 「ひぇぇ……む、無理……」


 最初に悲鳴をあげたのは、やはりレーナだった。

 足場の縁に立った瞬間、彼女の顔は真っ青になった。


 「レーナ、頑張るしかないぞ…」


 私は後ろから彼女の背を軽く押した。


 「ちょ、ちょっ!足が震えるの!ラン、手を繋いで!」


 「はいはい、こういう時のレーナさんは可愛いなって思えます」


 ランはレーナの手を握り、慎重に足場を降り始める。


 「……蒼天の魔法使いが、高所で子供みたいに泣き言とはな」


 無骨なドルガンがぼやいた。


 「う、うるさいわね!下を見てみなさいよ!真っ暗で底が見えないのよ!?こんなの、落ちたら即死確定じゃない!」


 「…確かに……」


 ランも思わず下を覗いて顔を強張らせる。


 「…ドワーフ達が作った足場を信じろ」


 私は前を向き、足場を降り出したが、数歩しか歩いていないところで、レーナがある提案をしてきた。


 「……やっぱり、私ここで待ってるわ。エレナ、素材を取ってきて、晩御飯あげるから」


 レーナが足を止め、岩肌にしがみついたまま震える声で言った。


 「は?お前なぁ……ヒルダさんはそんなの絶対許さないと思うぞ。なぁ、ドルガン?」


 私は無骨な戦士に話を振る。


 「……その通りだ。叔母は“弟子を鍛えるなら地の底へ叩き落とす”が口癖だからな。杖を叩き折られるぞ」


 「ひ、ひぃ……」


 レーナの顔はさらに青ざめ、今にも泣き出しそうだ。頭を抱えて座り込んでしまった。


 ランが小さく息をつき、レーナの手を優しく握った。


 「レーナさん。もう下を見ないでください。私の手だけを握って、前を見て降りましょう」


 「……ラン…惚れちゃいそう……」


 (吊り橋効果というやつか……)


 今にも涙が溢れそうな潤んだ瞳を、ランに向けていた。


* * * * *


 谷を降り出して、いくつかアクシデントがあった。

 レーナが足場を踏み外しそうになったり、ブラッドバットやヴェノムバットという大型コウモリの魔物に襲われたりしたが、順調に谷を降り続けられた。

 だが、まだ黒の水晶石の影すら見つからない。


 足場を照らす灯りが赤く揺らぎ、気づけば岩壁が夕闇に沈んでいた。


 「谷は太陽の光も届きにくいからな……今日はここまでにするか」


 「やったー!はやく休みましょう」


 ちょうど、ドワーフ達が休んだであろう横穴を見つけ、私たちはそこに身を寄せる。

 レーナが土魔法で、いつものかまくら型テントを作り出した。


 「…便利な魔法だ…俺は外で見張る…」

 

 ドルガンはかまくら型テントに背を預けて腰を下ろした。

 私たちが女三人だから気をつかってくれたようだ。


 「そんなの悪いから、交代で番をしよう」


 結局、私たちは交代で夜番を務めることにした。


 私の番になったとき、焚き火の光に照らされるドルガンの横顔に声をかける。


 「なぁ、ちょっと聞いてもいいか?」


 「…うむ…分かる範囲なら答えよう」


ドルガンは私の方に顔を向けて座り直した。


 「新生魔王軍って聞いたことないか?」


 「……知らんな。お前が討伐した魔王軍ではないのか?魔王が討たれてから、魔人の情報はないな」


 「じゃあ、四魔将や……回復する魔人とか?」


 「いや…初耳だ」


 私の問いに彼は首を振るばかりだった。

 やがて、今度は彼が口を開いた。


 「……一つ聞かせろ。なぜ勇者でありながら、冒険者として身を隠す?理由は知らんが、帝国の指名手配は終わったのだろう?」


 焚き火の炎が揺らめく中、私は――ありのままを話した。全てではなく、必要なことだけを。


 ドルガンは黙って聞き、最後に短く言った。


 「…なるほど…わかった。ヒューマンの世界は難しいな」


 それ以上、彼は何も問わず、ただ炎を見つめ続けていた。


* * * * *


 翌朝――。


 「おい、レーナ! 起きろ!」


 「うぅん……あと一つ鐘……」


 「うるさい、起きろ!」


 私はレーナを強引に叩き起こした。


 「今日、谷底まで行くからな。覚悟しろよ!」


 「……うぅ、ここで寝てたい」


 レーナはまた涙目でぶつぶつ言っていた。


 まだ一つ鐘が鳴る前だろう。

 私たちは早めに出発し、谷底を目指すことにした。


 ランが手を引いて歩くレーナは、相変わらず高所におびえて足が重い。

 道中、再び震えのせいか、足場を踏み外しそうになるが、その度にランが助けていた。


 一方で、私とドルガンは少しずつ打ち解け、戦いの話や世間話を交わすようになっていた。

 彼は自身が知っている事はよく話してくれる。


 その中で特に興味深かったのは『女神アルカナ』の事だ。


 「知っての通り人族という括りは、エルフ、ドワーフ、獣人族、ヒューマン、この地上世界に生きる者をまとめた言い方だが……寿命の長さも、その順に並ぶ。それは、この地上に生まれた順番にも言える」


 ドルガンの低い声が、谷の岩肌に響く。


 「五十年くらい前に会ったエルフの研究者によれば、エルフが女神アルカナに創造されたのは約一万年前のことだそうだ」


 「一万年……」


 私は女神の実在について、思わず息をのむ。


 (…啓示を受けたあの時の声『ようやくここまできた』あの声は女神ーー?)


 「研究の話はよくわからないが、現存するエルフの長老が三千歳以上。長老には親が居たそうだ。親なら何か知っているかもしれんが、既に亡くなったとの事だ。エルフは不老不死と言われているが、死因の殆どが流行病。お前らも知っての通り魔法で病は治らん。エルフは、医療の発達しているヒューマンと交流がほぼないから、病気になると死を待つだけだ…」


 「三千歳…途方もないご年齢ですね…獣神は父で十代目となりますが、まだ歴史としては千年程度でしょうか…」


 「寿命が短いヒューマンには完全に神話だな」


 私は相槌を打つ。


 「我々が魔法の詠唱で女神アルカナの名を借りるのは、創造者へ尊敬を込めた形式なのだろう。だが、エルフの研究では“女神アルカナは実在した存在"という話が有力だ」


 高所恐怖症で岩にしがみついていたレーナも、この話題には目を輝かせた。


 「じゃあ、龍はなんなの?あの蒼龍とか。魔物とは言えないわよ」


 「龍種はエルフより古い存在だ。この地上で最古の生物だとエルフの研究者は話してたな。龍はこの世界に五頭存在するそうだ。北の黒龍、東の蒼龍、西の白龍、南の赤龍。蒼天、お前が撃退したのはその一頭ということになる。」


 「ん?最後の一頭は?……」


 「我々ドワーフの伝承にも存在しない幻の龍だ」


 レーナは怖さも忘れて聞き入っている。


 「じゃあ、魔王や魔族は一体……?」


 ランが問いかけた。


 「もともとこの地上に魔族は存在せず、約千年前に突如として現れたそうだ。彼らと我々人族はその頃から争っていたそうだ。そして、五百年前に現れたのが“魔王”だ」


 「なるほど……」


 「エルフの研究者はこう言っていた――女神がいるように、地下には魔の神、魔神がいるのではないかとな…」


 ドルガンの声に、谷底から吹き上げる冷たい風が重なり、背筋が少しだけ震えた。


 (魔神……リサがああなったのは魔神が関係しているんじゃないか……)


 「と言う事はさ、成人したヒューマンだけが受ける女神の啓示って、本当に女神が直接指示してるんだろうな?」


「そうね。そう考えるのが妥当でしょうね」


 レーナが腕を組んでうなずく。


 「でもさ、なぜヒューマンだけに?」


 「うむ、ヒューマンが人族の中で一番か弱い生き物だからだと言われている」


 「か弱い?」


 「お前らは例外だがな。ヒューマンには我々のような膂力や体力もない。寿命も短い。だからこそ、女神が庇護して導いている――そういう考え方だ」


 「私はか弱いですけどね」


 ……


 その場の全員がレーナを無視した。


 「……え、なに?なんで無視するのよ?」


 「エルフやドワーフって女神の啓示については、どう思ってるんだ?」


 「特に何も思わんぞ」


 「ヒューマンの中には、女神からの啓示を受けられない人族は、劣等種族だとか考える人達も多いんだ」


 「なるほど…ヒューマンから見るとそうなるのか。帝国の商人や冒険者達がドワーフ王国にたまに来るが、そんな話は聞いたことがなかった」


 「たぶんですけど、そういう考えの人はそもそも来ないんですよ。関わりたく無いから…」


 「そういうものなのか…」


 「ものすごく興味深い話だったよ。ドルガン、教えてくれてありがとう」


 私は笑顔で話を切り上げた。


 「そ、そ、そんな事でいいなら……い、いつでも話してやる」


 ドルガンの耳が真っ赤に染まっていた。

 その不器用な姿に、思わず口元が緩んだ。


 「ちょっと!か弱い私を無視しないでってば!」


* * * * *


 谷底へ降りる足場を慎重に進んでいくと、側面にぽっかりと口を開けた洞窟を見つけた。

 中からは冷たい風が吹き出しており、何かを隠しているような気配が漂っている。


 「ここに……恐らく黒の水晶石があるぞ」


 「ドルガン知ってたのか?」


 「昨晩、素材収集しているドワーフに話を聞いておいた」


 (ドルガンは本当に頼りになるな。足を引っ張らなければいいけどと思った事は心の中でお詫びしておこうか)


 私たちは灯りを頼りに洞窟へと足を踏み入れた。最初は湿った岩肌ばかりが続いていたが、さらに奥へ進むと――。


 「見てください、あれ!」


 ランの指差す先で、壁一面に赤や黒の結晶が鈍い光を反射していた。


 「……見つけたか」


 近づいてみると、黒の結晶はレーナの杖に嵌め込まれた青い水晶と同じような輝きを放っていた。


 「これだけあれば十分だな」


 私は剣の切っ先で岩を割り、結晶を取り出した。ランも双剣の刃を使って、慎重に採掘を手伝ってくれる。


 「ふぅ……青い水晶と同じくらいの大きさ、これで条件は満たせるはずよ」


 レーナは手にした黒い水晶を光にかざし、満足そうに微笑んだ。


 「よし、回収は完了。あとは……ここから無事に戻るだけだな」


 そう言った瞬間、視界の端でぴょこんと跳ねるものがあった。

 レーナのアホ毛――嫌な予感しかしない。


 「おい、レーナ、ストップ! 絶対に動くな!」


 「? ストップって何よ?」


 レーナがきょとんと振り返った拍子に、壁へ添えた右手がわずかに沈む。


 カチリ、と乾いた音。


 「……え?」


 次の瞬間、私の足元の床がガコンと割れ、空気が抜けるように下へと落ちていった。


 「わぁぁぁ――!」


 「エレナさん!」

 「エレナ!」

 「勇者!」


 三人の叫びが遠のき、私の体は闇の中へと吸い込まれていく。

 読者の皆様、いつもありがとうございます。

 女神の伝承についてドルガンが教えてくれました。

 女神が実在するーーそう聞いたエレナは心当たりがあります。それは十五歳の女神の啓示の日ーー。


 次話は9/21日曜日22時に公開予定です。

 引き続き宜しくお願い致します。


 エレナ達を暖かく見守って頂けますと幸いです。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

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