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転生勇者と裏切りの聖女〜魔王討伐から始まるエレナの戦い〜  作者: WAKUTAKU
第5章 深き渓谷の国、ドワーフ王国
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その8 「ドワーフの鍛治師」

 朝食を終えた私は、ドルガンに声をかけた。


 「ねぇ、ドルガン。知っている武器屋に連れて行ってくれないかな?」


 「武器屋…数軒は知っている。だが――」


 彼は顎に手をやり、少し考えてから続けた。


 「お前に合うような剣があるかどうかは保証できんぞ。ドワーフの剣は重さや癖がある」


 「これを持ってもらえたらわかると思う。これより、硬くて丈夫な金属の物がほしい」


 「どれ、見せてみろ」


 私はドルガンに剣を渡した。

 渡すとドルガンは眉をピクリと動かした。


 「…片刃なのに重いな…だが、ドワーフ王国製の剣だな?これより硬い物か…わかった。知っている鍛治屋へ連れて行こう」


 「助かるよ」


 そう言うと、横でレーナが口を開いた。


 「だったら、私も聞きたいことがあるの。この杖を作ったドワーフを探してるのよ」


 そう言って、彼女は青水晶の杖を取り出した。


 ドルガンの目が細められる。


 「……ふむ。妙な造形だな。少なくとも俺は見たことがない」


 彼の指が、杖の木材の細工や青水晶の埋め込みをなぞる。


 「頭の水晶は私が後からつけたの」


 「なるほど…だが、装飾は華美、強度も精度も高い。……これは本当にドワーフの仕事か?」


 「どういうこと?」


 「いや、ドワーフの作る物にしては美麗すぎる。ドワーフの作るものは少し無骨なところがある。だが、これは美しい」


 レーナは肩をすくめた。


 「私も詳しくは知らないの。ただ『ドワーフ王国製』としか聞いてなくて、作った本人に会いたかったのよね」


 「……なるほど」


 ドルガンは腕を組み、しばし沈黙した。


 「どちらにせよ、俺の知っている鍛冶屋を訪ねてみるがいい。王国内でも古株のひとりだ」


 「助かる!」


 思わず私は頭を下げた。


 ドルガンはわずかに鼻を鳴らした。


 「勘違いするな、お前達に同行するのは俺の仕事だ。それにーー」


 彼は一瞬だけ視線を逸らし、低く呟いた。


 「ドワーフの鍛治屋や武器屋はワシより堅物が多い。ワシがついていかないと話すら聞いてくれん」


 (……無骨だけど根は優しいな)


 私たちはドルガンの後ろ姿を追い、石畳の広がるドワーフ王国の街並みを歩き出した。


 岩肌を削って造られた街は、建物も道も頑丈そうな石造り。通りには炉の煙や鉄の匂いが漂い、職人たちの威勢のいい声が響いていた。


 「おう、ドルガン!」

 「今日も仕事か?」

 「女将は元気か?」


 通りすがるドワーフたちが次々と声をかけてくる。彼は表情ひとつ変えず、低い声で短く返していた。

 ――けれど、そのやり取りを見ているだけで、彼がどれだけ人望を集めているのかが分かる。


 (……ドルガンは街の人達から信頼されてるんだな)


 そんなことを考えていると、横から妙な匂いが漂ってきた。


 「レーナさん……それ、何ですか」


 ランが指差すと、レーナはもう両手に焼き鳥串を何本も抱えていた。


 「え?見れば分かるでしょ。焼き鳥よ焼き鳥!炭火でじゅうじゅう焼いて、タレがしみ込んでて最高なのよ!」


 「いえ、焼き鳥なのはわかります。朝食さっき食べましたよね…」


 タレが滴って石畳にポタポタと落ちている。


 「……いつの間に買ったんだ?」


 「レーナさん、タレがたくさん垂れてます」


 「ふぁいほうぶ」


 「食べてから喋れ!」


 頬をふくらませながらも、レーナは幸せそうに串を頬張っていた。


 (……後で一本貰おうか)


 「ここだ」


 ドルガンの声に顔を上げると、石造りの堂々とした建物の前に立っていた。


 宿屋から南方面に歩いた場所にある鍛冶屋。分厚い扉の向こうから、カキン、カキンと鉄を打つ規則正しい音が響いてくる。炉の熱気が扉越しにも伝わってきた。


 「ワシが先に入って話をつけてくる。お前らはここで待っていろ」


 「わかった、お願いするよ」


 ドルガンは重い扉を押し開け、煙と火の匂いに包まれながら鍛冶屋の中へと消えていった。


 「……レーナ…それ一本くれ」


 「いやよ」


 「お願い!レーナ様」


 私は手のひらを合わせて頬につけ、お願いのポーズをした。


 「…仕方ないわね。この私がケチくさいと思われても嫌だし」


 「ありがとう、レーナ様」


 「エレナさん…」


 焼き鳥を食べつつ待っていると、ドルガンが鍛冶屋の中から顔を出した。


 「入れ。それと気を悪くするなよ。ここは少し変わり者ドワーフだ」


 中へ入ると、熱気と金属の匂いに包まれた工房だった。炉の赤い光に照らされて、鉄槌を握る女ドワーフがこちらを振り返る。逞しい腕に革の前掛けをかけ、額には汗が光っている。


 「ほう、ヒューマンと獣人族の娘とは珍しい組み合わせだわさ」


 彼女は槌を置き、こちらへと歩み寄ってきた。


 「こんにちは、私はエ――」


 「待ちぃな」


 名乗りかけた私の言葉を遮り、女親方は無骨な指を差し出した。


 「アンタらの手を見せな。言葉は不要だわさ」


 「え?」と戸惑う私の手を強引に取ると、ざらついた親指で掌をなぞった。


 「……ほう、よく剣を握り込んだ痕。斬り込みの衝撃で骨まできしんでる。あんた、膂力変換魔法使ってるだわね?」


 私が驚いていると次にランの手を取る。


 「こっちは……双剣か。刃の衝撃が両の指に残ってる。踏み込みは鋭いが、まだ力が浅い。鍛錬の途中ってとこだわさ」


 最後にレーナの手を取る。


 「……ほぉ?」


 眉をひそめて掌をじっと見つめた。


 「杖の跡、表とは違い手の平は硬いから鍛錬しているな。だが……杖の水晶が自分の力についてきていないからイラついているーー」


 「っう…」


 レーナはぐっと言葉を詰まらせた。


 女親方は分厚い腕を組み、私たちを鋭く見据えた。

 煤で黒く染まった頬に刻まれた皺は、炉の熱と鍛冶場の年月を物語っている。


 「言葉なんざいらんよ。手を見りゃ、その者が何を握り、どんな血を流してきたか全部わかるだわさ――特に金髪の嬢ちゃん、アンタの望みは“ただの武器”じゃ応えられないんだろう?」


 その眼光に、私は息を呑んだ。


 「……はい、その通りです」


 彼女は口の端をつり上げ、豪快に笑った。


 「ふん、やっぱりな。――よし、名乗るだわさ。ワタシャ、ドワーフ鍛冶師ヒルダ。見込みのある嬢ちゃん達の話なら、じっくり聞いてやるだわさ」


 「あ、ありがとうございます!」


 私とレーナは互いに視線を交わし、ドワーフ王国に来た理由を語った。


 「金髪の嬢ちゃんは、膂力変換魔法に耐えられる武器を求める。青髪の嬢ちゃんは杖を打った鍛冶師を探してる――そういうことかい?」


 「はい、その通りです」


 「……膂力変換魔法ねぇ。普通の剣でも十分持つはずだが?」


 「それが……持たないんです。実際に見てもらえますか」


 私は昨日の散歩中に購入した金属の棒を取り出す。

 胸の奥から血管に魔素を巡らせ、一気に膂力変換を発動する。


 バキィィッ!!


 鋼鉄の棒が悲鳴を上げ、手の中で無惨に砕け散った。金属片が床に飛び散る。


 ヒルダとドルガンの瞳が大きく見開かれる。


 「な、なんと……っ」


 ドルガンが思わず声を漏らす。


 ヒルダは一瞬絶句したあと、腹の底から笑い声を上げた。


 「はぁっはっは! こりゃ傑作だ! 嬢ちゃん、この鋼を握力で壊す奴なんて聞いたことがねぇさ!ドルガン、あんたなんか、この娘に本気で抱きつかれたら腰が粉みじんだわさ!」


 「伯母上!縁起でもないことを言うな!」


 「……おば?」


 私とランが揃って驚きの声を上げた。


 その横で、レーナがニヤリと笑う。


 「やっぱり似てると思ったのよ。女将さんとも瓜二つじゃない」


 「炉火亭に泊まってるのかい?女将のヘルダは妹さ。ワタシャが姉ってわけだわさ」


 (豪快な姉妹だな)


 「……で、金髪の嬢ちゃん。正直に言おう。ドワーフ王国で一番硬い剣を持ってきたとしても、アンタの力には長く耐えられん」


 「そっか……」


 思わず肩が落ちる。


 ヒルダはすぐにレーナへと視線を向けた。


 「さて、青髪の嬢ちゃん。アンタの杖だが――それを打った鍛冶師なら知ってるよ。もっとも、五十年も前に死んじまったがね」


 「……もう、この世にはいないのね」


 レーナの手に握られた杖が、ほんのわずか震えた。


 「伝説の鍛冶師ドルド。生前に何本か、似た造形の杖を打ってたのを見たことがある。ワタシャでも真似できるかどうか怪しい腕前だわさ」


 重苦しい沈黙が落ちる。


 「………」


 レーナは唇をかみしめ、私は金属の欠片を見下ろした。


 「え、えっと!」


 慌てて声を上げたのはランだった。


 「エレナさんもレーナさんも、そんなに落ち込まないでください…私が強くなりますから!」


 彼女の必死な声に、私とレーナは顔を見合わせた。


 「……ありがとう、ラン」


 「ほんと、良い子ね。ちょっとエレナにも分けてほしいくらい」


 「おい」


 私が睨むと、レーナはアホ毛をぴょこんと揺らして知らん顔をした。


 「……金髪の嬢ちゃん、まだ見せるものがあるんじゃないかい?」


 ヒルダの鋭い眼差しに、私は静かにうなずいた。


 「……わかりました。レーナ、ラン、あれを出すよ」


 レーナとランは短く頷く。


 私は右腕のオリハルコンの小手に意識を集中させた。


 銀の光が脈動し、次の瞬間――


 「顕現せよ、クラウ・ソラ!」


  眩い光が散り、空気が震えだした。

 読者の皆様、いつもありがとうございます。

 ドワーフ王国で目的の剣を探そうとしますが、やはり一筋縄ではいきません。

 レーナも杖の強化をしたかったようですが、製作者は既に亡くなっておりました。

 鍛治師のヒルダにクラウ・ソラを見せますが、果たして、エレナは自分の新しい剣を手に入れることができるのでしょうかーー!?


 次話は9/18木曜日22時に公開予定です。

 引き続き宜しくお願い致します。


 エレナ達を暖かく見守って頂けますと幸いです。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

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