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転生勇者と裏切りの聖女〜魔王討伐から始まるエレナの戦い〜  作者: WAKUTAKU
第5章 深き渓谷の国、ドワーフ王国
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その4 「ゴーレム退治 依頼完了」

 滝のような雨が、轟音と共にゴーレムを叩きつけていた。


 「グォォォォォォ……!」


 岩が軋み、砕けるような呻き声が谷に響き渡る。

 水圧はさらに強まり、硬質な岩の表面が徐々に削られていくのが見えた。


 「……効いてる!」


 私は剣を構えたまま叫んだ。


 「エレナ、ここからは任せたわ!」


 レーナの瞳は鋭く光っていた。


 雨に打たれるゴーレムの体から、ゴロリと大きな岩片が多数崩れ落ちる。


 「任せろ!」


 私は土台から飛び降り、クラウ・ソラを逆手に構えて突っ込む。


 「ハァァァァァッ!!!」

 

 魔力を込めて振り抜いた瞬間、クラウ・ソラは雷鳴のごとき轟音と閃光をまとい、柔らかくなった岩肌を胸部ごと一閃で断ち割った。


 轟音と共に、亀裂が胸から全身へと広がる。

 やがてゴーレムは耐え切れず、巨体をボロボロと崩した。


 「まだよ!」


 そうレーナが叫んだ矢先ーー。


 「グォォォ……」


 砕けたはずの巨体が、なおも呻き声をあげた。

 ゴーレムは膝を立てることはできず、這いずるように地を抉りながら、片腕だけを振り回してきた。

 その動きは鈍重で、避けるのは容易い。

 だが岩塊の腕が叩きつけられるたび、大地が震え、ひび割れが走った。


 「しつこいな……!」


 息を整えながら避け続けるうち、私は思い出した。


 (そうだ、ゴーレムはコアを破壊しない限り止まらない)


 たしかーー私は地面を蹴り、巨体を駆け上がる。


 「これで終わり!」


 クラウ・ソラを振り抜き、真一文字に頭を裂いた。

 砕けた岩の中から、真紅に輝く宝玉――コアが露わになり、鮮血のような光が輝く。


 次の瞬間、コアが脈動し、眩い光を放った。


 「……やばっ!」


 赤い光は爆発となり、熱と衝撃が一塊になって襲いかかり、轟音と共にあたりを吹き飛ばす。

 私は咄嗟にクラウ・ソラを盾代わりに構えたが、爆風に呑まれて宙を舞い、レーナが作った土台に叩きつけられた。


 「エレナ!!大丈夫!?」


 「いてて……大丈夫、かろうじで……」


 レーナは腰に手を当て、呆れたようにため息をつく。


 「もう……最後くらいかっこよく決めなさいよね」


 「無理言うなよ…前は爆発しなかったもん…」


 「とりあえず依頼は達成ね!」


 「……ああ、二人ともお疲れ様」


 「……」


 「ラン?」


 「え?あ、なんでもないです。お疲れ様でした」


 ランは小さく笑ったが、その瞳はどこか沈んでいた。


 一方、レーナは「どうだ」と言わんばかりに胸を張り、勝ち誇った顔をしている。


 「さ、とりあえず帰るか」


 私はクラウ・ソラを小手に戻す。

 その時――小さな異変に気付いた。


 「あれ……?小手にヒビが……?」


 爆発の直撃を防いだ代償か、オリハルコン製の小手の表面に細い亀裂が走っているように見えた。

 気のせいかもしれないと首を振ったが――その小さな傷がクラウ・ソラとの別れを告げる事になるとは、私はまだ知る由もなかった。


* * * * *


 夕焼けが町の屋根を赤く染めるころ、私たちは冒険者ギルドに戻った。

 扉を押し開けると、酒と喧噪。


 受付の男が、顔を上げた。


 「おや、ダメだったのか?」


 私はカウンターに拳大の赤い欠片を置いた。


 「ほら、ゴーレムのコアの欠片だ」


 男は目を丸くし、身を乗り出した。

 ギルド内もざわつきだす。

 

 「コアの欠片か……少し調べてもいいか?」


 「いいぞ、じっくり調べてくれ」


 ほどなくギルドの鑑定士が現れ、調べ出した。


 「間違いない。ゴーレムのコアの欠片だ」


 受付の男は、頭をがしがし掻いてから、苦笑いで頭を下げた。


 「……さすが蒼天の魔法使いのパーティーだ」


 「分かればよろしい」


 「念のため吊り橋に管理者が見に行くが、これを見る限り問題はない。報酬は先払いする」


 レーナは胸を張る。ランはくすりと笑い、私は肩をすくめた。


 男は帳面を繰り、引き出しから重い袋を取り出した。


 「報酬は銀貨五十枚だ。あのゴーレムは半年近く居座ってたからな……本当に助かったよ」


 ずしり、と袋が手のひらに収まる。心地よい重みが指先から腕へと伝わってきた。


 「依頼書に受領のサインをしてくれれば、これで完了だ」


 私は署名を済ませる。

 すぐに酒場から「おぉー!」と歓声が上がり、酒場全体の空気が一気に明るく沸き立った。


 「そういえば……依頼書に“討伐者の名前は公表しない”って記載があったが、どういうことだ?」


 「あぁ、それはな――」


 男は声を潜め、耳打ちするように説明した。私は黙って頷き、短く答える。


 「……なるほど、了解した。そういうことなら仕方ないな」


 「悪いな。気を悪くしねぇでくれ」


 受付の男は頭を下げた。その姿勢からも、この件にどれほど配慮が必要なのかが伝わってくる。


 「それと……道中で狩った魔物の素材を換金したいんだが?」


 「おう、任せろ! 見せてくれ」


 私は、ゴブリンの耳と爪の包み、オークの牙を四本、ウォーウルフの毛皮五枚を受付の男に提出した。


 受付の男は中身を確認して追加報酬を机に置いた。


 「ゴブリン素材は銅貨十枚、オークの牙も銅貨十枚、毛皮は銀貨五枚だな」


 「お、毛皮はそこそこだね!」


 「渓谷は少し気温が下がる。特に冬になるとドワーフ王国で毛皮がよく売れるからな」


 「なるほど……それと、ひとつ聞きたいことがある」


 「なんだ?言ってみろ」


 「この辺りに魔人が現れることはないか?」


 「魔人だと?」


 男は眉をひそめた。


 「たまに目撃談はあるが、魔王が倒れてからはめっきり聞かなくなったな。それがどうした?」


 「帝国筋の情報なんだけど、回復する魔人が目撃されたって話でさ。正直、信じ難いんだけど……念のため情報を集めている」


 受付の男は腕を組み、しばし黙考した。

 やがて首を振る。


 「いや、それは初耳だな。魔将ならともかく、魔人が回復だと?そんな話は聞いたことがない」


 「そうか……助かった。ありがとう」


 「もし何か情報が入れば伝えるぞ」


 私は軽く頭を下げ、礼を伝えた。


 受付で話をしていると奥のテーブルから、酔いの回った冒険者が一人、私に近づいてきてヒソヒソと囁いた。


 「なあ、あいつが本当に“蒼天”ってことは隣のお前が“猛獣使い”――ぐえっ」


 私は振り返らずに親指で肩口をぐいと押し、椅子ごと彼を正面へ押し戻した。


 「…誰が猛獣使いだ」


 私はその男を睨みつける。


 背中でレーナが「ぷっ」と吹き出し、ランが慌てて袖を引いた。


 受付の男がわざとらしく咳払いをした。


 「――あ~、ゴーレム討伐の祝いだ!ここにいる全員にギルドから一杯奢る!ここの三人に感謝しろ!エレナ、レーナ、ランの三人だ!」


 「「「うおおおおっ!!!」」」


 酒場全体がどっと沸き立ち、木のジョッキが打ち鳴らされる。


 「エレナ! レーナ! ラン! 万歳!!」


 名前を呼ぶ声が飛び交い、肩を組まれ、背中を叩かれ、三人は否応なく英雄扱いされた。


 ギルドの食堂では、香ばしい肉の串焼きや熱々のシチューが振る舞われ、安酒ながらも皆で掲げたジョッキは、どんな高級酒よりも心に染みた。


 レーナは早速肉を頬張り、ランは慣れない視線に少し居心地悪そうにしながらも笑顔を作っていた。


 「ふたりとも、今日はもう英気を養おうか!」


 「やった!お肉!」


 「レーナさん、財布の中身をちゃんと見てから注文してくださいね」


 「わかってるわよ。あ、エール、こっちにちょうだい!」


 わいわいとした喧噪に包まれた晩餐はやがて終わり、三人はギルドを後にした。


 夜風が心地よく、宿へ向かう石畳の道には、酒場から漏れる灯りと笑い声が遠く響いている。

 その中で、ランだけがうつむき加減で歩いていた。


 「……ラン、どうした? 元気ないぞ」


 問いかけると、彼女は一瞬迷ったように唇を噛み、やがて小さく呟いた。


 「……私、戦いで役に立てませんでした。エレナさんやレーナさんみたいに動けなくて……自信がなくなって」


 私は立ち止まり、彼女の肩に手を置いた。


 「ラン。私も最初から上手くできたわけじゃない。失敗して、悔しくて、必死に繰り返して――それでやっとここまで来たんだ」


 酔ったレーナも横から口を挟む。


 「そうそう、何事も経験よ」


 私は穏やかに続けた。


 「だから大丈夫。ランも経験を積んでいけば、きっと強くなる。役に立たないなんて思う必要はないよ」


 ランは少し目を潤ませ、力強く頷いた。


 「……はい。頑張ります!」


 彼女の瞳に、ほんの少しだけ自信の光が戻っていた。私は安心して笑い、三人で宿の灯りへと歩を進めた。


 宿屋に戻ると、レーナはドアを開けた瞬間にベッドへ一直線。


 「おやすみー……」


 「おい、風呂くらい入…」


 「グゥーグゥー」


 次の瞬間には、布団に飛び込んで寝息を立てていた。


 「……早いな」


 私は汚れたまま寝るレーナに呆れた。


 一方のランは椅子に腰かけ、真剣な表情で双剣を磨いていた。刃に映る灯りを確かめ、布で丁寧に拭き上げる手つきには、彼女なりの決意がにじんでいた。

 荷物の整理を始める姿も、どこか頼もしく見えた。


 私は浴室へと向かい、湯船に身を沈める。


 「あぁー気持ちいい。やはり風呂は疲れが取れる」


 前世からの習慣だろうか。熱い湯が疲れた体を解きほぐし、思わず深く息を吐いた。


 「魔人の情報はここにはないな。新生魔王軍についても無さそうだ。どうなってんだろうな」


 ゴーレムの戦いの余韻、そして一抹の不安――すべてが、じんわりと溶けていくようだった。


 やがて三人それぞれの夜は静かに更けていく。


* * * * *


 翌朝ーー。


 窓の外がまだ白み始めた頃、ランがそっと部屋を抜け出した。


 布団に潜ったままの私は、薄目を開けてその姿を見送った。


 (……ラン、頑張れ)


 心の中で小さく呟き、もう一度布団に頭を沈める。

 ふかふかの布団の温もりに包まれながら、意識は再び静かに夢の中へと沈んでいった。

 読者の皆様、いつもありがとうございます。

 ゴーレムを討伐したエレナたちは町へ戻り、冒険者ギルドで依頼完了の報告をしました。

 そこで開かれたお祝いの食事会は、三人にとって束の間の安らぎの時間となります。

 次回はいよいよ――ドワーフ王国への旅立ちです。

 鍛冶と鉱山の国で、どんな出会いと試練が待ち受けているのか。ぜひお楽しみに!


 次話は9/11木曜日22時に公開予定です。

 引き続き宜しくお願い致します。


 エレナ達を暖かく見守って頂けますと幸いです。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

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