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転生勇者と裏切りの聖女〜魔王討伐から始まるエレナの戦い〜  作者: WAKUTAKU
第5章 深き渓谷の国、ドワーフ王国
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その3 「ゴーレム退治、依頼開始」

 宿屋でしっかりと休んだ私たちは、一つ鐘が鳴る前――まだ朝もやが残る時間に町を出発した。

 ブレイザーと馬車を宿屋に預け、徒歩で渓谷を目指す。


 草原の朝はひんやりと冷たく、吐く息が白くなる。遠くで黒鳥が鳴き、静かなはずの景色に不穏な気配を添えていた。


 道中、ウォーウルフの群れが深い草むらの影から飛び出してきた。ツヤツヤの黒の毛並みに赤い眼。獲物を見つけた肉食魔物の目だ。


 「ラン、左から二匹!」


 「任せてください!」


 ランが双剣を閃かせ、素早く二匹の首筋を切り裂く。血が地面に散るより早く、私とレーナの魔法が残りを一掃した。


 「ふぅ…なんか魔物多くない?」


 剣を収めながら呟く。

 ここまでで、ゴブリンとオークにも出くわした。


 さらに進むと、今度はスライムが道を覆っていた。ぬるりと光を反射しながら、青々しい色の体がぴちゃり、ぴちゃりと音を立てて近づいてくる。


 「こういうのはまとめて――《サンダー》!」


 レーナの雷の槍が地面を貫き、スライムたちが黒い煙を上げて消滅した。


 魔物がかなり出てきたが、私たち三人にとっては準備運動にすぎないレベルだ。


 やがて、岩肌がむき出しの渓谷が姿を現した。

 谷底から吹き上げる風が冷たく、ひゅうひゅうと不気味な音を立てている。

 その谷をしっかりとした木製の吊り橋が繋いでいる。


 「……あの先にゴーレムが出るんですね」


 ランがごくりと唾を飲み込む。


 「行こうか、二人とも準備はいい?」


 私たちはうなずき合い、吊り橋の方へと足を進めた。

 一旦、吊り橋の手前で足を止め、ゴーレムについて確認した。


 この世界のゴーレム――それは岩がそのまま人型になって動き出したような魔物だ。表面は鋼鉄よりも硬い岩肌に覆われ、巨体から繰り出される一撃は小さな門くらいなら粉砕する。魔法耐性も持っており、並の攻撃魔法はほとんど通用しない。魔人すら上回る力があり、単体で十体以上の魔人を相手取れるほどだ。


 私が魔王城で見たゴーレムは、少なくとも身長五メートルはあった。


 「レーナはゴーレムと戦ったことあるの?」


 「あるわ……かなり苦労した」


 レーナは肩をすくめながらも、表情が引き締まっていた。


 (珍しく顔が引き締まってるな)


 「ランは?」


 「私は噂程度しか聞いたことないです……」


 「こうしようか、ランは足元を、私は上半身を攻撃」


 私も少し緊張していた。

 なかなか出会す魔物ではないからだ。


 「気を引き締めていこう。橋を渡り切ったら注意」


 私たちは互いにうなずき合い、吊り橋を踏み出した。


 橋を半分ほど渡ったところで、一番後ろを歩いていたレーナがぴたりと動きを止めた。


 「どうした?」


 私が声をかけると、彼女はぎこちなく振り返り、青ざめた顔で言った。


 「わ、私……こんな高いとこ苦手なの……」


 「なんだ、高所恐怖症なのか?」


 (なるほど、あの顔は怖くて強張ってたのか)


 「こうしょきょう?…それがなんなのか知らないけど、とにかく怖いの!足が震えるの!」


 「そういうのを高所恐怖症って言うんだよ」


 ランが首をかしげ、興味深そうに口を挟んだ。


 「レーナさんにも怖いものがあるんですね?」


 「ほんと、可愛いとこあるじゃん」


 私が笑った瞬間、レーナの目が吊り上がった。


 「笑ってないで!手を繋いでー!」


 「はいはい、お嬢ちゃん、手を繋いであげます」


 「エレナ…あとではっ倒すからね」


 「そんなこと言うなら置いていくよー」


 「待って!ごめんなさい!」


 レーナは涙目で私の手をぎゅうっと握ってきた。


 谷底から吹き上げる冷たい風が彼女のマントをはためかせ、丈夫とはいえ風で揺れる吊り橋が余計に不安を煽っているらしい。

 ランと私はつい顔を見合わせて笑ってしまった。


 ようやく吊り橋を渡りきった。

 レーナはその場にぺたりと座り込み、肩で大きく息をしていた。


 「……や、やっと渡れた……」


 「おつかれ。よく頑張ったな」


 私とランが苦笑しながら水筒を差し出す。


 ――その瞬間だった。


 ズゥゥゥン……!


 大地の奥底から響くような重低音が、谷全体を震わせた。


 「な、何の音……?」


 ランが息を呑み、私たちは一斉に谷の向こうを見た。


 岩壁が崩れ落ちるようにして、巨人のような影が現れた。


 「……でっっか!」


 それは私が魔王城で見たものよりも、さらに巨大だった。

 岩の塊が寄せ集まって人型を成し、頭頂は十メートルはあろうかという巨体。岩と岩がきしむたびに、ゴリゴリと耳をつんざく不快な音が鳴り、両腕を振るだけで岩屑が地面に降り注いだ。


 「……こ、こんなに大きいんですね……」


 ランが双剣を構え、レーナは杖を握りしめる。


 「いや…前に見たのはここまでなかった…」


 周囲には私たち以外の人影はない。

 私は一歩前に出て、右手に左手を添える。

 空気が震え、右手のオリハルコン鉄甲が光の粒子のように煌めき、私の右手の中に私の剣クラウ・ソラが顕現した。

 

 「行くぞ!」


 私がまず飛び出した。

 レーナがすかさず魔法を放つ。


 「《ファイアボール》!」


 火球が轟音と共にゴーレムの胸に直撃した。

 爆炎が広がり、岩肌を焼くように煙が立ち上る。


 「せいっ!」


 ランが双剣を逆手に握り、巨体の足回りに斬り込む。鋭い刃が岩と岩の隙間を狙って閃いた。


 私も続けざまに胴体へと剣を振るい着地する。

 クラウ・ソラの光刃が岩肌を切り裂いた――かに見えたが。


 「……やはり、効いてない」


 煙の中から現れたゴーレムは、びくともしなかった。

 焦げ跡や小さな傷はついているが、その巨体にとってはただの擦り傷程度に過ぎない。


 「グォォォォォォォン!!!」


 咆哮とも地鳴りともつかぬ音が谷に響き渡る。

 巨腕が振り下ろされ、地面に叩きつけられた瞬間、衝撃波で大地が裂けた。


 「うわっ!」

 「きゃっ!」


 私とランは飛び退いて難なく避けたが、周囲の地面には大きな亀裂が走り、砂塵が巻き上がる。

 まるで地震のように大地全体が揺れていた。


 「ちょっと! 威力がでかすぎるわよ!」


 レーナが顔をしかめながら叫ぶ。


 私は剣を構え直し、ゴーレムを睨みつけた。


 (正面からじゃ埒があかない……)


 そのとき、レーナが声を張り上げた。


 「ねぇ、二人とも!私が"集合"って言うまで、時間を稼いでくれない?」


 「何か考えがあるのか!」


 「あるわ!」


 彼女の瞳には迷いのない光が宿っていた。


 私は頷き、ランと視線を交わした。


 「よし、ラン、時間を稼ぐぞ!」


 「任せてください!」


 二人で同時に駆け出し、ゴーレムの注意を引きつけた。

 ランは双剣を閃かせて足元を狙い、私は上半身を執拗に切りつける。

 何度も二人で攻撃して金属を叩くような甲高い音が響いたが――やはり硬い。


 「くっ…手応えがないな」


 レーナは杖を地面に刺し、両手を天に掲げ、大きな魔法を使う準備をしているようだ。


 「レーナ!あとどのくらいだ!」


 「もうちょい!」


 その間にも、ゴーレムの巨大な足が振り下ろされる。地面が砕け、衝撃で砂塵が舞い上がった。

 ランは必死に避けていたが、額に汗を浮かべて動きが重くなっているのが見て取れる。


 「ラン、一旦引いて!レーナのそばへ!」


 「まだやれます!」


 強がるランの声が響いた直後――。


 ゴーレムの拳が地面を叩き砕き、その衝撃で飛び散った破片がランを直撃した。


 「くっ……!」


 体ごと吹き飛ばされたランは、レーナのそばまで転がる。起き上がれたものの、その表情には痛みが滲んでいた。


 「ラン、大丈夫?」


 「ええ、まだ……やれます……」


 それでも膝が震えている。


 「すぐに回復するから待ってなさい」


 レーナは左手で回復魔法《癒光》を使う。

 ランの体を淡い光が包み込む。

 魔法を同時に複数使っているのレーナを見て、ランは悔しそうだ。


 「こっちだ!ノロマ!」


 私は剣を構え、ゴーレムを挑発する。

 ちょっと――試したい技があった。


 巨体の足を駆け上がり、腕の突起を蹴ってさらに高く跳ぶ。

 頭部にまで到達した瞬間、渾身の力でその額を蹴り、さらに空高く舞い上がった。


 空中で体を捻り、回転をつけて――。


 「うりゃあああ!!」


 クラウ・ソラが閃き、ゴーレムの左肩を大きく斬り裂いた。


 「グォォォォォ!!」


 岩が砕ける悲鳴のような咆哮が響き、巨体がのけぞる。


 さらに、垂れ下がった左肩に魔力を込めた蹴りを叩き込む。


 「ドゴォォォン!」


 轟音と共にゴーレムはバランスを崩し、地響きを立てて尻餅をついた。


 「集合!!」


 レーナの掛け声に、私たちは一斉に跳び上がる。


 私とランは、レーナが土魔法で作り出した土台を足場にして待機。


 レーナは杖を掲げ、魔力を空へと注ぎ込んでいた。


 「テンペストレイン!!」


 瞬間、ゴーレムの頭上にだけ黒雲が渦を巻き、滝のような雨が降り注ぐ。

 轟々と叩きつける雨水に、巨体が軋みながら軋み、立ち上がろうとするも膝を折った。


 「この雨で体を柔らかくしようってことか?」


 「そう。前に遭遇した時に試したら効いたのよ」


 「ラン、ダメージは大丈夫か?」


 「レーナさんが回復してくれたから……大丈夫です。すみません、エレナさんに頼ってしまって」


 「いいんだよ。仲間なんだから」


 滝のような雨は吊り橋の方へ流れ、谷底へと轟々と落ちていく。


 「雨が激し過ぎてゴーレムが見えないーー奴はどうなった!?」

 読者の皆様、いつもありがとうございます。

 ドワーフ王国に向かうために、エレナ達はゴーレム討伐に向かいます。巨体で物理攻撃も魔法も効きにくいため苦戦しますが、レーナの魔法が炸裂します!

果たしてゴーレムを倒せているのでしょうかーー!?

 

 次話は9/9火曜日22時に公開予定です。

 引き続き宜しくお願い致します。


 エレナ達を暖かく見守って頂けますと幸いです。

 少しでも「面白い」「続きが気になる」と思われましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと嬉しいです。

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